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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第2章
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第60話 期末テスト対策会

休憩を経てから更に時間も流れた。問題集に四苦八苦していた萩原は山を乗り越えたようで教えることも減っていた。

自分の勉強に集中していて周りを見ていなかった。ふと辺りを見渡すと各々が集中しているようでペンの走る音と紙をめくる音程度しか聞こえない。

肩をまわして凝りを解す。それに気づいた萩原がこちらをみて助けを求めていた。

「……どうした。」

「この問題、どうしたらいいの。」

萩原がグラフに躓いていたようで解法を導く。最初の頃に比べて教えたときの理解が早いため、大分楽になった。

「……って感じで。次も似たような問題だからやってみて。」

「ありがとう。がんばるわ。」

目の輝きは失われていない。萩原は努力を見せている。この辺りは体育会系の彼女の本質があるのだろうか。

「……時人ー。お腹すいたー。」

会話を聞いていたのか、竜が頭を上げてこちらを見ている。右手のペンは淀みなくまわり続けている。

「もういい時間だもんねー。そろそろ切り上げて何か食べに行くー?」

桐島が同意した。彼女もお腹がすいているようだ。

「明日も学校あるしね……。」

疲れを見せている友里が弱弱しく声を上げる。

「そうね。今日はこのあたりにしましょう?」

早くも問題集とノートを仕舞い始めている。今日一番の目の輝きだ。

「おっけーい。じゃあ今日はここまでにしよーぜー。」

それぞれ片づけを始める。荷物は部屋に置いておけるので片付けも何も無い。それぞれのテーブルのグラスをシンクに運ぶ。

「時人くんの予想通りでしたね。」

朱音のグラスを掴んだ瞬間そう言われる。

「予想?」

「昨日言ってましたよ。どこか行くって。」

「あー確かに言ったかも。」

予想もなにも適当に言っただけではある。ニコニコとしている朱音を見て小さく罪悪感もある。悪いことはしていないので気のせいだが。

「なんだー?時人はみんなとご飯に行きたかったのかー?そう言ってくれてよかったのにー。」

「うるさい。」

会話を聞いていた竜が横から入ってくる。朱音が笑っていたのでよしとする。竜の頭を軽くチョップして、竜の食べた後のお菓子のごみもまとめて捨てる。思ったより食べていたようで大量にあったお菓子も残り僅かだ。ほとんど竜が食べていたが、それでもお腹がすいたと言う彼の胃袋に驚愕する。

「近くにファミレスかなにかあったけー?」

桐島がスマホを開いて検索している。近くにはなかったので駅の方まで出た方がいいと思う。

「帰り道すがら探すかー。」

「この辺りご飯屋さんないからね。」

割と家が近い友里が苦笑いしている。俺も朱音も地元ではないのでそこまで詳しくない。友里が言うなら確からしい。

駅の方まで歩く方向で定まった。片付けも終わり帰る準備も終わった。それぞれゴソゴソと立ち上がる。

「じゃー時人ハウスでるかー。残ったお菓子処理しててー。」

「遅くまでありがとうね。」

そこまで広くない玄関なので一人ずつ靴を履いて家を出る。竜を先頭に一人ずつ家を出て行く。

「外まだ暑いねー……。」

「湿気が……なかなか厳しいね。」

桐島が手で顔を扇いでいる。暑そうな友里も爽やかだ。

「行きましょうか。」

「そうだな。」

電気を消して家を出る。そんなに遅くならないと思ってエアコンは点けたままだ。

廊下に並ぶクラスメートの顔を見る。疲れている顔、暑そうな顔それぞれだ。中でも朱音の楽しそうな顔が一番輝いて見えた。



「この時間でこの暑さってなんてこったいー。」

「夏の体育館より暑いわ……。」

萩原の誇張した表現に誰もが苦笑いだ。それを誇張していないと感じるほど蒸し暑い。

廊下を歩いてエレベーターを待ちながら

「駅の方に向かうんだよね?」

「おー俺たちの帰り道的にもそっちのが助かるー。」

「結構いい時間になっちゃったしねー。私もあんまり長居出来ないかもー……。」

ここから電車で帰ることを考えると確かに微妙な時間ではある。

「まあとりあえずいこーぜー。」

エレベーターに6人も乗りこむとかなり蒸し暑い。地上階に着くまで誰も口を開かない。振動が目的に着いたことを知らせて扉が開く。最後に乗り込んだので入り口側にいた俺が先に出た。扉を押さえて閉じないようにする。全員が降りたのを確認してから手を離した。

既に日は沈んだものの気温はさほど落ちていない。今日は熱帯夜になりそうだ。



「やっぱりエアコンは神器。」

駅の近くのファミレスに着いた竜が呟く。空調の効いた店内に入っただけで回復した感覚だ。

6人が1つのテーブルに集まると狭く感じる。メニューを顔を集めて見た。少し時間がかかったが、全員決まったようで竜が集計して注文している。

「竜くん……すごい頼むねー……。」

竜の分の注文に桐島が若干ひいている。先ほどのお菓子の量も知っているがゆえに他のメンバーも驚きを隠せない表情だ。

「頭使ってるからなー。暑いし食べないとバテるだろー?」

なぜか当の本人はドヤ顔をしていた。

「あはは。竜が夏バテしてる姿なんて想像できないけどね。」

「ユーリも想像できんなー。……時人は余裕で出来てしまうが……。」

竜の発言に友里も苦笑いだ。それが肯定を示していてため息が出る。その様子を見た桐島が噴出す。

「ホント。水樹くんってすぐにバテてそうだよねー。」

萩原と朱音もクスクスと笑い出した。体力が無いと指摘されているようなものなので少し悔しい。体力作りでもするべきだろうか。

「時人はなー、1ヶ月くらい前の頃は栄養足りてない顔色してたから余計なー。」

「……その辺は改善したからいいんだよ。」

食生活は入学当初と比べたら劇的に変わっている。そう言われると顔色も良くなっているのだろうか。

「改善したっていうかさー……してもらったの間違いだろー。」

竜がにやりと笑って朱音の方を見やる。

「羨ましい話だよ。ほんとさー。」

「確かにー。朱音ちゃんに感謝しなよー?」

「してるって。」

竜に重ねるように桐島がニヤニヤと笑った。その朱音もニコニコと嬉しそうだ。

「私も楽しんでしてますから。」

「……どういう意味?」

友里が話の流れが読めておらずポカンとしている。俺と朱音の関係性、取引を知らないからだろう。

「水樹くん、朱音ちゃんにご飯作ってもらってるんだよー?ずるいよねー。」

「私も鍵盤教わってますから。」

俺が返事するより先に朱音が満足そうに呟く。

「なんていうか……。うん。よくわかったよ。」

何か言葉を飲み込んだ友里が頷いていた。

「おまたせしましたー。」

丁度いいのかそのタイミングで店員が大量の料理を台に乗せて運んでくる。テーブルの上は皿でいっぱいいっぱいだ。

「待ってたー。さー食べるぞー。」

「……やっぱりすごい量ね。」

萩原が思わず苦笑いしていた。

さすがに目の前にすると空腹が余計に意識される。ひとまず食欲に従おう。





ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ幸いです。



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