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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第1章
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第46話 休日の呼び出し


「どこかで見たことあると思ったが、やはりここで働いていた奴だったか。」

前髪をかきあげながら松山兄は俺たち三人を見ていた。

「……ユーリのお兄さん、昨日ぶりですねー。」

竜が接客用に鍛えられたスマイルで松山兄に返事をした。そう言って竜は俺たちの前に出る。

「お前は柳だったな。……そう警戒すんなよ。」

「警戒なんて、そんなことないっすよー。」

竜が前に出てくれたので萩原と俺は後ろから二人を見ていた。昨日の朱音と違って萩原は怯えている様子はなかった。嫌悪感がにじみ出ている表情をしている。

「どうせ後ろの二人をどう逃がそうか考えていたんだろ。俺の印象も悪くなったもんだ。」

「いやまあ、あんまり良い印象はないっすね。」

「……言ってくれる。まあいい。今日は何もする気もなかったしな。」

松山兄は鼻で笑って続ける。

「次は逃げられないタイミングで声をかけるとしよう。……その店で働いていることもわかったことだしな。」

そして竜のバイト先を顎でさしてから去っていった。

「……竜くん大丈夫なの?」

「大丈夫だろー。何も悪いことはしてないしなー。」

「……次も来るって言ってたわよ。」

「んー。俺はいいんだけど。……な?」

竜はこっちに投げかけた。

「……なに?」

「いや、わからないならいいや。明日話すわ。ユーリ含む他の面子にも言っておきたいし。」

「気になる止め方だな。ま、いいけど。」

「……私が気になってくるんだけど。」

「俺たち大抵こんな感じだから気にしても仕方ないと思うぜー。」

「竜がそれ言う?」

「はっはー。……そろそろ戻らないとな。今日は来てくれてあざます。また遊びに来てくれよなー。時人、ちゃんと萩原を送ってやれよー。」

じゃあまた明日学校でー。と、竜は店に戻っていった。

「……で、水樹は大丈夫なの?」

「なにが?」

「さっきの。水樹も名前覚えられてるし。」

「……昨日のメンバーの中で俺に一番興味はないだろ。」

「……冷静だね。」

松山兄はあの見た目もあって少し恐怖はある。でも、まだ何かされたわけではないし現実感が無いのかもしれない。

「……帰るか。」

「そうね。どっと疲れたわ。」

肩を押さえて首を回しながら萩原は疲れをアピールした。モール内をゆっくりと歩きながら駅に向かう。

「水樹、ありがとね。嫌な出会いもあったけど竜くんのバイト先に連れてきてもらって嬉しかった。」

「それならよかった。」

松山兄に出会ってしまったことでさっきの店に連れてこない方がよかったかと思ったがそうではなかったようで安心した。

「水樹は話してて面白いのに……。友だち少ないのが意外。」

「……面倒じゃん。」

「そんなこと言う癖にこうやって休日に呼び出しても来てくれたじゃない。」

「それは、まあ。聞いてほしいことがあるなんて言われたら来るだろ。」

「……そう。じゃあまた誘うわ。……誘えば遊んでもらえるんでしょ?」

そして萩原はクスクスと笑った。話題もそこそこに歩き続けて駅の改札口まで着いた。

「今日はありがと。話も聞いてもらったし、竜くんにも会えた。楽しかったわ。」

「こちらこそ楽しかった。」

「じゃ、また明日。学校でね。」

「お疲れ様。」

ネックレスが入った小さな紙袋をぶら下げて萩原は駅のホームに消えていった。俺も帰るとしよう。夕日が沈もうとしていく中、西日がまぶしくて目を手でかくす。日差しがきつく気温も高い。ゆっくりと歩いて帰ろう。



部屋で勉強をしながら過ごす。

今日は突発的に出かける予定が出来てしまったが、勉強の進行具合に問題は無さそうだ。期末テストも問題なくこなせそうだ。

集中も切れてきてクルクルとまわるペンが止まらない。少し早いがそろそろ寝ることにしよう。

諸々の勉強道具を片付けてシャワーを浴びる。熱めのお湯が勉強をした身体の凝りを解す気がした。

リビングに戻ってくると机の上のスマホが震えてがたがた唸っていた。ちょうどメッセージが届いたらしい。送り主はしばらく見ていない相手だった。

『時兄ぃ!あそぼ!!』

バスタオルで髪を拭きながら返事をする。

『久しぶりだな。大須。』

『そうだよ!だからあそぼ!!』

『テストが近いから終わったらな。』

『えー。しかたないなー。テストおわったらおしえてね!』

不貞腐れながら文句を言っている大須の顔が浮かんだ。微笑ましくて笑ってしまう。

大須が遊んでと誘ってくるのは嬉しい。年齢は離れていても大須が親しく接しているのがよく分かる。

『わかった。また連絡する。』

『あかねちゃんもよんでおいてね!』

そのメッセージの内容に返事を打つ手が少し止まった。大須には既にメッセージを見たことが伝わっているはず。ここで返信を止めるのは怪しいので慌てて文字を打った。

『つたえておく。大須そろそろ寝ろよ。』

『えーまだはやいよー。』

『俺はもう寝るから。おやすみ大須。』

『はーい。時兄ぃおやすみなさい。』

体育祭があって松山と少し打ち解けた。萩原とはそれなりに仲良くなった。

その一方でしばらく朱音ときちんと話していないし、松山兄になにか巻き込まれそうな気もする。

ここ最近で自分を取り巻く状況は大きく変化した。良い方向にも悪い方向にも。

期末テストが終わるまでに悪い方向に傾いた矢印が少しでも変わってほしい。そう願った。


その願いは早くも翌日に叶うことになった。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ嬉しいです。



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