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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第2章
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第96話 大須、再び



「おはようございます。時人くん。今日はよろしくおねがいしますね」

「おはようございます。マスター」

今日は週末、アルバイトのある日。そしてこの店恒例行事の定期ライブでもある。マスターに挨拶を済ませて裏に入りウェイターの格好へと着替える。肩からかけていたギターケースを下ろしてエプロンをつけて準備は完了だ。

「お疲れ様です」

裏から出てカウンターに入る。今日は大須も来るといっていたし楽しみだ。マスターもそう思っているのか機嫌もよさそうだ。いつもの三割り増し柔らかい微笑みをしている。

「いつも通りお昼過ぎに始めましょう。とりあえず開店準備を手伝ってもらえますか?」

開店前の静かな店内。マスターと二人で世間話をしながら開店準備を始めた。

「では今日はどういった曲を演奏していただけるのですか?」

「あー、今日は……。大須も来るので最近の曲も取り入れてみようかと思ってます。あとは年齢問わずに有名なものとか」

「なるほど。それは楽しみですね」

季節は夏だし夏曲も何曲か用意してある。夏曲はアップテンポなノリが多いので盛り上がるだろう。

「大須に弾いてるところ見せるのも久々ですから頑張りますよ」

可愛い弟分の大須の前ではかっこよくありたい。それを聞いたマスターがまた穏やかに笑った。



「時兄ぃすっごーい!」

流行のアーティストの一曲を終えると大須が店一番の拍手をくれた。

店内は賑わいをみせている。いつもは静かな喫茶店も今日ばかりはガヤガヤと騒がしい。

拍手と感想を飛ばした大須に手を挙げて答えると、大須から笑顔が返ってきた。大須と同じテーブルには朱音が着いている。前日から連絡も来てたが開始時間より早く来た朱音と少し遅れてきた大須が感動の再会を果たした。

「朱音ちゃん、時兄ぃかっこいいね」

「そうですね。カッコいいです」

それなりにガヤガヤとしている店でも広くないので話してる内容は聞こえる。少し照れるが誇らしい気持ちもある。

「兄ちゃん、次、何弾くんだ?」

「そうですね……」

常連のおじさんが軽く声をかけてきたので手癖で適当にギターを弾きながら答える。そのままアルペジオから曲を始めた。ライブはまだ始まったばかりだ。



「時人くん、一度休憩にしましょう」

「了解ですマスター」

マスターがアイスコーヒーを差し入れしてくれた。カランと氷がグラスの中を回る。

「時兄ぃこっち!」

休憩するのに気づいた大須に手招きをされた。やや笑ってそのテーブルに向かう。

「時人くん、お疲れ様です」

「かっこよかった!」

「ありがと」

ニコニコとしている大須の頭を雑に撫でると目を細めて喜んだ。

「久しぶりだな。元気にしてたか?」

「元気だよ!時兄ぃはメッセージ返してくれないから会えるの楽しみにしてた!」

「大須は返すと長いんだって」

レスポンスの悪さに不満があったらしい。だが大須は返事を返すと必ず返ってくる。適当に切り上げていた。

「時人くんはそういうところありますよね」

「朱音ちゃんわかってるー」

久しぶりに会ったというのに、この二人はすっかりうちとけているようだった。もともと人見知りしない大須と人と距離を置かなくなった朱音だ。二人にとってはこれが通常運転なんだろう。

「はいはい。気をつける」

「あ!時兄ぃの写真とったよ。見てみて」

大須がスマホの画面を俺に押しやる。さっきの曲を弾いている様子が写っていた。

「よく撮れてる」

「でしょー。さいのーあるから!」

大須は次にマスターを呼んで写真を見せていた。いい画角で撮れたことか俺を自慢しているのかわからないがそんなに自分の写真を見せ付けられると恥ずかしい。常連のおじさんにも自慢しようとしていたのでそれは止めておいた。

「大須くん、可愛いですね」

「そうだな」

マスターと話している大須を見つめて朱音が呟いた。祖父と孫の関係に思うところでもあるのだろうか、その目は寂しそうだった。

「朱音」

名前を呼んでその髪を撫でる。

「時人くん?」

「俺が触れたかっただけ」

不思議そうにこちらを見つめる朱音にそう返すと嬉しそうに笑った。

「いつでもいくらでも。時人くんになら」

「ありがとう」

「時人くん、仲がいいのは良いことですがそろそろいいですか?」

マスターが顔を覗かせて楽しそうに笑った。

「時兄ぃさー。朱音ちゃんが可愛いのはわかるけどこーきょーの場だからねココ」

大須もやれやれといった仕草をしている。俺は朱音と笑ってからもう一度ギターの置いてある席に戻った。



「時兄ぃあのね、今日、いっしょに夜ご飯食べたい」

ライブも終わってウェイターに戻る。店内はまだ客がたくさんいる。ライブは成功だったようでどの客も楽しそうだ。

「マスターとご飯じゃなかったのか?」

「おじいちゃんもいいよって」

マスターの方をちらっと伺うと微笑みながら頷いた。どうやら本当に許可をとったらしい。

「そうなら事前に言っとけって」

「ごめんなさい。でも、いい?」

「あー朱音?」

ニコニコとしていた朱音の様子を見る。今日は早めにシフトも終わる予定だったので家でご飯を食べる予定だった。つまり作るのは朱音となる。俺が一人で決めるわけにはいかない。

「問題ないです。ご一緒しましょう大須くん」

「やったー!朱音ちゃんのご飯だ!」

「大須うるさい。公共の場だからなココ」

はしゃいだ大須を嗜めた。ごめんと舌を出して笑った大須に反省の色は全く無かった。



「大須くん、食べたいものはありますか?」

スーパーで買い物をしながら朱音が大須に問いかける。

「んー。ハンバーグが食べたい!」

「じゃあ今日はハンバーグにしましょう」

朱音は普段何食べたいか聞くことはあまりない。自分の中で栄養バランスとか和風洋風などのジャンルのタイミングだとかスーパーの品揃えとかで決めているらしい。それでも何かを食べたいといえばそれを作ってくれる。朱音が断ったり嫌がったりするのを見たことが無い。何でも作れる自信ゆえか、楽しさか。

「やったー!大きいハンバーグがいい!」

これくらい大きいの!と体を目一杯使ってアピールする大須に朱音は任せてくださいと微笑みで返した。

「時兄ぃはハンバーグ好き?」

大須が振り返ってこちらに問う。カートを押しつつ後ろからぼーっと見ていた俺に急に飛んできたので少し驚いた。

「時人くんはハンバーグ好きですよ。前も嬉しそうにしてましたから」

朱音が当然のように答えた。

「やっぱり?時兄ぃ好きそうだもん」

そう言って大須が笑った。

「あれ、水樹と長月さんまた会ったね」

「友里、少し元気そうになったな」

「松山さん。こんにちは」

相変わらずの爽やかな友里は先日より体調を取り戻したらしい。前にも行った彼の家はココから近い。一番近くの大きいスーパーなのでよく来るようだ。

「ところで……。二人ってもう子どもいたの?」

大須を見てからかうように友里は笑った。

「違うって。こっちは大須。バイト先の店長の孫だ」

「黒瀬大須です。時兄ぃのお友だち?」

「ご丁寧にありがとう。松山友里です。二人のクラスメイトで友だちだよ」

「時兄ぃに友だちが増えてる……」

「そんなことに驚くなよ。俺にも友達は……大勢とは言わないけどできたんだって」

違う方向に驚きを見せる大須にため息を吐きつつ答えた。友里は面白そうに笑っている。

「水樹はいい奴だよ。これからも友だちでいたいくらいにね」

友里はしゃがんで大須に目線を合わせてそう言った。それを聞いて大須も嬉しそうだ。

「時兄ぃのことよくわかってるね友里くん。これからも時兄ぃをよろしくおねがいします」

「おねがいされました」

くっくと漏れ出すように笑いながら友里は大須を軽く撫でて立ち上がった。

「友里もなに笑ってるんだ」

「楽しくってね……そろそろ帰るよ。ところで水樹、さっきから長月さん帰ってきてないから正気に戻してあげてね。じゃあまたね」

「……?おつかれ」

背を向けて去っていった友里に別れを告げた。手を振る大須もさようならと挨拶している。このあたり真面目なのは大須らしい。

朱音を見ると友里が言っていたとおり顔を赤くして止まっていた。

「……二人……子ども……」

小さくそう呟いているのが聞こえてようやくわかった。朱音は未来を想像でもしているのかトリップしているようだ。

「朱音ー。友里帰ったけど?」

肩を叩くとはっとして朱音はこちらを見た。

「トキネは時人くん似ですね」

「朱音ー帰ってきてー」

朱音の発言の意味を考えるとこちらも照れてしまうがいつまでもこのままにしておけない。

その後も少し何かを呟いて朱音が現実に帰ってくるまでに少しの時間が必要だった。帰ってきた朱音は自分の発言に更に顔を赤くして忘れてくださいと小さく呟いた。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ嬉しいです。



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