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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第2章
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第63話 休日の来訪者


俺たちは妙な緊張感の中、一つの机で勉強をしていた。

あの後、どちらかともなく俺たちは離れた。朱音が食後の片付けを。俺はすることもなかったので何となくテキストをパラパラとめくっている。

朱音が片付け終わる頃には集中も進んで本格的に読み進めていた。それに気づいた朱音も隣に座って単語帳をめくりはじめた。

お互いに暗記科目に集中しているせいか、段々と緊張も解けて、いい集中を続けていた。

ある程度時間がたったころ、ソファに投げ出されていたスマホから着信音が鳴った。普段電話なんてかかってくることもないので少し驚く。その画面には萩原の名前が映っていた。

もちろん朱音も知っている人物なのでソファに座ってその場で電話を取る。

『水樹?休みの朝だったけど大丈夫かしら?』

『起きてたから問題ないよ。』

『……そう。ありがとう。あのね、数学の問題集のことなんだけど……。』

話しているとどうやら解説を見てもわからない問題があったらしい。桐島に聞くか悩んで俺にかけてきたようだった。

『結は多分今も勉強してると思って。水樹ならいいかなって。』

俺が朝から勉強しているとは思っていなかったようだ。とはいえ特に問題もなかったのでそのまま電話口で説明をしてみる。相手の顔も見えないので反応をうかがえず本当にわかっているかわからない。が、声の抑揚的に納得はしたようだった。

『助かったわ。なんとなくわかったと思う。』

昨日話したが萩原は数学が難所らしい。今回のテストの日程でいうと数学は初日にあるのでそこを乗り切れば何とかなるようだ。

『なんとなくで大丈夫なのか?』

『……大丈夫よ。きっと。多分。』

語尾の力弱さに少し呆れる。普段は冷静な面が目立つ萩原らしくなく思わず笑ってしまう。

「時人くん?萩原さんですか?」

会話が気になったのか朱音が隣に座ってきた。

「そうだよ。」

『……朱音ちゃんいてるの?』

声でわかったようで萩原が不思議そうに聞いていた。どうやら一緒にいるとは思っても見なかったようだ。

説明する気もなかったが隣で朱音が何ともいえない表情をしていたので、通話中のままスマホを朱音に渡した。

『な、長月です。』

緊張気味に話し始めた朱音に苦笑いして、その場を離れた。キッチンに向かってコーヒーを作り始める。そのためにお湯をわかした。

ソファを見ると朱音が楽しそうに通話している。と、不意に朱音がこっちを向いてスマホから口を離した。

「時人くん、萩原さんが来ても大丈夫か聞いてほしいとおっしゃってます。」

「構わないよ。どうせ竜も来るし。」

「ありがとうございます。では、そう伝えますね。」

朱音はそう言って萩原に伝えているようだ。ニコニコと話しているその顔はとても微笑ましい。

そのまま萩原は通話を切ったらしい。朱音が画面の暗くなったスマホを持ってキッチンにやってきた。

萩原や竜がくるといっても準備をすることもない。朱音の分も沸かしておいたお湯で飲み物を作る。朱音が紅茶を望んだので彼女の分はそれで作った。

「ありがとうございます。……萩原さんがお昼くらいにこちらに伺うようです。」

「りょうかい。」

「……時人くん、お昼どうされますか?」

時間的には少し早いが、朝からそれなりに集中して勉強していた。休憩もかねて丁度いい時間かもしれない。

「……食べようかな。」

「では、準備しますね。」

「ありがとう。」

朱音はそういうとエプロンを身につけた。

「お素麺でも茹でますね。」

そして朱音が大量に水を入れた鍋を火にかけた。これだけ大量のお湯を沸かすのは暑くて体力を使いそうだ。しかし近くにいてもできる仕事もないので朱音にお任せする。季節感のある昼ごはんがとても楽しみだ。



ガラスの皿に氷とともに盛られた素麺は既に涼を感じる。錦糸卵ときゅうり、ハムと具材もたくさんあってとても色鮮やかだ。

「豪華だね。」

「具もいっぱいある方が楽しいですから。」

いただきますと告げて具材をいくつかつゆに入れる。とりやすく一口ずつの束になったそうめんを一つ掴んでつゆに浸す。具材とともに口に運んだ素麺は冷たくてするりと運ばれていく。湯で加減も丁度よい。ときおり感じる錦糸卵の甘さときゅうりの歯ごたえ。ハムのアクセントが最高だ。

「美味しいよ。」

「よかったです。」

いつものように感想を聞いてから朱音も食べ始めた。エプロンを脱いで白いシャツを着た彼女がそうめんを啜る様はとても絵になる。ただ食べているだけなのだが。ルックスが整っていると何をしても様になるのだろう。

「そういえば柳さんはいつ頃来られるのでしょうか?」

「昼過ぎとは言ってたけど詳しい時間は知らない。そのうち来るだろ。」

「お二人のルーズというか、縛られないというか、自由な感じ。すごいいい関係ですよね。」

「どういう意味?」

「……私もわかんないです。」

そう言って笑い出した朱音につられて噴出す。たまに朱音は自分自身わかっていないような発言をする。なんとなく見切り発車で口に出た言葉なのだろう。ある意味朱音の本心だと思う。その真意をつかめていないのは申し訳ないが、いずれわかるようになっていきたいと思う。

お昼を食べ終わって休憩している頃に来客を知らすチャイムが鳴った。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ幸いです。


進展が遅く今回も少し短いです。はやく時人たちが夏休みに入ってほしいのですが……。



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