第35話 ファミレス
投稿の間が開いてしまって申し訳ないです。
「外あっちー。」
カラオケから出て西日に目を細める。空調の効いていた店から出るとむわっとした湿気が身を包んだ。
片手で自身を扇ぎながらどうしよっかなー。っと竜は辺りを見渡している。
竜が作った淀んだ色の飲み物は案外美味しかった。それを見てケタケタと笑いながらマイクを手にして歌いだした。あの後、時間まで歌っていた。たまに休憩と称してこちらにマイクを渡して歌わせてきたが、竜はほとんど一人で歌っていた。
「歌い疲れたー。なんか食べにいこーぜー!」
桐島から向こうも二人でご飯を食べて解散する。と聞いていたので俺たちも何か食べに行くのは決まっていた。竜は歩き始めたのでそれに続く。
「……なに食べに行くのか決まってる?」
「とりあえず駅の方に行ってから決めよかなって。」
躊躇いなく歩き始めたので無心で着いていったが無策だったようだ。
「それでいいのか?」
「なにかしらあるだろ。」
竜は相変わらず楽しそうに笑う。
「まあ見つからなくて迷うのも一興。ってやつだよ。時人くん?」
「竜がそう言うならそうなのかもな。」
学校の最寄り駅は各駅停車しか止まらないような駅だが、そこから一駅いくと大きな駅につく。飲食だけならずアパレルなど多数の店が入った商業施設もあるこの駅の近くで俺たちはカラオケに入っていた。路線が重なって乗換えにも使われるのもあって夕方のこの時間は様々な人で溢れていた。
「まーファミレスがアンパイかな。いい?」
「入れるならどこでもいいよ。」
竜は近くのファミレスに決めたようでその扉をくぐる。安さに定評のあるそのファミレスは学生が多くいたものの満席ではないようで一つのテーブル席に案内された。
「あーお腹すいたなー。」
そう言って我先にとメニューを広げて目的のものを探す。竜の向きに向いているそれを反対から眺めていた。
竜はこのファミレスのメインであるドリアとパスタとチキンを、俺は目に付いたピザに決めた。竜はボタンを押してそれらとドリンクバーを丁寧に店員に注文する。
「あらためてーカンパーイ!」
「……乾杯。」
アイスティーとコーラの入ったグラスがコツンと小さく音を立ててぶつかる。
そのままアイスティーを一気飲みした竜がもう一度注ぐためにドリンクバーに戻っていった。
ストローの端を噛みながらちびちびと炭酸を味わっていると、竜が戻ってきた。
「しかし学生多いなー。みんな暇なのかねー。」
「それは俺たちにも刺さってる。」
「いやーまわり暇そうじゃん?……俺たちは有意義に暇してるじゃん?」
竜の言葉の意味はよく分からなかった。しかしなんとなくその言葉は心地よかった。
「じゃあきっと他の学生たちもそうなんだろ。」
「なるほろ。たしかに。」
よく分からない言葉の応酬にお互いに失笑する。二人で笑っていると店員が料理を運んできた。
おしぼりで手を拭きながら、じゃー食べますか。と言った竜とそろっていただきますと手を合わせた。
ピザカッターで六等分したピザを口に運ぶ。うまく切れていなかったチーズに引っ付いて少しのハムが皿に残った。
竜はチキン食べていいよ。とでも言うようにチキンの皿をテーブル中央に寄せる。
口にピザが入っていたため返事ができず片手をあげて受け入れて、こちらのピザも指をさしておく。
竜はウインクで返した。バチコンとでも音が鳴りそうに綺麗にきまったそれを手で薙ぎ払っておく。
相変わらず丁寧な所作で食べ進める竜。その割には食べ終わるタイミングはお互いにそう変わらなかった。
「はーお腹いっぱーい。」
「食べすぎじゃない?」
「時人が少なすぎ。俺が一般男子高校生として普通だから。」
綺麗に食べ終えた皿を店員は颯爽と持ち帰っていった。テーブルの上にはまたグラスだけとなった。
「カラオケも久々だったけどファミレスも久々だったー。」
「竜は俺以外と放課後遊んだりしてなかったのか?」
放課後の定番と思われるそれらに久々と言った竜に気になって尋ねてみる。俺と違って友人も多かったはずだし、なんなら誘われているのを見るのも一度や二度どころではなかった。
「そりゃあるよ?近くのバーガーとかよく呼ばれるし。……でも放課後バイトいれたいしさー。遊ぶのだってタダじゃないじゃん。」
公園でかくれんぼとかならいいけど今日日そんなことしないしさー。と笑って竜は続ける。
「俺も高校生だから遊びたい気持ちはあるし、実際行ったら楽しい。それはそうなんだけど、今のうちに色んなことをしておきたいんだよ。俺はね。」
竜は何か含みをもってそう締めくくった。
「……ふーん。よくわからないけど、今日は楽しかった。」
「それなー。カラオケまた行こーなー。」
「まあ、偶には付き合うさ。」
「たまにかよー。」
そう言って笑っていた竜が途端に真剣な顔つきになる。
「俺はさ、こういう時間も大事ってわかってる。でも俺は俺一人しかいないし、やりたいこともしないといけないこともあるわけで。色んな人に誘われるのは嬉しいし俺もみんなと仲良くしたいと思ってるよ。だけど、やっぱ優先順位つけていかないといけないじゃん?」
「……なにが言いたいんだよ?」
「いやーこういう性格だからさ、色々軽く済ませることが多いんだけど時人はその辺楽だから助かってるって話。」
「意味分からない。」
「わからなくていいさー。なんくるないさー。」
竜の言ってる意味はよく分からなかった。だけど本人が納得して満足しているようなのでそれでいいらしい。
「まーそんな時人だからこそ俺も力になりたいわけで。」
アイスティーを氷ごと口に入れてバリバリと砕きながら飲み干す。そして一息いれた後に竜が続ける。
「時人はさ、性格いいじゃん。分かりにくいけど。」
竜はカラカラと笑う。
「スタイルはー……上半身は割と鍛えてるよな。細いけど。細マッチョ的な。」
歌うための腹式呼吸。そして声量を出すために腹筋など上半身は鍛えていた。体育などで着替えるタイミングで一度竜が驚いていたことがあった。恐らく栄養が足りていなかったのか全体的に細いままではあったが。
「その鬱陶しい前髪さえなければ顔もいい。……俺のがオトコマエだけど。」
「なに、急に褒めだして。」
「時人が昼休みに聞いたんだろー。『……俺ってどう?』ってさー。」
癪だがこのモノマネも似ていた。自分に似ている声を目の前から聞くなんて違和感しかなく少し鳥肌が立つ。
……いや、俺は照れているのか。まっすぐな褒め言葉に。
「そんな時人くんは長月さんと付き合いたいの?」
「は?」
「これ大事な質問だぜー。人との関係性を言語化するのは。……時人から長月さんが好きって事は聞いた。で、その後よ。どうなりたいのさ。」
また真剣な顔に戻っていた竜にこちらも佇まいを直される。
「……そうも思ってる。」
「も?」
「確かに朱音の彼氏になりたいと、朱音を彼女にしたいと思う。でも、いますぐどうこうとかって思ってない。俺はもっと朱音について知って、朱音に俺のことを知ってもらってその後考えたいかなって。」
朱音の表面だけ知っても意味がない。付き合うとは、彼氏彼女の関係とはそういうことじゃないと俺は思う。
「だから今はもっと朱音と仲良くなりたい。」
真剣にこちらを見ていた竜になんとなく顔を逸らしてしまう。
「おー。思ってたより時人がカッコよかった。」
またも竜は相変わらずカラカラと笑う。
「時人が今出せる結論がそれなら、それをしたらいいと思う。その方が納得いくだろ。俺たちまだ華の高校一年生だし?これからも長月さんと過ごす時間はあるさー。それに、もうすぐ体育祭もあるしなー。」
俺たちが通う高校は一学期のこの暑い時期に体育祭がある。二年生がメインとなって作られる応援団が見ものらしい。
「おっけーい。話もまとまったし、時人も納得した顔してるし、そろそろけぇーるべーい。」
そろそろ帰る。と言ったらしい。立ち上がった竜に続いてレジに向かう。
話を聞いてもらった礼として伝票を持とうとしたがワリカンにしよーぜー。と言われ従うことにしておく。それでも竜のほうが食べていたのでこれでいいはず。
「楽しかったー。時人また遊ぼーなー。」
「ああ俺も楽しかった。また明日な。」
電車で帰る竜を駅まで見送る。改札機に消えていく竜と片手を上げて別れた。
今朝のぐるぐるした思考は少し冷めた。これからどうしていくかの方針はついたと思う。俺はこれからもっと朱音と仲良くなろう。
そう決意して家までの道のりを歩き出す。一駅分と少しは歩いて帰るには微妙な距離だけど散歩と考えれば丁度いい。
帰宅ラッシュのピークは過ぎて人も疎らな電車の中。空いていた端の席に座りながら考えていた。あんな雰囲気を出しておきながらもっと仲良くなりたいなんて。
あの親友が照れた顔しながら出した結論に思い出し笑いをしかける。
告白とはお互いの気持ちの確認作業と聞いたことがある。そういう意味ではあの方針は間違いないのかもしれない。
俺は応援しよう。あの気持ちを前に出すのが不得意な人達のこれからを。
これほど面白い娯楽はない。これからが楽しみだ。
そう思って満足しているとポケットのスマホが振動してメッセージを知らせる。
送信元はよく喋る気の合うクラスメート。向こうは向こうで二人でご飯に行ってたっけ。
向こうも既に解散したらしく、楽しかった旨が長文となって記載されていた。読みながらそのメッセージをスライドしていく。
『これは、ちょっと難しいかも。』
長々と続いたメッセージの最後がそう締め括られていた。
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