第43話 体育祭打ち上げ
「えー、優勝でも最下位でもなく二位と微妙な結果でしたがみんな頑張りましたー。おつかれー乾杯!」
なぜか乾杯の音頭をとっていた竜に合わせてグラスを少しあげる。
クラスメートの大半が集まったこの打ち上げは近くの焼肉店で行われた。
大きな部屋に並んだテーブルに焼けた網。時間制限もあるようで既に肉が焼けて食欲をそそられる匂いがした。
乾杯の音頭をとって満足げな竜が腰を下ろした。大部屋の隅、テーブルの端に陣取った俺の隣に座る竜は箸をもって焼けるのを待っていた。
対面の席には今日一日忙しそうにしていた松山が座っている。その隣には桐島が座っていた。
松山と話すこともないのでトングを持って焼くことに専念する。いい色になった肉をそれぞれの皿に放り込んだ。
「時人と行くと焼いてくれて楽でいいなー。」
そう言ってタレにつけた肉をほおばって満足げだ。
「ありがとー。水樹くんも自分の分とってる?食べないとダメだよ。」
桐島は俺が少なめに取っていたのを気づいていたようだ。
「そうだよ水樹くん。せっかくの食べ放題だしもったいない。」
松山が爽やかに微笑んでそう言った。
「ちゃんと食べてる。」
「ユーリもちゃんと食べとけよー。」
竜が店員を呼んで追加の注文をする。頼まれた大量の生肉を焼いては食べ賑やかな時間が流れた。
既に満足した俺と桐島とは別で未だに食べ続ける竜と松山。焼けばその分だけ食べる彼らの分を俺たちは焼き続けた。
「水樹くん、この人たちに付き合って焼くことないよ。もう放っておこー。」
いい加減焼くのに飽きたのか桐島がトングをテーブルに置いた。
「えーそれは困るー。結ちゃん焼いてよー。」
「い・や・で・す。竜くんはあんまり水樹くん困らせちゃダメだよ。」
わがままを言う竜とは裏腹に焼かずに食べ続けた罪悪感からか松山はばつが悪そうだ。
「というわけでー私たちはテーブル移動しまーす。行くよ水樹くん。」
桐島にそう言われては断れない。桐島が立ちあがったので俺も立ち上がる。
「え、時人もマジで行くの?」
「コーヒー飲みたい。」
コレは本音。
「じゃーユーリに焼いてもらうかー。」
「え、俺か。……仕方ないな。あとは任せてくれ。」
「ラッキー!」
食べ盛りの二人を放置して席から離れる。食べ放題のメニューにコーヒーが無く外に自販機はあったかな。と思い返すも覚えは無かった。
「なにしてるの。早く行くよー。」
桐島が女子が固まったテーブルに行こうとしていたので、部屋から出ようとしたところ捕まった。
「奈々ちゃーん来たよー。」
体育委員の萩原の対面に座った桐島は親しげに声をかけている。
空いていた桐島の隣に腰をかけると彼女は驚いていた。
「え、結、水樹くん連れてきたの。」
「聞いてよー。あの席延々とカルビ焼いてるんだよ。もういらないってー。」
「……確かにそれはキツイかも。」
桐島はこの席でデザートを注文していた。さっきの席では焼く前の肉がテーブルに並んでいて置く場所も無く注文を止めていたようだった。
「で、水樹くんもこっちでよかったの?」
萩原はこちらを見てそう言った。
「俺ももう食べるのはいっかなって思っていたし、桐島が呼ぶから。」
「呼べば来るって……。あんた達の関係性なんなの……。」
萩原はため息をつきながら呆れたように呟いた。
「えー友達だよー。」
「まあそりゃそうでしょうけど。」
萩原はこちらをじっと見つめた。
「どうした。」
「いや。別に。」
彼女はそういうと視線を横に動かしていく。俺から桐島へ。そしてそのまま視線は動いていって少し離れた席で止まった。
「ま、丁度よかったかも。水樹くんに聞きたかったんだ。」
もう一度俺に視線を戻してそう言う。桐島は届いたバニラアイスを楽しんでいた。
「竜くんの怪我の手当てしてくれたの水樹くんだったよね?ありがとう。」
「ああ。俺も保健室に行く口実が出来たから助かったよ。」
「なにそれ。そういえば点呼の時だけじゃなくてほとんどグラウンドにいなかったね。」
体育委員らしく仕事があったらしくクラスメートの所在を気にしていたようだった。
「悪いな。暑かったから。」
「それはいいんだけど。……ねえ水樹、連絡先教えてよ。クラスのグループチャット入ってないでしょ。」
「え、奈々から聞くなんてめっずらしいー。」
俺達が話しているのを眺めていた桐島が横から口を出した。俺はそれを無視してスマホを取り出す。萩原もちらっと桐島を見ただけで特に何も言わないらしい。萩原と連絡先を交換した。
「ありがと。」
「こちらこそ。」
萩原とほとんど喋ったことはない。いや、記憶に無かった。おそらく無いのかもしれない。だが彼女は俺のことを桐島からよく聞いていたらしい。
「水樹は結から聞いてた通りだね。」
「何を聞いてたんだ。」
「えー私なにか言ったかなー。」
桐島はアイスのスプーンを口に当てて考えるそぶりをしていた。
「面倒くさがりのうえにぶっきらぼう。それに不器用。」
「それは悪口いや、俺がいないところだから陰口だろ。」
そう突っ込むと萩原はくっくと堪えるように笑った。桐島はそんなこと言ったかなーと誤魔化している。完全に言ったことを覚えている顔をしていた。
「でも結が不器用ながら優しいって言ってたから。」
「そ、そんなこと言ってないってー。もー奈々は捏造しないで。」
どうやら桐島は照れているようだった。これも言ったことを覚えているようだ。それをまた堪えたように笑いながら萩原は謝っていた。
「水樹と話せてよかったよ。少し気になってたんだ。」
「俺もよかったよ。」
体育祭を通じて萩原に、松山に、と少し交流関係が広がった気がする。松山はそこまで親しくなったわけではないが彼の爽やかさと真面目で真摯な態度は好感を持った。
「……え、奈々。気になってたってどういうこと。」
話がまとまったと思っていたが桐島の突っ込みが入ってきた。
「そういうアレじゃないから。話してみたかったって意味だよ。はやとちりしないでバカ結。」
意図してない意味で桐島に受け取られた萩原は少し照れていた。
そうしてラストオーダーも過ぎて店から出る時間となった。二次会などはなく解散するらしい。
「今日は本当にお疲れ様。明日はゆっくり休んでください。じゃあ解散で。」
松山が締めの言葉を綴って解散を促した。
「駅に向かう人はなるべくグループで行ってね。もう遅いからなるべく一人にならないように。」
駅に向かうクラスメートが集まっていた。そのうちの一人の桐島がこちらに歩いてくる。
「水樹くん歩きだよね?朱音ちゃんもなんだ。送ってあげてね。」
「……よろしくお願いします。」
後ろにいた朱音が遠慮がちに声をかけてきた。久々に挨拶以外の会話をする気がする。
「じゃあ帰ろうか。」
「はい。」
朱音と一緒に帰るのも久々だ。
「私とも途中までは一緒だけどねー。」
桐島は何かを察したのか、そう言ってニヤニヤと笑っていた。それを見た萩原は呆れ顔でため息をついている。
周りがそれぞれのグループに分かれて徐々に解散していく。最後まで松山と話していた竜がようやく帰る準備がついたらしい。その横で松山は自転車通学らしく赤色の自転車を携えていた。
「じゃー時人、帰るぞー。」
途中までは駅に向かう道と一緒なので暫くは竜も桐島も萩原も一緒だ。
「あれ、水樹くんって電車通学?」
松山が竜と帰る俺を見て尋ねる。
「いや、俺と……長月が徒歩だから。近くだし送って帰るよ。」
「やっぱりそうなんだ。駅じゃない方に歩いていくの見かけたから気になってたんだ。俺もそっちの方角だから途中まで一緒だね。」
もう店の下には俺達しか残っておらず最後のグループとなった。
帰り道では竜が松山相手に賑やかに騒いで、それを桐島が注意する。萩原は後ろから落ち着いて眺めていた。俺と朱音も会話はなく静かに後ろをついて行った。
それでも居心地がよくて少し浮かれていた。学生生活もわるくないのかもしれない。そう思ったときだった。
「楽しそうだな。ユーリ。いい女連れてるじゃん。」
前から現れたのは背の高い男性だった。その顔は松山に少し似ていた。
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