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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第1章
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第45話 体育祭明けの休日


体育祭の翌日。

ひりひりと痛む顔の肌が昨日の日差しを思い出させた。今日は休みでバイトも無い。

ゆっくりと身体を起こして腕をまわして凝りを解す。いつもより遅く目が覚めたので疲れていたのだろう。

カーテンを開けると日は高く昇っていた。することはないがひとまず朝ごはんをたべることにする。そういえば期末テストも近い。少し勉強しておくことにしよう。今日の予定は定まった。

ブランチとなった朝食を済ませて勉強をしているとスマホから通知音が鳴った。相手は昨日連絡先を交換した萩原だった。

『水樹、今なにしてる?暇してない?』

『期末の勉強してた。』

『そっか。ちょっと付き合ってくれない?』

『何に?今日?』

『体育祭の翌日で部活も無いから今日がいい。聞いてほしいことがあって。』

萩原とメッセージの間隔もなく淡々と話がすすんだ。集合場所は竜とも行ったあのファミレスだった。部屋着から着替えて準備を済ませる。萩原は電車で来るみたいなので時間的に歩いていけばちょうどよさそうだった。



先に着いたので店で待つ。ドリンクバーを頼んでコーラを飲む。持ってきておいた勉強道具を取り出してしばらくペンを走らせた。

「ごめん。待たせた?」

萩原は少し頬を染めて現れた。顔を手で扇いでいて外はかなり暑いらしい。

白のブラウスに短めのデニムジャケット。ベージュのクロップドパンツに白いスニーカー。彼女のスタイルの良さがよく分かる服装だった。

「勉強してたから大丈夫。」

「……そこは待ってないっていうべきじゃない?」

やはり暑かったらしくふうと深く息を吐きながら向かいに腰をかける萩原。

「水樹はお昼ご飯は食べたの?」

「朝が遅かったからそこまでお腹すいてない。」

「私、少し頼んでいい?」

「気にしないでいいよ。」

そう言うと萩原はパスタとドリンクバーを注文した。店員が去って彼女は野菜ジュースをグラスに入れてきた。

「萩原ってバレー部だっけ。」

「そうよ。知ってたのね。」

「竜が言ってたから。」

「……竜くん。ね。」

彼女がかみしめるようにそう言うと店員がちょうどパスタを運んできた。お腹がすいていたのか萩原はフォークを使って早々と食べ始めた。

食事中に話しかけるのも躊躇われて出しっぱなしにしてあったテキストをぱらぱらとめくる。

「水樹、案外頭いいよね。テストの点とってたし。あんなに授業サボってるのに。」

萩原は食べつつこちらに話しかける。

「テストの点を取っておくのが条件の一つだったから。」

「条件?何の?」

「一人暮らしの。」

「あーそうだったんだ。それでも点数とれるのすごいね。」

萩原は部活に忙しいうえに勉強と相性がそこまで良いわけではないらしい。

「私もがんばらないとね。」

彼女の決意を聞きながらテキストの文章に目を走らせる。そのまま萩原が食べ終わるのを待った。



「食べた食べた。ごめん待たせて。」

「いいよ。勉強してたし。」

萩原がドリンクバーにおかわりを取りに行っている間に店員が皿を下げていた。そのタイミングで勉強道具を仕舞う。

「水樹、今日は来てくれてありがと。」

「それはいいけど何かあった?」

「無いならわざわざ呼び出さないわよ。」

グラスの中の氷をカランカランとストローで回しながら萩原は言葉をためた。

「……竜くんって好きな人とかいるのかなって。」

視線を斜めにやりながら彼女は照れくさそうに言い放った。

「あー知らない。彼女はいてないけど。」

「水樹で知らないの?意外……。ふたり仲良いよね?」

「仲はいいと思う。」

「だよね。そんな話はしないの?」

そう言われて思い返す。恋愛については俺から話したあの件くらいしかしていなかった。まして竜にそんな相手がいると思っていなかった。

「……してない。」

「何よ、その妙な間は。」

「ところで、なんでそんなこと聞くんだ?」

「露骨に話を変えたわね……。ま、いいけど。……最近、竜くんちょっといいなって思っててね。」

話を変えたのがばれたものの萩原は気にせず話した。

「昨日は助けてもらったし、帰りの松山くんのときも頼りになったし……。」

萩原は昨日のことを思い出しているのか目を閉じて語り始めた。

「よく話すほうではあったけど普段はどちらかといえばふざけた態度の方が多いじゃない?そんな竜くんにさ……。」

顔を手で隠していたがショートカットの髪から見える耳は赤く染まっていた。

「あんなことされたら……ちょっといいなって。」

最後の方は言葉を聞き取るのもギリギリなほど小さな声だった。

「萩原は竜が好きなのか。」

「……そんなストレートに言わないでよ。」

右手を額に当てて表情を隠しながら彼女は肯定した。

「結にも言ってないの。……秘密にしていてくれる?」

「それは構わないが……。」

「なに?」

「……俺は隠し事が苦手らしいから。」

「わかる気がするわ。」

特に桐島と竜は俺の内面をよく読みとっている。

「まあばれたならそれはそれでいいわよ。」

萩原はあっけらかんと言い放った。

「水樹に何かしてもらおうと思って聞いたわけじゃないの。好きな人とかいたら諦めるし。それが聞きたかったから。」

「……聞いておこうか?」

「水樹が急にそんなことを聞いて何かあったと疑われない?」

「否定は出来ない。」

「じゃあいいわよ。」

そう言うと萩原はクスクスと笑った。



そのあとしばらく萩原と話をしていた。ドライであっさりした性格の彼女はすごく話しやすかった。

「でも水樹はあまり竜くんのことを知らないのね。」

「……たしかに知らない。」

「あんた達……本当に友だちなの?」

「……じゃあ会いに行くか。」

今日は竜がバイトの日だ。そう昨日聞いていた。近くまで来ているしちょうどいい。

「え、なんで。」

「折角だし。……萩原も会いたいだろ。」

伝票を手にして立ち上がる。萩原も慌てて立ち上がった。

「ちょ、ちょっと待ってよ。」

「竜はこの近くでバイトしてるんだ。」

レジまで歩いて会計を済ませる。

「なんで全部払ってるのよ。」

「萩原は部活でバイトとかしてないだろ。」

「でも、水樹なにも食べてないじゃない。」

「コーラは飲んだ。」

「もうなにそれ。……じゃあごちそう様です。」

店を出るとあらためて萩原に礼を言われた。

竜がアルバイトをしているのは近くのアクセサリーショップ。値段の幅も広く学生にも人気があると言っていた。

歩いて駅にあるモールに入る。夕方になったとはいえ少し歩いただけでも暑かった外からモールに入れば空調が効いていて落ち着く。

案内図を見て竜のアルバイト先を見つけてから歩き出す。休みの日のモール内は少し人も多く歩きづらかったが、萩原とはぐれないように速度を合わせて店を目指した。



「お、時人。めずらし……え。萩原?何の組み合わせ?」

店に入ると店の制服を着た竜がこちらに気づいて声をかけてきた。

「茶化しに来た。」

「違うでしょ。近くにいたからちょっと見ていこうって。」

「ふーん……。まあいいや。二人ともゆっくりしていってよ。」

いま店内には客は少なく竜がついてくれるようだった。もう一人の店員は接客中であったが竜となにかアイコンタクトをしていた。向こうの店員に友人だと説明していたらしい。

竜は俺の首に腕を回して小声で話しかける。

「なんで萩原と二人なの?デート?」

「なわけないだろ。たまたまだよ。」

一応秘密にすると言ったので萩原と偶然出会ったことにすると言っておいた。

「だよなー。時人が諦めるわけないなー。」

竜が俺から離れてオススメを説明し始めた。シルバーアクセを見るのは好きだが一つも持っていない。

「時人にはこの辺がオススメかなー。……萩原に似合いそうなのはこの辺だなー。値段的にも手が出しやすいし。」

竜が萩原についたのでしばらく一人で見てまわる。メンズにもレディースにもデザインが気に入ったものが多く見ているだけで楽しかった。

萩原は竜と楽しそうにアクセサリーを見ている。ネックレスを試着していた。

「似合ってるじゃーん。萩原はスタイルがいいし、顔もいいからシンプルな方が萩原自身を邪魔せず飾っていていい感じだと思うぜー。」

「え、そ、そう?」

二人は小さな鏡に映る萩原を見て話していた。萩原は気に入ったようでいい笑顔をしている。

「時人もそう思うだろ?」

「似合ってる。」

「ほら時人もこう言ってる。」

「いや、見てなかったじゃない……。」

なんだかんだと言いつつも萩原は購入を決意したようでレジに並んでいた。

「お買い上げありがとうございまーす。」

「竜くんまだバイト?」

「そー。まだシフト残ってるからこの後ご飯でもってわけにはいかないんだなー。」

「そっか。」

萩原は微妙な表情をしていた。

「また遊びに来てよ。時人も次は何か買ってけなー。」

店の入り口まで見送りに来た。

「ありがとうございましたー。」

頭を下げていた竜に軽く手を振り歩き出そうとした瞬間だった。


「おっと、昨日ぶりだな。柳に水樹といったか。」


松山兄がそこにいた。





ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ嬉しいです。



またも朱音が登場しない回に。



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