第6話 雨の帰り道
「なんであんな所で喋ってんだよ。」
教室に戻ると竜がカラカラと笑っていた。トイレに行った際に見かけたらしい。
「見てたのか。」
それに気づいたなら近づいて来そうだが、そうしなかった事実に驚きながらも返事をする。
「しっかし流石に空気読んだ。アレは近づけん。」
「そんな空気出てるかよ。何もないって。」
どうやら弄りたいらしい。ニヤニヤとしている。
「時人が親しくなってくれると俺も仲良くできそうだし、とりあえず長月さんは時人に任せよっかなって。」
「水樹くんやっぱり長月さんと仲良いよねー。」
前の席から桐島が話に参加してきた。話を聞いていたらしい。
「結ちゃんもやっぱりそう思う?」
「うん。長月さんが話してるの水樹くん以外あんまり見ないし……。」
んー。と指を顎に当てて桐島は続ける。
「私も仲良くしたいから、それなりに声かけようとしてるんだけどあまり会話弾まなくて。水樹くん何の話をしてるの?」
「これといって話してる内容もないけど。」
あらためて思い返してもバラードのこと以外は話題があったわけではない。その件もなんとなく言う気にならない。
「まあ時人相手に会話内容求めても無理な話だしなー。」
竜が嬉しそうに話す。会話を盛り上げる技術はないことも、貶しているわけでもないこともわかっているのでこちらも軽く笑いながら肯定する。
「無理無理。人には向き不向きってあるから求められても応えられない。」
「ちがいない。」
竜がケタケタと笑った。それを見て桐島もいいのかなーそれはー……と呟き苦笑いをしていた。
「でも水樹くん、長月さん相手だと話し方丁寧だよね。」
「あー、まあ仲良いわけじゃないし、距離あるからそんなに親しげにしてもな。」
「俺とか結ちゃんみたいにぐいぐい来る方が話しやすいんだろ。」
こう親しくしている竜だが、実際は高校入学してからの友人で、まだ1月2月の付き合いである。そんな彼がよく理解しているのは時人の態度がわかりやすいからもあるのだろう。
「水樹くんは落ち着いてるし、変なこと言うわけでもないし、私は話しやすいと思うな。あとは、その人と話す気もないってオーラの前髪を変えたらみんなと仲良くできると思うよ。」
「それは無理。そもそも俺には竜の相手で精いっぱい。」
「相手してもらって光栄ですねー。」
3人で話していると昼休みの終了を告げる鐘がなる。午後もおそらくテスト返却などで終わるだろう。
その日の授業を終えて帰路につく。バイトがあるから。と楽しそうに走り去っていった竜を見送り、ゆっくりと傘を差して歩き出す。まだ雨は止まない。
駅の方に分かれる道を過ぎていくと生徒の数はぐんと減る。そもそも公共交通機関を使わない生徒は大体が自転車通学になる。自転車の方が明らかに速いので徒歩通学なんてまあいない。
自転車に乗れないとか、家族の送迎があるとか、音楽を聴きながら歩くのが好き。だとかそういう理由になる。
イヤホンから流れる音楽も好きだが、今日は雨の環境音を楽しみながら帰ることにする。
傘にぶつかる雨の音は、一定でなく揺れがあってその遊びのリズムが好きだ。
家の近くまで歩くと公園の前を通る。まだ明るい時間とはいえ雨も降っていると公園の中はあまり人気も無い。滑り台の下で濡れないように遊んでいる数人のみだ。他はただ濡れた遊具があるだけだった。
「帰らないの?」
それらを見つめて立ちつくしていた隣人に声をかけた。