第82話 雀鬼
「最初は私かー。」
東一局。一位が四位に罰ゲームを課すこととなった。
一戦目は一位が俺、二位萩原、三位八木、最下位が桐島。引きが良くてそういう結果で終わった。萩原も大人しく未だその戦力は計り知れない。ちなみに萩原が食べているお菓子は八木から罰ゲームとして巻き上げたらしい。
「まあ最初は……ね。」
萩原はこちらを見てどんな罰ゲームを言い出すか面白そうに見ている。
「ちなみにさっきまではどんな罰が?」
横から見守っていた竜に問うてみる。彼は未だに二つくくりだ。
「色々やったぜー……。これ以外にも過去の話とかかなー。」
髪型を指差しながら遠い目で笑った。しかしこれは言いことを聞いた。
「じゃ、それで。桐島の中学時代の話で。」
そういうと桐島が目を開いた。
「えー……。んー。じゃあえっと三年生の時の話ねー。」
一瞬悩んで話し始めた桐島に視線が集まった。
「当時のバレー部の部長が髪も短くてスタイルも良くてカッコよくてすごいモテてたのー。」
「……結?」
桐島の話に萩原が口を挟んだ。
「特に後輩の女の子からよく告白されててねー。でも、どんな可愛い女の子からの告白でも全部断ってたのー。」
「……ちょっと結?」
萩原から不穏な空気が流れていた。
「私はそのバレー部部長と仲が良くてずっと一緒にいたから気づけば私と付き合ってるって噂が流れちゃっててー。」
「え、結ちゃん付き合ってたのー?」
竜がヘラヘラと笑いながらガヤを飛ばすと桐島が笑って手を振って否定した。
「ないないー。だってそのバレー部部長って奈々のことだもーん。」
桐島が楽しそうに話を終わらした。竜もカラカラと笑っている。途中からオチに気づいていたようだ。
萩原は額を押さえて苦々しい表情をしている。
「……一番の問題は結が全く否定しないせいで私の否定が信じられなかったことよ。」
「最近の女の子はすげえな……。」
八木も苦笑いだ。
「これは桐島さんの罰ゲームになっているのでしょうか……。」
隣で座っている朱音の呟きに思わず噴出した。
「あははー。たしかにねー。」
牌を積みなおす。二局目の準備を進めた。まだまだ終わることはない。
八木が連続で負けて顔色が悪い。萩原と桐島にお菓子が献上されていた。
「ねー水樹くんさー、負けない麻雀してるでしょー。」
桐島が隣から俺の肩に手を置きながら笑っている。目は笑っていないが。
「……そんなことない。」
「ま、いいわ。振り込まないなら私がツモればいいのよ。」
萩原の強気の発言は似合っていてカッコいい。
「……そういうコト言ってると女子からモテるんだな。」
「言ってくれるわね。」
意趣返しのつもりで答えると良い具合に萩原に刺さったらしい。やる気に満ちた目をしている。
「時人くんは……。」
麻雀のルールをわかっておらずぼんやりと隣で眺めていた朱音が腕を掴んで見上げた。
「どうした?」
「……モテたいんですか?」
朱音が頬を膨らませて不満を露にする。
「……まさか。」
そういって朱音の頬を指で撫でる。だんだんと膨らんだ頬がおさまって口角が上がっていく。柔らかい頬は触れてて心地よい。朱音もへにゃりと笑った。
「……二人の世界に入らないでくれるかなー?」
「今日ばっかりは仕方ないのかなー。」
「私を利用してイチャつかないでほしいわ。」
三人の反応に朱音が少し照れる。確かに周りを忘れてそういうことをしていたのは事実だが、そんな反応を露骨に出すとまたからかわれるので無視して朱音を撫で続けた。
「時人は本当に春人さんそっくりになったな……。」
八木が楽しそうに笑った。
「早く続きやるわよ。……私達ははやく水樹の中二病の頃の話を聞きたいの。」
「は?」
萩原の発言に俺の動きが止まる。俺と朱音以外がニヤニヤとしていた。
「ごめん時人ー。俺のせいだなー。」
竜が笑いながら肩をバンバンと叩く。
「……は?」
この流れはよろしくない。見に覚えがあるだけに余計に。
「……あの時人くん。中二病とは?」
「中学時代の時人のこと。」
朱音の疑問に竜が即答する。
「おい。」
「次はー私が親だねー。」
桐島が無視して牌を引く。試合が始まった。
竜とは高校入学からの付き合いだ。中学時代は知らないはずなのだが。
あの頃のことは格好も悪いし、朱音には知られたくないので、負けるわけにはいかない。
女将が八木を怒りながら連れて帰るまで麻雀は続いた。
「時人たちもあまり夜更かししてはダメよ?」
明日の準備があると去り際に女将がそう言っていった。
振り込まないようにしていた俺は結局負けることがなかった。
卓と牌を片付けて部屋を後にする。
「……水樹はずるいわ。」
「勝ちたかったなー……。」
前を歩く桐島と萩原が悔しがっている。
「私も……ちょっと見たかったです。」
朱音は何を期待しているのか、後ろを歩く竜の頭を見てから俺を見てそう言った。竜はさすがに髪はもう戻っているがへんなクセが付いていて外側に跳ねている。
「……絶対いや。」
大体のわがままなら通していいと思うが他のメンバーに笑いの的にされるのは気が進まない。
「……でも朱音が俺のわがまま聞いてくれるならいいよ。」
前の朱音の腕を引いて耳元で呟く。
「うー……。なんでも来いです。」
驚いた朱音が悩みながらもそう答えた。顔を赤くしながらも期待染みた目で見上げられるとこちらがもたない。
口元を手の甲で隠しながら顔を逸らすと朱音は嬉しそうに笑った。
「俺の隣でイチャつかないでくれるかー。」
「うるさい。」
竜が不貞腐れた顔をしながら文句を言う。
「この後、覚えてろよー。」
「そうね。朱音ちゃんも……ね?」
竜の言葉に重ねて萩原が呟いた。部屋に戻った後何が待っているのか。ため息をつく。朱音は何もわからないようで首をかしげていた。
「あははー。それとは別に朱音ちゃんには後で聞かせてあげるねー。」
「何をですか?」
「水樹くんの中二病の話ー。」
桐島の意地の悪い笑みでこちらを貫かれた。朱音は嬉しそうにしている。
「……というか何を聞いたんだよ。」
竜のせい。ということは竜が何かを話したんだろう。それも後で問い詰めないといけない。が、その前に。
「朱音、聞かなくていいよ。」
「教えてもらいます。」
俺の言葉に耳を貸さず食い気味で返事をされた。
「はっはっはー。すまんなー時人ー。」
悪気無く笑う竜にため息をついた。
「じゃ、おつかれー。」
先に俺たちの部屋があるため部屋前で三人に別れを告げる。日はもう跨いでいるので皆眠たげだ。
「おやすみー。」
「……おや。」
手を振った桐島と、欠伸を噛み殺せず言葉が途中で止まった萩原。
「おやすみなさいです。」
「おやすみ。」
そう言って部屋に入ろうとしたとき後ろから浴衣を引っ張られた。
振り返ると朱音がまだ残っていた。すでに桐島と萩原は歩き出していて気づいていない。裾をくいくいとひっぱったので少し屈む。
朱音は背伸びをして頭を近づける。
「時人くん。……大好きです。」
そう耳元で言い放って前の二人の元へと走っていった。
「……はあ。」
眠気が一気に覚めた。顔が火照ってしまった。この顔を竜に見られたくないが、入らないのも怪しまれる。
「……ごちそうさまです。」
入り口の隙間から見ていたらしい。竜がニヤつきながらそう呟いた。
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