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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第1章
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第34話 カラオケボックス

「カラオケひさびさー。」

店員に案内された薄暗い部屋に入る。明かりのスイッチを探して明るくすると既にテンションの高い竜がマイクを使ってはしゃいだ。

「うるさいって。」

少しハウリングして耳が痛くなる。耳を押さえながら竜を嗜めると相変わらずカラカラと笑った。

「時人と放課後遊ぶの初めてだよな。」

「ご飯は何回かあるだろ。」

「食べてすぐ帰るじゃん。」

「そんなことないって。」

広いL字のソファに座ってリュックを下ろす。ドリンクバーからとってきたコーラのストローを咥えて少し口に含んだ。パチパチと炭酸が弾ける。

午後の授業は全て座学だった。退屈なそれをウトウトと過ごして放課後、竜に着いてくるとそこはカラオケボックスだった。

放課後の教室か、どこかでご飯でも食べながら話すのかと思っていただけにこの場所は意外だった。

「折角きたしとりあえず何か歌うかな。」

そう言って竜はリモコンを操作する。手馴れたようにタッチパネルを操って流れ出すのは最近流行の洋楽だった。

「最近よく流れててさーなんか耳に残って。」

どうやら雰囲気で聴いてた曲を入れたらしい。歌詞が浮かんだ瞬間に既に置いていかれていた。

サビにいくまでもなく、途中で諦めて曲は停止された。

「いやーちゃんと聴いたことのない洋楽は無理だな。」

「最初から歌えてなかった。」

「それなー。」

酷評にもさらりと流して照れたように笑う竜。

「ちゃんと歌える曲入れるわ。聴いてろよー。」

あらためてリモコンを操作して男性アイドルの曲が画面に映し出された。

それを振り付け込みで綺麗に歌う。音程が外れることなくダンスもばっちりだった。

「うまいっしょ?……俺が修二したから時人には彰で入ってほしかった。」

「歌えても踊りは無理。」

竜は歌い終えて満足にソファに座る。アイスティーが入ったグラスを口につけて氷をガリガリと砕きながら飲んでいた。

「じゃあ次、時人。なんか歌えよー。」

「んー。カラオケ初めてなんだよな。」

家で歌うことができる環境。カラオケにわざわざ来ることはなかった。

「まーじか。もしかして音痴?」

期待をしつつもカラカラと笑う竜。竜に、というより他の人に自分のことを話すことはあまりしない。そういうのもあって竜は俺の趣味すら知らなかった。

リモコンを操作して目当ての曲を探す。

竜がアイドルユニットの曲で歌っていたのでこちらもそれにあわせよう。

期間限定でライブ映像が流れるらしく画面には二人のアイドルが映っていた。

ライブ映像がメインのようで歌詞が小さく表示される。それに驚きつつも最後まで歌い上げた。

「……時人、歌うっまー……。」

目を丸くしてこちらをみていた竜に少しドヤ顔で返す。

「時人はどっちかというと光一かな。」

「俺は剛のほうが好き。」

歌い終わった画面には知らないアーティストが何か喋っていた。新曲の宣伝らしい。

それを横目に見ながらストローをくわえる。

「初めてのカラオケはどうでした?」

「普通、そんなん聞くの店出てからじゃない?」

「時人に普通を語られるとは……。」

インタビュアーよろしく竜が向けたマイクを軽く払いのける。

「時人が歌うの上手かったのは驚きだったけど、ひとまずそれは置いといて……。」

長い前置きだったらしい。

「俺も何聞こうか色々考えたんだけど、そもそも時人についてあまり知らなかったなって。」

「竜は俺があまり話したりしなくても傍にいてくれたから楽だった。」

「楽って……。まあそれが友だち付き合いには大事よな。無理なんてしても疲れるだけだし。」

竜が言うならそうなんだろう。

「時人はあまり自分のことを話したくない感じ?」

「そんなことないけど。……そもそも他人は俺に興味なんてないと思ってたから話すのもなんか気乗りしなかった?みたいな。」

「じゃあいっか。ドキドキ時人深堀ツアー開幕だな。」

「なにそれ。」

隣の部屋から熱唱が薄く聞こえた。あの部屋は盛り上がっているらしい。この部屋は画面の中のアーティストが軽く喋っていたりする程度で音量に大きく差があった。が、熱量では負けてないらしい。竜は盛り上がっている。表情からそれがよみとれた。

「じゃーまず……時人はなんで一人暮らししてる感じ?」

「あー、それは俺の趣味のためだな。」

「時人の趣味って?」

ちょうどいい写真があったな。と思ってスマホを操作する。メッセージアプリの大須の場所を開く。

大須が家に来て一緒に遊んだ次の日、お礼とともに大量の写真が送られてきていた。

その中の一つが俺の寝室の写真だった。それを竜に見せる。

「なにこの写真。スタジオ?」

「俺の部屋だよ。」

「えーまじ?すっげえ。」

「実家だと近所に迷惑かかるからあんまり音出せないんだよ。それで、父親が防音設備のある部屋があるからどうか?って。」

「え、それだけで家出たの?」

「俺にとってはそれが重要だったんだよ。」

驚きながらもゆっくり促すように話を聞く竜。こんな竜は初めてだった。いままで気を使っていたらしい。

「なんだよ。家族と何かあって家出たのかとか考えてたから思ったより平和でよかったー。」

「あー家族仲は普通だよ。別に軋轢があるとかじゃない。……むしろいい方だと思ってるよ。」

少し変わった性格をしている父はともかく母は心配するのでそれなりに連絡はとっている。

「それはよかったー。じゃあ別に時人の家遊びに行っても問題ないな。今度行くわー。」

「まあ竜ならいいよ。」

お、まじで。と嬉しそうにしている。

「時人ハウスでピザ頼もうぜ。ピザパー!」

「宅配ピザ頼んだこと無い。」

「……まじかよ。普段何食べてんの?家でもアレ食べてんの?」

普段か。

「前まではそうだったけど、最近はちゃんと食べてる。」

「えーもしかして自炊してる?えらいなー。」

桐島は知っていることだ。いまさら竜に知られたことでなんの問題も無いと思う。

「……最近は朱音がご飯作ってくれてる。」

「え、なにそれ。」

飲みかけたアイスティーを飲むことなくこっちを向いて竜は固まった。

「時人のご飯を、あの長月さんが作ってるの?え、なんで?二人は結婚してた?」

「結婚なんてしてないし付き合ってもないから。」

なんでなんで。とテンションの上がる竜に経緯を語った。


「……という感じで、いま朱音がご飯つくってくれてる。」

「取引……ねえ……。」

竜はうーん。と考えて黙ってしまった。

「時人も変わってると思ってたけど、長月さんもソートーだよなー。」

「……俺はともかく、朱音は変わってると俺も思う。」

そういうと、竜は再び黙ってしまった。何か言いよどんでいるようなのでその言葉を待つ。

「おっけい。とりあえず成り行きはわかった。……で、時人は長月さんのことが好きなんだよな?」

ストレートに言われたその結末に一瞬驚く。どうやら竜にはバレていたらしい。

「……まぁ。」

なんとなく悔しくて竜から顔を背けながら返事をする。それすらも竜には笑いの対象らしく、くっくとかみしめながら笑っていた。

「やっぱりなー時人わかりやすいからー。それに、長月さん美人だしなー。」

「……そんなにわかりやすい?」

「時人は態度で示しすぎだからなー。」

竜は嬉しそうに笑って話を続ける。

「俺とか結ちゃんみたいな、よく人と喋る性格ならまだわかるけど。時人も長月さんもそうじゃないじゃん。時人は基本的には礼節をわきまえてて丁寧に話すけど、その実は淡々と必要事項だけ話すことが多いから。」

竜は俺のことをよく知っている。本当に人をよく見ている男だ。

「長月さんはそもそも人を避けてたじゃん。話すとしても嫌々感が露骨に出ていたし。……俺と結ちゃんぐらいじゃね?めげずに話しかけてたの。」

心折れそうだったわー。と竜は続けた。

「そんな二人がいつの日からかよく話す様になってて、明らかに態度でわかるほどお互いを受け入れあってた。……長月さんのことはあまり知らないからそこまでわかんないけど、時人はさすがにわかるよ。あーこいつあの人のこと好きなんだな。って。」

いつの間にか真剣な表情で語っていた竜がそう締めくくった。気づけば二つともグラスが空になっている。ストローが音をたてたのをみて穏やかに笑った竜が、何か入れに行くかー。とグラスを持って立ち上がった。竜に続いてドリンクバーに向かう。

竜はドリンクバーでおもむろに数種類の飲み物を混ぜだした。

「これが竜様ミックスだー。というわけでこれ時人の分な。」

そう言って渡されたグラスは禍々しい色をしていて思わず笑ってしまった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ喜びます。


いいね、ブックマーク、評価などいつもありがとうございます。心の支えで励みになります。

また楽しんで読んでいただけるように頑張ります。


ちなみに光一の方が好きです。でも勝利くんが一番かっこいいと思います。



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