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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第2章
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第56話 テストに向けて


「とはいえ今日は俺が無理なんだよなー。」

勉強会の提案者の竜がため息をつく。

「え、俺の家は確定?」

「あー流石に多いとだめ?」

「俺は……いいけど。」

竜が家に来たいと言っていたのも記憶に新しい。メンバーも別に悪くないので勉強会は楽しみだ。朱音もニコニコしながら話を聞いている。

「じゃー明日とか?萩原もテスト前だから部活無いだろうしー。他のメンバーは大体暇してるだろー。時人バイトー?」

「明日は無い。テスト前はなるべく入れてないからテストまで無いよ。」

「やるじゃーん。とりあえず明日で。長月さんも明日あいてる?」

「大丈夫です。」

「いえーい。耐えたー。」

「何が耐えたのー?」

いつの間にか教室に戻ってきていた桐島が会話に入ってきた。いつまでも席を占領しては悪いので、とりあえず立ち上がる。

「アレ明日しよっかなーって。二人は明日空いてるみたいだし。」

「おっけー明日ね!……あ、朱音ちゃん次面談だよー。」

「ありがとうございます。いってきますね。」

朱音が教室を去っていった。桐島が自分の席に座ったので空いた朱音の椅子に移動する。

「どこでやるか決まったのー?」

「おー時人ハウスのおっけーがでましたー。拍手ー。」

「はくしゅー。」

「何の拍手だよ……。」

拍手は起こっていなかったがとりあえず突っ込んだ。相変わらずノリの合っている二人に思わずため息をつく。

「結ちゃん、萩原誘えたー?」

「あ、うっかり。ちょっと待っててー。」

桐島はそういうと萩原の席に歩いていった。

「……なんていうか珍しいな。」

「なにがー?」

「桐島ってこういうとき、俺ら叱って勉強しろとか言いそう。」

自習時間として当てられた時間をこうして私語しているとき桐島なら怒りそうだ。

「……ま、結ちゃんも楽しみにしてるんだろー。」

竜が明後日の方向を見ながら投げやりに答えた。

「そうか。」

「奈々も行けるってー。」

桐島がVサインしながら笑顔で戻ってきた。萩原の席に聞きに言っていたようだ。その萩原は既に自習に戻っている。

「これで全員そろったなー。これも俺の人望の高さゆえ……。」

「……そうだな。」

竜の冗談を相手する気になれず流しておく。

「と、とりあえず明日だね。」

桐島も流すことにしたようだ。変わらず鼻高々としていた竜はどこか寂しげだった。

「こ、これも俺の人望の高さゆえ……。」

「聞こえてたから。」

「しっかり返事したし、ねー……。」

「くっ……。ここまでかー。」

竜とすれちがうように朱音が戻ってきた。朱音に声をかけられたクラスメートが教室を出て行く。

「……柳さん、すごく落ち込んでましたが何かあったんですか?」

「いつも通りだ。」

「いいんですか?それ。」

クスクスと笑う朱音。

「いいんだよ。それで。」

桐島はやれやれとでも言うように肩をすくめて自習に戻ったようだ。

「……時人くんがそこに座っているの初めて見ますね。」

ちょうど朱音の席から立とうとした時に朱音が呟いた。

「ああ、悪いな。立つよ。」

「……いいですよ。こっち座ってますから。」

朱音が俺の席に座った。メガネを外して腕を枕に机に突っ伏する。

眠るのだろうか?授業時間ももう終わりが近く、そんなに時間がない。眠るにしても勉強するにしてもどちらにしても中途半端になりそうだが。

そう思っていると朱音が顔だけこちらに向けた。

「朱音?」

「……なんとなく見てます。」

にこっと笑いながら朱音がそう言った。先ほどの仕返しのつもりだろうか。

「……じゃ、俺もそうしようかな。」

頬杖をついて朱音の視線と交差させる。

「……楽しんでるところ悪いけど、集中しましょうねー。」

前の席から桐島の叱咤がついに飛んできた。俺たちは小さく笑い合ってそれぞれ自分の席に戻った。時間は少ないが勉強しておくことにする。



「朱音は面談で何聞かれてたんだ?」

朱音との帰り道、横で歩く朱音に問いかける。聞いておいてなんだが何となく予想はついている。

「中間の点が低かったので期末がんばれ。と。」

小さくガッツポーズしながら朱音が決意を見せている。やはり、予想通りだった。

朱音が教室に戻ってくるのは早く、面談の時間が短かったこともあっておそらく推薦の話までは出てないようだ。

「そっか。じゃ、がんばらないとな。」

「……中間テストでは時人くんに心乱されましたが、今回は大丈夫なので問題ないです。……多分。」

最後に自信なさげに付け足していた辺りが不器用な朱音らしい。

「……大丈夫だって。明日は皆で勉強するし。」

中間テスト時では悪意がなかったとはいえ少し責任も感じる。

「……それなんですけど、時人くん、少しお願いしてもいいですか?」

「お願い?」

「……今日から期末まで、キーボードの練習じゃなくてテスト勉強に時間を当てたいんです。」

「ああ。もちろん構わない……というよりそうすべきだと思う。」

昨日は俺がバイトだったし、その前はしばらく朱音が来ていなかったのもあって最近は朱音に鍵盤を教えていなかった。久しぶりに聞いてみたい気持ちもあったがここは仕方ない。

「ありがとうございます。」

「……それならご飯もテキトウに済ますけど?その方が朱音の時間作れるだろ。」

「それはダメです。」

断られると思って一応提案してみたが、もちろん断られてしまった。朱音の睨み顔つきだ。朱音のご飯を食べられる機会が減るのはもったいない。断られてよかった。

「ありがとう。」

「なんでお礼なんです?」

朱音のぽかんとした表情が可愛かった。



「ごちそうさま。今日も美味しかった。」

朱音の作った晩御飯を食べ終わる。今日もすばらしい出来だった。

「お粗末さまです。」

カチャカチャと朱音が使った食器を片付け始める。今日から俺の教えることもなかったので仕事がない。とはいえ朱音は手伝われることをよしとしていない。というより楽しんでやっているフシがある。なのでのんびりとソファに座って勉強をしておくことにした。朱音も片づけが終われば勉強するため早々に帰るだろう。

「時人くん、コーヒーでいいですか?」

「ありがとう。」

朱音が入れたコーヒーを飲みながらペンを走らせる。洗う食器の音と、ペンが走るカリカリといった音だけが聞こえること数分。朱音の仕事が終わったようだ。エプロンを外している朱音に声をかける。

「お疲れさま。ありがとう。」

「いえいえ、楽しいので。」

「それでも、助かってるから。」

そう告げると朱音が嬉しそうにニコニコとしていた。

朱音が棚からもう一つカップを取り出して紅茶を作っている。一息入れてからから帰るのだろう。

「時人くん、少し詰めてください。」

二人がけのソファの真ん中に陣取って勉強していたが、朱音が隣で飲むのだろうかスペースを促してきたので場所を空ける。

すると、朱音は持ってきていたカバンから勉強道具を取り出して広げた。

「……朱音もここで勉強するのか?」

「え、ダメでしたか?」

朱音が驚いていた。

「いや、いいけど。帰ってするんだと思ってたから。」

問題なんてない。まっすぐな朱音の前では手も抜けないし集中も続きそうだ。

「邪魔だったら言ってくださいね。」

「邪魔なんて思わない。」

「よかったです。」

いい緊張感だ。来年の自分のためにもひとまず期末テストは万全で挑もう。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ幸いです。


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