第61話 期末テスト対策会
あれだけ並んでいた料理が空っぽになった頃。食事中に口を開くことは少ない行儀のいいメンバーだが更に口数は少ない。疲れなのか、眠気なのか、満腹感からか、竜にいたっては腕を枕に突っ伏している。
「竜……寝てる?」
友里も思わず苦笑いしている。
「起きてるー。眠たさー。」
顔も上げずに竜が返事をする。
「ご飯も食べたし解散しよかー。私もそろそろ帰らないといけないし……。」
桐島も腕時計で時間をチェックしながら苦笑いだ。
「……帰ってもう少し勉強しないとね……。結と水樹に申し訳ないわ。」
財布を取り出しつつも萩原はやる気を見せている。教えた甲斐はあったようだ。
「それを言われちゃうと俺もがんばらないといけないね。」
感化された友里が呟いた。この二人は勉強面では、いい関係性のようだ。
全員がもそもそと立ち上がってレジに向かう。席で集金していた竜に会計を任せて俺たちは店を後にした。
「外は暑すぎるー……。」
「それ言わないでー……。」
レシート片手に店をでてきた竜の一言で暑さが余計に感じられる。
「……うだうだしてても仕方ないし解散しよっか。帰ってやることもできたしね。」
だれている竜に友里が声を上げた。
「そうね。……水樹、今日はありがとう。お邪魔しました。」
「水樹くんの家にまた遊びに行くねー。」
「ひとまず明日の学校乗り切るかー。」
三人が駅の構内に消えていく。盛り上がりの中心であった桐島と竜が向こうにいるためこちらは一気に静かになる。
「俺たちも帰ろう。」
「そうですね。」
友里が自転車を取ってくるのを待って歩き出す。
「友里も俺たちに合わせて歩かなくて構わないぞ。」
帰ってまだ勉強するらしい友里が俺たちの横で自転車を押しているので少し気を遣う。それに日も沈んだとはいえ外は暑い。早く帰るにこしたことはない。
「……そうだね。じゃあ先に帰ろうかな。」
クスリと笑って自転車にまたがる友里。その動作すら爽やかだ。
「じゃ、水樹、長月さんお疲れさま。今日は助かったよ。」
友里が颯爽と自転車で駆けていく。俺たちも歩いていく方角は一緒だがすぐにその背中が見えなくなった。
「……俺も自転車買うかな。」
歩くのは好きだし、そもそもインドアなので乗る機会は少なそうだが、あると便利だろうと思う。
「……自転車通学しはるのですか?」
「……いや、しないかな。」
登校は別々だが、帰りは一緒になることが多い。わざわざその時間をを削る意味も無い。
「では買ってもいいと思います。」
「……あんまり意味わからないけど。買わないと思う。」
朱音が嬉しそうなのでいいと思う。ニコニコとしていたので破壊力の高いその笑顔に思わず視線を逸らした。
会話もそこそこに歩を進める。会話が途切れて訪れる沈黙も悪くは無い。朱音も今日楽しかったようでニコニコとしている。
「朱音は勉強進んだ?」
「はい。……一人でするよりも誰かいたほうが集中できるみたいです。」
「あーなんとなくわかる。」
別に監視されているわけでもないが、見られている気がすると何となく集中できる。一人で静かに勉強するのも嫌いではない。それでも勉強会なんて初めてだったが悪くは無かった。
「時人くんさえよければ、今度の週末も時人くんの家で勉強してもいいですか?」
「俺もその方がよさそう。」
明日一日平日を挟めば休日だ。明けの月曜日からテストも始まることだし最後の詰め込みには丁度いいだろう。
俺たちもお互いに教えあうことは無いが、得意教科は被っていない。何かあったときに聞ける相手がいるというのは大きいかもしれない。
「では、お邪魔しますね。楽しみです。」
「勉強するだけだろ……?」
「……勉強会なんて初めてで。今日楽しかったですから。」
「……確かに。」
そもそも誰かと勉強するなんてことも初めてだった。一人でするものだと思っていたが、誰かに教えるというのも自分の身につくようだ。今日は基本的に暗記に専念していたが、萩原に教えていた甲斐もあって頭に数学も残っている。
「朱音は今回、いい点数とれそうでよかった。」
「……中間のときは堪えましたから。今回は汚名返上です。」
朱音が期末で点数を取ることは来年の推薦の条件だ。この調子なら問題も無さそうだ。
「じゃあ……勝負しようか。」
「勝負ですか?」
「合計点で高い方が勝ちってことで。」
思いつきで朱音に発破をかけてみる。これでお互いにやる気も高鳴る。
「……いいですね。時人くんに負けませんよ?」
「俺だって負ける気無いから。」
「では……折角ですし何か賭けませんか?」
「賭け?」
朱音は悪戯を思いついた顔をしている。ニヤニヤとこちらを見ている。
「はい。……勝った方にご褒美ってことでどうですか?」
「ご褒美?何にする?」
「……何がいいでしょう……?」
見切り発車だったようだ。そういえば朱音が何かを欲しがっているところを見たことが無い気がする。服装もシンプルなものを好んでいるようだし、アクセサリーをつけているのを見たことは無い。そもそも物欲は薄いようだ。
「何か欲しいものでもあった?」
迷っていた朱音に笑いながら聞いてみる。
「……考えておきます。……時人くんは?」
「じゃあ俺も何か考えておく。」
欲しいものはいくらでもある。楽器なんていくらあってもいいし、その周辺の小物、消耗品も必要だ。だが金額的にも負担は大きくなりそうなのでねだる気も無い。
趣味のものを抜くと咄嗟には出てこないものだったので、朱音の真似をしておいた。
「……楽しみです。」
朱音は満足そうに呟いた。
……勝っても負けても朱音の望むものを聞き出したいところだ。負ける気も無いが。
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テスト回がこんなに長引くつもりもなかったのです。はやく夏休みに入ってほしいところ。




