第75話 誕生日プレゼント
「時人くんの好みって結構子どもっぽいですよね。」
カラアゲがたくさん積んである皿を配膳しながら朱音が笑った。
否定はできない。一番好きなものはカレーだ。今日のカラアゲも朱音にねだるくらいには好きだ。
「……まあ。わかりやすくていいだろ。」
「ええ。たすかります。」
並べ終えた今日の晩ご飯は相変わらずおいしそうだ。
二人でいただきますと一礼してカラアゲを一つまるごと口に入れた。
かりっと揚がった衣の中から鳥の肉汁が溢れ出る。
「あー。美味しい。」
「よかったです。揚げたてですから。」
朱音はクスクスと笑ってから食べ始めた。
山盛り積んであったカラアゲもあっという間になくなって満腹になった。
料理の片付けも終わってソファで二人、ゆっくりと一服していた。
「時人くん、たくさん食べましたね……。」
「美味しかったから。」
「作ったかいがありました。」
朱音はにっこりと笑ってカップの紅茶を飲む。
「朱音、いつもありがとう。」
カップを置いた朱音に言葉を投げる。
「急にどうしたんですか?」
くすくすと朱音は笑った。
「今日、楽しんでもらえたかなって。」
「……とても楽しかったです。こんな幸せな日が来るなんて思ってもなかったですから。」
朱音は目を閉じて噛みしめている。
「そっか。ならよかった。」
袋からだしてソファに座っていたペンギンを朱音が引き寄せて抱きしめる。
「今日一日幸せすぎて、夢みたいです。」
ぬいぐるみに顔を埋めてしまった朱音の表情は見えないが、声から朱音の気持ちは伝わってくる。
「いい誕生日になったみたいでよかった。」
「……時人くん、じゃあ今日の最後にひとついいですか?」
朱音はいまだ顔を埋めたままそう言った。
「いいよ。」
「……抱きしめてほしいです。」
朱音が小さく呟いたその言葉に少したじろぐ。
軽く頭をかいてソファから立ち上がる。朱音の前に立つと気配を察知したのか朱音が顔を上げた。
少し緊張してきた。軽く屈んで朱音を抱きしめる。
腕の中で、あ、と小さく朱音が声をあげた。
華奢なその体は簡単に腕に収まる。それでも朱音の体は女性らしく柔らかい。
「温かいです。」
「そうだな。」
朱音はじんわりと染み入るように言葉を発した。
「時人くん。」
「はい。」
いつもより近い距離で届く朱音の言葉が耳に触れてこそばゆい。
「呼んだだけです。」
朱音は耳元で笑った。
「……朱音。」
「はい。」
「呼んだだけ。」
同じように返すと朱音はまたも嬉しそうに笑った。
「今日はありがとうございました。」
しばらくお互いの名前を呼んでは笑って過ごしていた。
段々と照れが勝ってきて俺のほうから離れると、朱音は少し不満げな顔を見せるも笑って礼を言った。
夜も遅くなったので朱音が帰る準備をする。
ペンギンのぬいぐるみが入った袋を大事そうに抱えて朱音は玄関に立った。
「こちらこそありがとう。」
「……時人くん、私は……。」
何かを言いかけた朱音に首をひねって続きを促す。
「あ、時人くんの誕生日知りたいです。」
多分言いたかったこととは違うのだろう。咄嗟に出た言葉のようだ。
「冬だからかなりまだ先。大晦日。12月31日。」
「そうなんですね。今度は私がお祝いしますから。楽しみにしておいてください。」
「ありがとう。楽しみにしておく。……で、言いかけたのはそれ?」
気になったので朱音の目を見て言及してみた。
「えっと……。時人くんの誕生日を知りたかったのは嘘じゃないです。……でも、また今度お話します。」
「じゃあ待ってる。」
言ってくれないようだ。仕方なく諦める。
「では、帰りますね。名残惜しいですけど……。」
「……そうだな。」
朱音はゆっくりと扉をあけて、おやすみなさいと帰っていった。
長く濃い一日だった。あっという間に過ぎた一日でもあった。
シャワーを浴びても気持ちは切り替わらなかったのか、しばらく寝つくこともできずベッドで寝返りをうちつづけた。
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