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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第2章
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第93話 眠りに落ちる君と


指摘を受けたので前回からカギ括弧内の句点を無くしました。それより前の分はそのうち修正します。そのうち。



「あーそういえば大須がまた遊びたいって言ってたっけ」

「お会いしたのですか?」

夕飯の買い物をしたスーパーからの帰り道。いつものように手を繋いで帰っていたときに思い出したことを呟いた。

体育祭の頃に大須からきたメッセージ。朱音と話していなかった時期なので少し悩んだ記憶があった。

「いや、たまに大須からメッセージ来るから」

「……そうなんですね」

「あー朱音も大須とメッセージしたりしたかった?始まったら長いから大変だけど……?」

「そうですね、私も大須くんの連絡先知りたいです」

少しテンションの下がった朱音は大須と久しぶりに会いたかったのだろうか。少し拗ねている朱音は可愛いがこの低いテンションでいても困る。朱音を撫でるとテンションは戻りそうだが左手は朱音と繋いでいるし、右手は食材の入ったエコバッグで両手とも埋まっている。

仕方なく握った手に力を入れてみると朱音がピクリと反応した。

「……時人くんは事務連絡しかしてくれないです」

「あー」

拗ねている方向はちがったらしい。わざわざ連絡を取るほどの友人や知り合いがいたわけでもなかった。今でこそ竜たちがいてとりとめのない会話をすることもあるが、それでもメッセージの相手は多くない。竜や大須みたく用も無いのに連絡を取るのは得意じゃなかった。

「でもさ、するまでもなく俺たち大体一緒にいるんだけど」

「……確かに、そうですね」

俺の言葉で朱音は気を取り戻したらしい。にこりと笑ってさっきまでの空気を払拭した。

「時人くんお腹すいてますよね。今日も腕によりをかけて美味しいご飯作りますから」

「ありがとう。楽しみ」



今日も朱音と夜を過ごしてそれなりの時間に朱音が帰っていった。

シャワーを済ませてソファに体を沈める。時刻は22時過ぎ。まだ寝るには少し早い。いつもなら楽器を軽く弾いたり、課題を進めたり、勉強したりといった時間。今日はやろうとしていたことがあった。

スマホを取り出してアプリを立ち上げる。メッセージと通話ができるそれ。相手を探して開いた。過去のメッセージをさっと遡る。言われてみれば確かに事務連絡ばかりだ。苦笑いして文字を打ち込む。逡巡して打ち込んだ文字を消して電話のマークをタップした。

『時人くん?どうしました?』

『用は無くて……。あ、ごめん、何してた?』

『お風呂からでたところですけど……?』

『朱音と通話したくって』

そう言うと電話口からバタバタと音が聞こえた。

『朱音?大丈夫?』

『いえ、問題ないです!……ちょっと待ってもらっていいですか?本当にお風呂から出たところで』

『かけなおそうか?』

『……はい。あの、準備できたらかけますので。その、少しだけ……』

『わかった待ってる』

スマホを耳から離して通話をきるボタンをタップする。瞬間、向こうから小さな声が聞こえた。スピーカーにしていたわけでもなく耳から離したので何を言ったのか聞き取れはしなかったが、声の調子からして朱音のテンションは低くないらしい。



『お待たせしました。時人くん』

少し時間が経ってスマホが音をたてて振動する。画面には朱音の名前が映っていた。

『待ってないよ。こちらこそ急かしてごめん』

『いえいえ、ありがとうございます。……なんか照れますね』

耳元で朱音が笑っているのが聞こえた。確かに面と向かってする会話じゃなくあらためて通話なんてすると照れるのかもしれない。

『あの、もしかして、今日の夕方の会話で電話してくれたんですか?』

『まあ。うん』

『えへへ。時人くんのそういうとこ好きです』

朱音はよく好きと口にする。それを耳元から聞くとまた違う気持ちになった。

『ありがとう』

『あ、時人くん、もう寝る準備してましたか?』

いまだソファから動いていない。シャワーから出てきて飲み物をテーブルに出したそのままだ。

『あーシャワーは済ませたし後は寝るだけだけど』

『あ、あの、じゃあ一緒に寝ながらお話しませんか?』

憧れでもあったのだろうか。桐島や萩原と色々話している朱音のことだなにか彼女から聞いていてもおかしくはない。いや、ふきこまれてというべきか。

可愛い朱音のお願いに否定するつもりも無い。

『わかった。じゃあベッドに入る』

『ありがとうございます』

立ち上がってそのままベッドに向かった。テーブルにはグラスが置きっぱなしだったが明日の朝洗えばいいだろう。

寝室に入ってエアコンを寝るとき用に設定を変えて電気を常夜灯に変える。スマホを枕元において薄手の掛け布団に潜り込んだ。朱音も同様にしているようだ。スピーカーに設定したスマホからごそごそと音が聞こえる。

『準備できた?』

『はい。……家でこうして時人くんと話しているの不思議な気分ですね』

『まあ基本俺の家で会ってるし』

だからこそあらためて朱音と連絡するなんてことが頭に無かったのもあるが。

『そうですね。ありがたいことに……ですね』

朱音からすれば好きな人の家に入り浸っている。俺が逆の立場でもありがたいと思うだろう。

『俺もそう思う』

『おそろいですね』

枕もとのスマホから朱音のクスクス笑う声が聞こえた。こうしていると

『なんだか一緒に寝ているみたいですね』

『……同じコト思った』

『おそろいですね』

『それ言うの気に入ったの?』

『なんか幸せじゃないですか?時人くんとおそろいなんて』

朱音は普段も素直な性格をしているが、顔を合わせていないとより言葉がすらすらと出てくるらしい。

『朱音にそう思ってもらえるなら嬉しい』

朱音はまたもクスクスと笑った。目を閉じると本当に横にいるように錯覚する。

『時人くんの声が聞こえるのは嬉しいですけど、ただの通話でこれではお泊りなんて……想像つかないですね』

『……じゃあやめとく?』

『いやです。夏休み中には実行しますから』

『楽しみにしてる』

『わたしもです』

そのままの姿勢で朱音と会話を続けた。シャワーを浴びた後なにもせずゆっくりしていたこともあって体は段々と寝る方向に向かっているらしい。朱音の声はドキドキとするが、それ以上に安心できる。耳元の朱音の声が眠りを誘う。

『……時人くん、眠たそうですね』

『あー。うん。多少眠い』

『いつでも寝てもらって大丈夫ですよ』

そういう朱音の声も少し微睡んでいる。彼女も眠りに落ちるのはそう遠くないだろう。

『……寝そう』

『おやすみなさい時人くん』

『んー。おやすみ朱音』

そのまま睡眠欲に体を委ねた。羊を数えるよりも簡単に眠ることができた。



はっと目が覚める。カーテンの暗さからまだ深夜であることが伺えた。

「……何時だ?」

枕もとのスマホを起動して時刻を見ようとしたときスマホから寝息が聞こえた。あの後朱音も通話をきることなく眠ってしまったらしい。画面に映る通話時間が一秒一秒と加算されていっているのを見て少し幸せな気持ちになった。

『……えへへ』

何か夢でも見ているのだろうか。朱音の小さな笑い声が聞こえて思わず息が漏れ出る。そのまま通話を切ることなくもう一度眠りについた。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ幸いです。



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