第85話 早朝密会
更新の間があいてしまって申し訳ありません。
「仲良いことはいいと思うぜ。」
八木が朝の一服を吸いに来るまで朱音と話していた。それを見た八木が微笑ましそうに笑っていた。
朱音が気まずそうに笑ってから少し離れていった。朱音が正面から隣に移動する。
「風呂の掃除も終わってるから入れるぜ。朝風呂もいいもんだからな。」
八木はかっかと笑って中に戻っていった。朱音は八木の去った方向を見つめている。
「……お風呂気に入ったの?」
「そうですね。温泉好きですから。」
こちらを見上げながら呟いた。
「じゃあ……。朱音さえよければさ。」
「はい……?」
「また旅行行こう。温泉地。」
それを聞いて隣の朱音が頭を傾けて腕にもたれかかってきた。
「行きたいです。」
「よかった。」
「……でも……。」
「でも?」
朱音は少し離れて隣で唸りだした。言うべきか言わざるべきか迷っているのか。
「あー何か不安でもある?」
「不安じゃなくて……。旅行も楽しみなんですけど……。」
段々と朱音の耳が赤くなっているのがわかった。照れているらしい。
「……うー。……時人くん、あ、あの。そのですね。」
「うん?」
「……。がんばりますので……。」
話が全く読めない。
「朱音の言ってる意図がわからないんだけど……。何をがんばるの?」
「あの……旅行って二人で泊まりですよね……?」
朱音が顔を赤くしていたことがわかった。
俺たちは昨日から友だちから恋人になった。つまり、色んなことをすると思われている。
「あ、朱音。あのさ……別に今すぐ行くわけじゃないし……。その……。そういうことするわけじゃないから。」
焦りから少しどもってしまった。顔が熱くなってくる。
「あ、はい。そう……ですよね。」
朱音も先走って考えてしまったようだ。照れて笑いながら赤くなった顔を冷まそうと手で扇いでいる。
「でも、……時人くんは……その、したくないん?」
浴衣の袖で顔を隠しながらそう聞いてくるのはずるい。隠しきれてない顔の部分まで赤くなっているのがわかった。
「あ、朱音さん?」
朱音の発言と行動がこちらまで顔を赤くさせる。
彼女がどこまで想定してしたいかしたくないのか聞いているかわからない。正直目の前の朱音を見ればとても触れたいと思う。
「俺たちにはまだ早いから……。」
「そ、そうですよね。」
照れ隠しに笑いながら朱音が答えた。
朱音はどう思っているのだろう。俺たちの関係性は昨日一歩踏み出したばかりだ。そんなに焦らなくてもいいと思う。臆病と思われてもいい。
「……でも、時人くんとお泊りはしたいです。」
「朱音?」
「あ、ちがいます。そういうアレじゃなくて……。時人くんとずっといたいなって。今回も別部屋でしたし。」
否定しておいていきなり誘ってくる朱音に戸惑ったが、どうやらそういうわけではないらしい。
昨夜、海から戻る際に朱音がボソッと一緒の部屋がいいと小さく言っていた。その時もなんとかなだめたのだった。
「ご飯食べて、時人くんの家から帰るの……結構寂しかったですから。」
「……近いうちにしようか。」
嬉しそうに笑う朱音を見てこちらも嬉しくなる。
「さー。俺も朝風呂行こうかな。」
八木がやってきたってことはそれなりに時間も経っている。日もとっくに昇っていい頃合かもしれない。
そろそろ戻ろうと朱音に示して玄関に向かう。朱音も腕に抱きついて隣を歩いた。
「……時人くんも行きますか?」
近すぎる距離に心臓が大きく音をたてる。朱音には聞こえているんだろう。クスクスと笑う朱音にいつまでもドキドキとさせられっぱなしだ。
「朝から豪勢なー。」
並んだ朝ごはんを見て竜が驚く。
まだ起きてきていないのか女子達は来ていない。
朝風呂に入るため朱音と分かれてから彼女と会っていない。風呂から部屋に戻ると竜は起きていて先に朝風呂したことを非難した。泣く演技をしながら風呂場に向かっていった竜を見送ってから部屋でのんびりとしていた。
竜は昨日は早めに湯船からあがったせいか、しばらく帰ってこなかった。
広縁でゆっくりとお茶を飲みながら竜が帰ってくるのと朝ごはんの時間を待った。あまり寝ていないのもあってウトウトとしてきた頃に竜が戻ってきて、その賑やかな声に目が覚めた。
気づけば朝ごはんの時間も近く、竜と二人で部屋を出て昨日もご飯を食べたこの部屋にやってきた。
和で統一された朝ごはんは朝からでもしっかりと食べられそうだ。
「もう先に食べ始めるかー。冷めてしまうし。」
竜がいただきますと一礼して赤出汁をすすり始めた。いまだ現れない朱音たちを思って苦笑いをしてから俺も竜に続いた。
朱音たちが現れたときには既にかなり食べ進んだ後だった。
「おはよー。」
「おはようございます。」
朱音と桐島は私服に着替えていた。
「……おはよう。」
朝に弱いのか萩原は浴衣のままで表情も寝起きといった感じだ。
「おはよー。遅いから先たべてたー。」
「……おはよう。」
朱音たちがそれぞれ座って食べ始める。
「水樹くん、今日はもう帰るんだよね?」
「その予定だったけど……。今日も海で遊んでから帰ってもいいし、寄り道がてらぶらついてから帰ってもいいし。」
「んー。私はもう泳がないかなー。昨日で十分楽しんだしー。」
「この辺、ぶらついていい感じのところあるのかー?」
「あるといえばあるけど。観光というほどでもない感じかな。」
海水浴場の近辺には海の家とか土産屋もある。何時間と居られるほどではないが見て回る分には楽しめるはず。
「じゃーそういう感じでー。萩原静かだけど生きてるかー。」
「……生きてるわよ。」
萩原は本当に眠たいらしい。かろうじてといった様で返事をしていた。
ゆっくりと朝ごはんの時間が進む。終始朱音はニコニコとしていたし、桐島と竜は賑やかだった。段々と覚醒してきた萩原も会話に加わり始める。その頃にはチェックアウトの時間も迫っていた。
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浴衣の眼鏡美少女に「したくないん?」と言われたい人生でした。




