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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第1章
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第36話 朝の図書室


更新が遅くなって申し訳ありません。



まだ眠たい気持ちを置いてベッドから立ち上がる。

昨日は竜と分かれて家に着いた後、何かしていないと落ち着かずベースを弾き続けていた。

ルーパーとエフェクターを駆使して音を重ねていく。何かを発散させるように行われたそれは最後には聴けるものではなかった。ごちゃごちゃとした音楽性のカケラもないもの。それでもなんとなく気に入ってノートパソコンに保存してしまった。

それを思い出して笑みがこぼれる。カーテンを開けると今日もいい天気だ。

ここ最近は朝からごはんをしっかりと食べていたため、今日は準備していなかったことを軽く後悔する。

仕方ないので買い置きしてある昼ごはん用の二口で食べ終わるいつものアレを取り出し小さく食べる。それでも三口で終わってしまうけれど。

包んでいたビニールを捨てて牛乳をコップに注ぐ。口の中の水分が既にもっていかれているのでこの一杯が最高に美味しい。

ぼーっとテレビを眺める。朝の報道番組で水族館がクローズアップして映されていた。色とりどりの熱帯魚や大きい回遊魚など迫力のある映像が流れていた。

画面に映る時計を見る。そろそろ着替えて家を出よう。そういえば夏服はどこにしまったっけ。まあまだいいか。

テレビを消して真っ暗な画面に自分が反射する。そろそろ髪を切らないといけないな。量が増えてきて暑くて鬱陶しい。とはいえまだ前髪を失う気になれない。これは必要な保護具みたいなもの。髪を一瞬かき上げてそのまま家を出た。


歩いて10分の通学路。朝の日差しは既に強く少し歩いただけで軽く汗ばむ程の熱気だ。

校門に立って挨拶をする体育教師は汗だくになっていてタオルで顔を拭いている。それでも嫌悪感がないのはその爽やかさか。いまだ若く挨拶も軽やかな彼は男女問わず人気があった。

そんな体育教師を尻目にロッカーに向かって歩き出す。

「おはよう。水樹くん。」

ロッカーの前に桐島がいた。

「おはよう。」

暑そうにハンカチで顔を扇いでいた彼女はどうやらここで待ち伏せしていたらしい。

「暑そうだけど、もしかして待ってた?」

「さすが水樹くん。話が早くて助かるー。……ちょっといいかな?」

ホームルームまではまだ余裕もある。歩き出した桐島の後ろに着いて行くことにした。

「なんでこんなところに?」

朝の図書室に人気はほとんどなかった。少しの図書教師と座って読書をしている生徒が一人いるだけで、図書室にはいるとそこだけ静まり返っていた。

「はー涼しい。もう夏ーって感じだね。」

読書中の生徒の邪魔にならないように本棚の奥まで進んでようやく桐島は口を開いた。

「ちょっと聞かれたくない話があってね。」

小声で桐島は話を続ける。

「ごめんね。本当はこんなこと私が言ってはいけないって分かってるんだけど。でも、多分言わなかったら後悔してしまうから。」

単刀直入に言うねと前置きを入れた桐島はさっきまでの笑顔が消えて真剣な顔になった。

「……朱音ちゃんとこれ以上に距離を詰めないでほしい。」

「……は?どういう……?」

「ごめんね。私も詳しく言えない。」

人気の少ない図書室の奥で、異性のクラスメートと二人きり。傍から見ればそういうことだと思うかもしれない。だが実際は全く違った。

「意味が分からないんだけど。」

「……ごめんね。説明もできない。水樹くんは今の朱音ちゃんとの関係を続けてほしいの。朱音ちゃんのためにも。」

昨日、竜と話して決意をしたアレ。朱音ともっと仲良くなりたいと思った翌日にこれは少し心が折れそうになる。

桐島も朱音と昨日放課後に遊びに行ったのはしっている。おそらくそこで俺たちのような会話があったのだろう。

その結果、俺は桐島に忠告をされている。今のままでいてほしいと。

……正直、全く理解できないし、予想もつかない。だけど、桐島が言っているのは嘘ではないだろう。そういうことをして弄ぶ性格ではないし、その表情は真剣だがどこか悲しそうだったから。

「……そういうことだから。」

そう言うと桐島はいつもの明るい表情に戻った。

「さー教室行こー!ホームルームはじまるよ?」

ここで壁に桐島を押し付けて無理に聞き出すのも不可能ではないだろうし、そこまですると桐島も話すかもしれない。でも、そんな度胸は元よりない。それに『朱音のために』とも言っていた。

「……そうだな。」

色々言葉を飲み込んでそう返事する。それを聞いた桐島が満足そうにしていた。すでに朝の時間はもう少なくなっていて図書室には誰も残っていなかた。二人並んで教室に向かって歩き出す。

「あのね、私は朱音ちゃんも水樹くんも大事だと思ってるよ。だから私のことを信じてくれたら嬉しいなって。」

教室に向かう道すがら小さく発した桐島の言葉。真に迫ったその言葉はどこか悔しそうだった。真面目な性格の桐島らしい。きっと詳しく話せない状況にか、あるいは朱音の内面に対してか。何もできていない自分がきっと悔しいのだろう。だからこそこちらも本音で返す必要があった。

「俺も桐島は大事だと思っているよ。だから信じてる。桐島のこと。」

そう伝える。昨日から、昨日の朝から自分を振り返る機会が多い。自分の気持ちだとか、やりたいことだとか。だからこそ今の本音はすぐに出てきた。桐島のことを大事な友達の一人だと思っている気持ち。この言葉に嘘はない。

「ははっ。……ちょっと照れるなー。」

そう言って彼女は後頭部をかきながら笑っていた。

「水樹くん、素直になったね。すごくいいと思う。」

「……そういうタイミングだっただけだよ。」

よく分からなかったけど、朱音に対するアプローチは失ったけど、きっと今はこれでいいのだろう。桐島が言うならそうなんだろう。

それに『今の関係を続けてほしい』と言われているのだ。距離をとるではない。今のままでいいならそれはそれでいい。

予鈴が鳴って教室まで少し早足で廊下を駆けていった。

開いていた扉から二人揃って飛び込むと担任はまだ来ておらず桐島と助かったー。とお互いに笑いあった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ喜びます。


リアルが少し忙しく、更新に間が開いたことをお詫びします。

色々と落ち着いたのでまた更新するペースは戻せそうです。

ですが、少し一話が短くなってしまうかもです。今回も短めです。すみません。

人が離れてないか心配ですが、完結までやり切る気持ちはありますのでまた見ていただけると嬉しいです。

またいいねや評価がもらえるように頑張りますので応援していただければ幸いです。



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