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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第2章
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第78話 海と水着と


「ええーどうしよっかなー。」

竜がへらへらと笑いながら相手をしている。

海の家の列に並んでいる俺たちに声をかけてきた女性の二人組に竜がメロメロだ。布面積の少ないビキニから零れそうなそれは竜の視線を捕らえて離さない。

「部屋おいでよー。そこのホテル泊まってるんだー。」

海の家もある海水浴場の中心部。浜から上がるとすぐに宿泊施設が多くある。その一つを女性が指した。

年上らしき派手な女性が声をかけてくるくらいに竜はモテる。笑顔が絶えない甘い顔は遊んでいそうな雰囲気はさせないのに、長髪と体のあちこちについたアクセサリーとサングラスが竜の遊び人の一面を出していて目の前の女性達は話しかけやすく思えるのだろう。

水着のハーフパンツしかはいていないため隠されていない上半身は綺麗な筋肉の着き方をしている。

「行っちゃうかー!なー時人ー?……そう睨むなってー。」

「わかってるんだろ?」

「仕方ないなー。ごめんねー俺たちだけだったらよかったんだけど待たせてるからー。」

竜は笑顔で手を振りながら女性達に別れを告げた。彼女達もこちらに気が無いことがわかったようですぐに去っていった。

列が進んで注文が近づいている。

「いやーもったいなかったなー。アレは遊ばれたかったー。」

「竜一人で行ってきていいよ。」

「そそられるがー。まあ行かんなー。」

カラカラと笑って竜は肩に腕をまわした。

「時人は派手系より……だろ?」

耳元で竜が呟く。くっつかれて暑かったので竜を振り払う。それ以外の意はない。決して竜の言葉が事実だったからとかではない。

もともとこの列に並んでいたのは朱音たちがカキ氷を欲しがったからだ。だが、竜にとっては少し違ったようだ。俺たちが買いに行く。と竜がノリノリで言ったのも海水浴場に来ていた他の客が目当てだったようだ。

先ほどの逆ナンに満足したのか竜はご機嫌だった。

二人で五つのカキ氷を持って朱音たちの元へ戻った。



「二人ともありがとー。」

パラソルの下で休んでいた桐島がカキ氷を受け取ってお礼を言った。

朱音と萩原はまだ浅瀬で遊んでいるらしい。

「……奈々たちは二人が帰ってきたの気づいてないみたい。水樹くん溶けちゃうし呼んできてくれるかな?」

「結ちゃん疲れた?」

桐島は暑さにやられたのか少し元気がなさ気だった。竜も気づいたようで気を使った発言をしている。竜がついているなら大丈夫だろう。カキ氷を倒れないように置いて二人を呼びに行く。

歩いて近づくと流石に気づいたのか萩原がこちらに手を振った。

「お帰り水樹。じゃ、朱音ちゃん戻ろうか。」

「はい。」

朱音がそう返事して二人パラソルに戻っていく。

「……水樹、あとで朱音ちゃんに弁明しておいた方がいいわよ?」

朱音に聞こえないような声量で萩原が呟いた。

何となく二人の反応が冷たかった気がしたが、何かやらかしたのだろうか。

「何の弁明?」

「朱音ちゃんが水樹と竜くんが声かけられているの見ていたみたい。それで竜くんがご機嫌そうだったって。……何もなかったわよね?」

先ほどの逆ナンが朱音に見られていたらしい。俺は何も悪いこともしていないので弁明も何もないが朱音が気にしているなら後で言っておこう。

「何もなかったよ。……竜はたしかにご機嫌だったけどそれだけ。」

「……そう。」

萩原の機嫌を少し損ねてしまったようだ。

そこまでわかりやすく行動を起こしてはいないが萩原は竜に好意を持っている。

目の前の萩原は小さく唸って朱音の隣に並んでいった。

竜が機嫌よくしていたことは告げなかった方がよかった。やってしまったが仕方ない。諦めて二人に続いた。



日が沈みかけている。

近くの宿泊施設に泊まっている人以外は帰ったのだろう。海水浴場の中心部でも人が少なくなっていた。

「遊びつかれたねー。」

カキ氷を食べてすっかり回復した桐島があの後からはしゃぎたおしていた。朱音も萩原もカキ氷を食べて機嫌はよくなったらしい。

「こんなに遊んだの久々だわ。」

萩原が体を伸ばしながら桐島に返事をする。

「そろそろお腹すいたなー。」

竜がお腹をさすりながら嘆いている。

「じゃあそろそろ帰ろうか。」

俺がそういうと皆が帰る準備を始めた。

パラソルとビニールシートをたたんで立ち上がる。俺たちは宿に歩き出した。



「おう戻ったか。……その様子だと楽しかったようだな。そこで砂を落としてから中に入ってくれ。タオルを準備しておく。」

入り口でタバコを吸っていた八木が帰りを歓迎した。彼の指した場所にホースがまかれている。ここで水を使って流せ。ということだろう。

「ありがとうございます。」

礼を言ってから蛇口をひねる。冷たい水が勢いよく飛び出た。

「いえーい。」

テンションの高い竜がホースの先を絞って水をかける。

「ちょ、ちょっと。」

「竜くーん?」

頭からひたひたに濡らされた二人が竜を睨んでいる。

「さ、さっきまで海で遊んでたしいいじゃん。」

「勢いが強いの。」

「……少し痛かったわ。」

二人から非難されて竜がしどろもどろとしていた。それを見て朱音と苦笑いする。

竜からホースを奪って頭から水を浴びる。潮が流れて少しべたつきが取れた気がする。

桐島と萩原はまだ竜をせめていたので朱音にホースを渡した。

「……ある程度落としたならそのまま風呂入っちまいな。三人くらいなら一緒に入れるから。」

竜が責められている様をみて八木も苦笑いだ。彼はタオルを渡して中に戻っていった。

預かったタオルを洗い終わっている朱音に一つ渡した。

「ありがとうございます。」

「……先にお風呂に入ってほしいみたい。準備しておいて。」

「わかりました。……時人くんは?」

「俺も入るよ。ただ……あっちはまだかかりそう。」

ヒートアップした桐島とそれを楽しんでいる萩原が朱音からホースを受け取って竜に向けている。

「ちょ、まいったってー。時人止めてくれー。」

「無理。」

「反省しろー。」

桐島が竜に勢いよく水をかけていた。彼女も楽しそうだ。

「そうね。反省しなさい。」

萩原もわらっている。

「反省してるってー。」

竜も笑っていた。本人もこの状況は楽しいらしい。

「楽しいですね。時人くん。」

「そうだな。」

朱音も笑っていた。

日が沈みかけている空から差す西日にホースの水がキラキラと光っている。俺たちの笑い声が響く賑やかな夕方だった。





ここまで読んでいただきありがとうございました。

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