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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第1章
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第8話 晩ごはんはカレーライス


リビングのテーブルに向かい合う。飲み物も準備した。

「いただきます。」

こちらが口をつけるのを待っていたようで、とりあえず一口目を頬張る。美味い。

いわゆる普通の家庭のカレー。スパイスカレーなどではなくルーを溶かして作るタイプのそれであった。安心感があって、優しい味がする。甘すぎず辛すぎずいい塩梅だ。

「美味いよ。」

感想を聞くと笑顔になって彼女も食べ始めた。

正直カレーなんて不味く作る方が難しいと思う。俺でもそれなりに作れる。でもこれはとても美味しく感じる。スプーンが止まらなかった。

「本当に美味しい。カレー好きなんだよ。」

「それは良かったです。」

食べ終わって手を合わせる。彼女より先に食べ終わったが、ひとまず水を飲んで彼女を待つ。

「おかわり大丈夫ですか?」

「いや、お腹いっぱい。……あー気にせずゆっくりと食べて。」

昼食を思い出して、彼女を促した。こちらが先に食べ終えただけなので、急かす気はない。


彼女のごちそうさまを待って声をかけた。

「なんで、急にカレー?」

「……水樹さん、カレー食べましたよね?」

「ああ、美味しかったよ……?」

「対価として、水樹さんの演奏を求めます!」

自信満々の彼女の顔はキラキラと輝いていた。

「お、おう。それは構わないけど……。」

彼女の勢いに少し気圧された。

彼女は、こちらの返事にやった。と小さく微笑んだ。

「その前にコーヒーかなにかいる?紅茶かお茶もあるけど。」

「では、紅茶で。」

少し落ち着いてほしいので飲み物を用意する。カレーの皿を水につけてテーブルを拭き取る。カレーの後だとコーヒーの方が好きだが、押し通すまでのこだわりがあるわけでもない。

温めたポットに茶葉を入れてお湯を注ぐ。沸騰する前くらいの温度がいいらしい。

「……カップ等は揃っているのですね。」

「父が好きでね。勝手に置いていくんだよ。」

父親が飲み物にこだわる人でこの家に来たとき用に備蓄がたくさんある。自分だけだと減ることはまあないのでいい機会だ。

十分に出たであろう紅茶を大きめのマグに注ぐ。ティーカップじゃないのも気分だ。

「どうぞ。」

「いただきます。」

ストレートで飲むらしい。お茶請けも無いし、彼女もそこまで気にしてないのだろう。

「美味しいです。」

「いやいや、お湯いれただけだから。」

「……淹れ方とか、ちゃんとしてましたよね。先にティーポット温めていたりとか。」

「温度測ってしてるわけじゃないからね。テキトーテキトー。」

「適当で美味しいのが凄いです。」

正直飲み比べたりしない限りわかるようなものでもないが、褒められるのは悪い気がしない。

紅茶で一息つく。満腹ではあったが、気持ちも落ち着いた。温かい飲み物を飲んで少し眠たくもなったが。

リビングではなくもう一部屋の方に寝室兼、スタジオがある。スタジオと言っても楽器が置いてあるだけだが。

「じゃあ、あんまりお待たせしてハードル上げられても困るし弾くよ。」

「楽しみです。」


彼女を部屋に案内する。

寝室も兼ねているのでベッドもあるが、ここが自分のスタジオでもある。

壁にかけてある数本のギター、ベース。隅にはマットの上に電子ドラム。オレンジ色のアンプに赤と黒の2台のキーボード。自分の好みが詰まった最高のスタジオである。

「……凄い部屋ですね。」

彼女がそれらを見回しながらそう言った。

「これくらいしか趣味が無いから。とりあえず座って。」

ベッドに座らすのも気が引けたので、カホンに彼女を誘導する。おそらくちょっと変わった椅子だと思ってるだろう。

キーボードの音色を弄る。適当に指を走らせる。問題はない。

音が鳴って彼女も待ち遠しい、といった態度が見てわかる。明らかにワクワクとしていた。

「じゃ、弾くよ。」

最初のコードをゆっくりと鍵盤に叩く。歌詞も覚えているので楽譜も必要ない。

歌い始めると彼女の表情も真剣となった。だが揺れている肩は終わるまで止まることがなかった。


最後の1音がポロンと鳴って演奏を終える。

「どうだった?」

弾き終えて、反応が無かったので問いかける。

「めっちゃ良かった!」

どうやら噛み締めていたのか、余韻に浸っていたのかだったらしい。こちらの声にビクンとなって拍手をしながら立ち上がった。

「水樹くん、歌もピアノもめっちゃうまいやん!感動したー!」

「あーありがとう。」

彼女の興奮に気圧されながらも、頬をかきつつ礼を言う。こんなに喜んでもらえるとは思ってもおらず少し恥ずかしい。

「すごいなあ。この曲、私も弾けるようになるかなあ。」

「練習したら弾けるようになるよ。頑張って。」

「えーがんばろー。聴かせてくれてありがとう!」

「……どういたしまして。」

彼女の純度の高い笑顔に直視ができず目をそらす。

敬語が外れて関西弁がでていることにも気づいていない。案外彼女は抜けているところがある。そう思って笑った。




読んでいただきありがとうございます。

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