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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第2章
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第95話 竜と恋のあれそれ



「時人さー課題どこまでやったー?」

「あー大体終わった」

「はやくねー?」

カラカラと竜は笑う。おそらくほとんど手付かずなのだろう。今日学校に課題を取りに行っていたみたいだし、それまで学校に忘れていたことも気づいてすらなさそうだ。

「あまり出かけたりしてないし」

「だとしてもさー」

俺たちはソファで隣りに座っている。朱音は離れたテーブルで本を読みながらゆっくりしているようだ。それを横目で見ながら竜が俺に耳打ちする。

「今日も普通にいるけどさー長月さんとだいたい一緒にいるんだろー?課題してる余裕あるんだなー?」

「うるさいな。一緒にはいてもお互いそれぞれ過ごしてるし」

耳元でニヤニヤとする竜の顔を離して答える。

「……そーかー」

竜はさらにニヤッとして言葉を繋げる。

「やっぱ一緒にはいるんだなー」

「……別にいいだろ。付き合ってるんだから」

「おー時人も言うようになったなー」

竜のからかいは手を振って流す。それでも本人は満足しているようだ。

「時人さー……」

「なんだよ」

竜が顔の角度を変えずまたも朱音を横目で見る。

「俺も彼女ほしいなー」

「……つくればいいだろ」

人当たりもよく交友関係も広い竜のことだ。作ろうと思えばすぐだろう。

「そうなんだがなー」

萩原。竜に好意を持つ彼女のことを思う。萩原はそこまで露骨なアピールをしているようには感じなかった。だからといって俺が何か動いても逆効果というか不自然な気はする。

「いいと思う人はいないのか?」

「……いてるけどさー」

竜はチラッと朱音を盗み見た。まさか朱音のことだろうか。だとしたら竜相手でも譲る気にはなれない。

「あー時人?そんな睨むなって。長月さんのことじゃないからさー」

またもカラカラと笑った。言うまでも無く態度に出ていたらしい。

「柳さん?呼びましたか?」

名前が聞こえた朱音が近寄ってきた。本を読んで集中していたようだが流石に同じ部屋内で名前を呼ばれると気になるらしい。

「いやー呼んだつもりは無いけどー。……長月さん時人に愛されてんなー」

竜がにやりと笑ってそう言った。朱音が一瞬遅れて顔を赤くしながらこちらを向く。

「な、なにを言ったんですか?」

「何も言ってない。竜がふざけただけ」

「嘘です。教えてください」

にじり寄ってくる朱音に思わず体が退こうとしたが隣の竜がそれを許さなかった。

「本当に何も言ってない」

実際に何も言ってはいない。態度に出ていただけだ。話す気が無い俺に諦めたのか、朱音は頬を膨らませている。

「あのさ、朱音」

ソファから立ち上がって朱音を抱きしめる。一瞬驚いた朱音が怒りからか抵抗をしたが腕の力を緩めない。腕の中の朱音の耳元に口を近づける。

「竜の前では言わないから、後でな」

朱音に耳打ちして朱音から離れる。流石に竜相手に嫉妬していたなんて情けない話を竜の前で言う気になれなかった。もう一度ソファに座ると竜がニヤニヤとしていた。

「ほんと二人だけの世界作るの早いよなー。見てみー?長月さん顔真っ赤だからー」

竜の言うとおり朱音は顔を真っ赤にしている。湯気でも出ているかのようだ。小さく何か言葉にならない言葉を呟き続けている。

「朱音ー?大丈夫か?」

「と、時人くん。耳元はダメです」

こちらの呼びかけで正気に戻ったのか朱音が反応を返した。

「ごめん。次から気をつける。多分」

「多分じゃダメです」

朱音がここまでいい反応をしてくれるのだ。またしよう。心の中でそう思った。

「りょーかい。気をつける」

「気をつけてください」

これ以上朱音を弄ぶと拗ねてしまいそうだ。折角朱音がこっちに来たこともある。ついでだしさっきの話を巻き込んでしまおう。

「あー朱音。竜が彼女欲しいって悩んでるんだってさ」

「おーい時人ー?」

竜はなんともいえない顔でこちらを睨んでいた。朱音にこういう話をするとは思ってもいなかったらしい。

「折角だし女性目線の意見あればいいじゃん」

「いや、それは助かるんだがー……」

「で、朱音はどう思う?」

朱音に話をふってみると嬉しそうな顔をした。

「柳さん告白されたりしてるじゃないですか。色々聞いてますよ?」

「知らない人とか告白されてもなー。冗談っぽく聞こえて本気になれないんだよなー」

竜は観念したのか素直に話しだした。

「さっき言いかけてた竜がいいなって思う人は誰のことなんだよ」

「え、柳さん好きな人いてはるんですか?」

「いやー、これは恥ずいなー……」

俺と朱音に問い詰められて流石の竜も照れている。

「まー言うつもりはないけどなー」

竜は口を大きく開けて笑った。照れ隠しだろうか。それとも

「朱音に聞かれるのが恥ずかしいんだろ?」

「……俺のことよく分かってもらえて助かるわー」

やはり竜は言うつもりはないらしい。

「クラスの方でしょうか?……柳さんって大体の方と仲も良いですけど……。やはり桐島さんか萩原さんの二人は特に仲がいいですよね?」

「お、おー。長月さんがこええって!」

仲間はずれにされるのが嫌だったのか朱音が推理を始めている。そしてそんな朱音に竜も驚いて少し恐怖を露にしているようだった。だが、その竜の反応に朱音が答えを得たようだった。

「やはりその二人のどちらかですね?」

「朱音、答えあわせがはやいって。……で、正解なのか?」

「逃げ場がないんだがー」

これで萩原と竜が答えれば俺的には嬉しい。かといって俺が萩原の気持ちを伝えることはしないが。

朱音はドヤ顔で竜を見ている。可愛い。

「……あのさー。これ、俺の勘違いだったら悪いんだけどさー」

竜が含みをもった前置きをする。

「多分だけどー、萩原は俺のこと好きだと思う」

その発言にどきりとした。多分と言いつつも竜は確信を持っていないとそういうことを言わないだろう。

「萩原さんがですか?……それは、知らなかったです」

俺が聞いたのが体育祭の後だからそれから日も経っている。桐島や朱音に話すタイミングもあっただろうに朱音は知らないようだ。もしかしたら桐島も知らないのかもしれない。

「いやーなんかさー。割とクールな萩原がさ、結構距離詰めて話すのって珍しいからさー。最初は時人のこと好きなのかなって見てたんだけどー」

「は、俺?」

「そー。急に仲良くなってたろー?だから見てた。でもさー萩原の視線の先って時人じゃなくてどうやら隣の俺を見てたっぽくてさー。もしかしたらそうなのかなって」

萩原の態度は竜に筒抜けだったようだ。

「で?竜は萩原のことどう思ってるんだ?」

「話してて楽だし気も合う、性格もいい。美人だとも思う。でも付き合うってなると想像つかんなー」

脈が全く無いとまでは言わないものの現時点では厳しいのだろうか?想像つかないって言葉の意味がわからなかった。

「では、桐島さんのことはどう思っているのですか?」

「結ちゃんなー。……いやー、うん。色々思うことはあるよなー」

含みのある言い方をしている。

「答えになってない」

「……コレも多分なんだけどさー。長月さんに聞かせたくもなかったんだけどー。多分、結ちゃんって時人のこと好きよなー」

「は、俺?」

「え、ダメです」

竜の発言に目を見張る。朱音も食い気味に否定していた。俺のほうを向いて少し心配そうな顔をしている。

「長月さん安心しなってー。時人は長月さんにゾッコンだしなー」

「ぞっこんって……。まあそうだけど」

「と、時人くん」

朱音が嬉しそうな表情に変わった。心配することなんてないのだが。

「多分だからなー?何となくそんな気がするってだけだからー」

萩原の竜への好意の話より確信はないらしい。だが、俺も桐島から好意を向けられているとは思えない。

「勘違いじゃないか?だって……無いだろ?」

そもそも朱音と付き合えたのも奇跡に近い。俺自身にそんな人に好かれる要素はないだろう。

「それは長月さんに聞いてみたらわかるぞー?」

「時人くんは素敵な人ですよ?」

「……ほらなー」

朱音の柔らかい笑顔と竜のニヤニヤとした笑いに反応しないようにする。

「おう……。それはおいといて、竜的には桐島はどうなんだよ」

「結ちゃんなー。……萩原よりはまだ想像つくけどなー」

「けど?」

「俺は時人に勝てる気がせんなー」

竜の中で桐島は俺のことが好きなのが確定しているらしい。

「結局どうなんだよ?」

「柳さんのいいなって思う人は桐島さんってことですか?」

「……まー。そうかなー」

案外あっさりと竜は認めた。といっても好きとまではいかないようだが。

「お二人はノリも似てますしね」

「そーなんだよなー。結ちゃんは一緒にいて楽しいからなー」

「まあ楽しそうよな。二人揃うと賑やかだし」

俺がそういうと竜も嬉しそうにしている。賑やかにするのが自分の仕事だというように褒められたように感じているのだろうか。

「……柳さんはどうなさるのですか?」

「あーうん。結ちゃんのことはいいとは思うけどさ好きとまではいってないし。まだ何もしないかなー。結ちゃんが時人見てるうちはよけいになー」

俺自身、桐島がそう思ってるなんて微塵も感じていない。むしろ朱音との仲を応援してくれていたのだ。

「……そうか」

「おー。ま、他にいいと思う人できるかもしんないしなー」

そんな台詞が出る時点で竜は萩原のことをかなりいいと思ってる気がする。いや、どうだろうか。わからない。それでも萩原のことも桐島のことも俺が変に行動を起こすとこじれてしまいそうだ。

「だな。この先どうなるかなんてわからないし」

「それなー。でも、ひとつだけわかることもあるぞー」

「なんだ?」

「この先も時人と長月さんの二人はずっといっしょだろうなー」

竜がニヤニヤとではなく普通の笑顔でそういった。

「……当たり前だろ」

「嬉しいです」

俺たちの答えを聞いた竜はカラカラと笑った。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

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