第77話 海と水着と
少し短いです。
「時人。海だな……。」
隣にいる竜が波を見て呟いた。八木が用意した昼ごはんを食べて少し休憩の後、俺たちは海に出た。部屋で水着に着替えてから直接来たためまだ二人きりだ。
広い海水浴場のはずれ。民宿からまっすぐ来るとこの場所に出る。民宿から見えるこの位置は人も少なかったが中心部では賑やかに人が遊んでいるのも見えた。数件屋台らしきものもも見える。
「当たり前のこと言ってないで手伝えって。」
ビニールシートにパラソルを設置しながら竜に声をかけた。竜は海を眺めて動きが止まっている。
いや、よく見ると泳いでいる人を目で追っているようだ。サングラスをかけているものの赤色のレンズのそれでは視線が丸見えだった。
「水着はいいものだー。」
視線の先に年上らしき女性が二人ほどいた。確かに目を惹くものがある。
「……ふたりしてさー。そういうのはよくないんじゃないかなー?」
「竜くんはともかく、水樹まで……。」
女子達が到着したらしい。背後から声をかけられる。二人して女性を見つめていたことで少し後ろめたい気持ちもあったが、何事もなかったように振り向く。
桐島はラッシュガードを水着の上から着ていて髪も編みこんでいる。花柄のパレオがラッシュガードの裾から覗いていた。
その隣の萩原はワンショルダーの白のTシャツを水着の上から着ていた。八木から浮き輪を借りてきたようで肩に通している。
二人の頭の間から後ろに立っている朱音の顔だけが見えた。眼鏡は外してきたらしい。ちらちらとこちらを見ている。
「おおう……。」
二人の水着姿に思わず竜が息を飲んでいた。
その反応もよく分かるほどに二人の姿は眩しい。上半身はまだ隠れている部分が多いもののすらりと伸びた白い足が光っている。
「竜くんのその反応新鮮だねー。なにか言うことないかなー?」
「ごちそうさまです。」
桐島が肘で竜のわき腹をつつきながらニヤニヤと笑っていると竜が食い気味に答えた。竜の返答に二人が笑い出した。
桐島が動いたことで隊列がずれて朱音の姿が見える。
朱音はフロントジップのパーカを上に羽織っていて、腕で体を隠しながらこちらの様子を伺っている。
「思ったより人がいないわね。……で、水樹は静かだけど?」
「ああ。みんな水着似合ってる。」
「……もっと照れてくれてもいいのにねー。」
桐島は悔しそうにしていた。
「いーや時人は照れてるね、これは。」
カラカラと笑って肩を叩いてきたので痛い。軽く片手で竜をあしらっておいた。
「ほほーう。……だってさー朱音ちゃん?」
桐島はそう言って後ろの朱音を引っ張り出した。
「ちょ、ちょっと、桐島さん。」
朱音は二人に比べて水着を見せることに抵抗があったらしい。
「おおう……。」
開いたパーカーから見えた白い素肌に息を飲む。
抱きしめたり、それなりに触れ合うこともあった。最近は夏の薄着でスタイルがいいこともよく分かっていたつもりだ。
それでもあらためて目に写ると朱音のスタイルの良さが目に悪く、思わず視線を外す。
「……水樹のそういう反応も新鮮ね。」
「やっぱり照れてたろー。」
萩原と竜が顔を合わせて笑っていた。
逃げるように朱音が桐島の後ろに隠れた。
これ以上からかわれるのも嫌だったので話題を変えようとした。
歩いてすぐの距離とはいえ太陽がさんさんと眩しい中歩いてきた三人は暑そうだったのでパラソルの下に誘導する。一本のパラソルに五人は狭く俺と竜が日向に出ることになった。
「ありがとうー。ホント暑いねー。」
そう言って桐島はラッシュガードに手をかけた。
「結、脱ぐの?」
「暑いし仕方ないかなって。」
「……まあそうね。」
桐島はラッシュガードを脱いでビニールシートにたたんで置いた。
「おおう……。」
竜がまたも反応している。
「ホント、結って大きいわね。」
「……そういう話は俺たちいないところで言ってくれる?」
萩原も朱音も女子の中では背も高い方でスタイルもいい。桐島は二人に比べると背は低い。が、一部分では二人に勝っているようだ。
萩原の呟きにため息交じりで返事をしておいた。
視線を感じてその元を辿れば朱音がこちらをじとっと睨んでいる。
機嫌が悪くなってしまったようなので朱音の頭を撫でてみる。表情が緩んで口角が徐々に上がっていった。
「暑いなー……。」
「暑いわね。」
「もう二人は放っておいて海に入るよー。」
三人がそう言って海に向かっていった。
「あ、荷物……。」
「人も少ないし置いていって大丈夫だって。俺たちも行こうか。」
唐突に置いていかれて焦る朱音を宥めて落ち着かせる。
「時人くん。待ってください。」
朱音が名前を呼んで俺が羽織っていたシャツの裾をつまんだ。海に向かうためにシャツを脱ごうとしたときだったので動きが止められる。
「どうした?」
「……脱いじゃダメです。」
「泳ぐときに邪魔なんだけど……。」
朱音はまごまごと何か言いかけているので続きを待つことにする。
「……目のやり場に困ります。」
こちらに視線をやることなく朱音が小さく呟いた。
「竜だって着てないだろ……。」
朱音を無視してシャツを脱ぐ。朱音が小さく声をあげた。
「……うう。がんばります……。」
「そんな覚悟決めること?」
朱音が拳を握って呟いたので笑いながら返す。
「時人くんがずるいんです!」
そういうと俺をポカポカと小突いた。
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