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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第1章
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第27話 大須のお泊り


更新が遅くなりました。申し訳ありません。




お湯張りが完了したことを知らす音が鳴る。それとほぼ同時にスマホの着信音がなった。画面にはマスターと記されている。

先ほどから少し気まずい空気が流れていたのでいいタイミングだったのかもしれない。部屋から出て玄関前の廊下で電話を取る。

『時人くん、遅くなりましてすいません。』

『いえ大丈夫です。』

『峠は越えたみたいですが、彼の息子がこちらに着くまで見ておきますのでまだかかりそうなのです。時間も遅くなりましたので改めて時人くんに大須のことをお願いしようと思いまして。』

『わかりました。こちらは問題ないです。大須も晩御飯を食べました。この後お風呂に入れて寝かしつけますよ。』

『ああ助かります。私のほうから息子に連絡入れてありますので。大須は私が明日に迎えにいきます。』

『マスターもお疲れでしょうし、問題なければ明日店まで連れて行きますよ。』

『……そうしてもらえればありがたいです。』

話がまとまったので部屋に戻って大須を手招きする。

『では一旦大須に変わりますね。』

「おじいちゃん!」

大須にスマホを渡して話をさせる。詳しくは告げていないが深刻そうな雰囲気を感じていた大須も安堵の表情を見せている。

問題ないよ。時兄ぃが優しくて楽しいよ。朱音ちゃんのご飯美味しかったよ。と大須は話し続けている。

マスターも待ち時間ではあるので時間も余裕あるだろうが、あまり夜更かしさせる気もない。大須の話がいいタイミングで変わらせた。

『……ではマスターもお気をつけて。』

『ええ。時人くんも。では失礼します。』

何故か電話口のマスターが最後にクスクスと笑っていた。大須との話が盛り上がったのか。横で聞いていてそんなことはなかったと思うのだが。スマホをポケットに入れて部屋に戻る。

「というわけで大須は今日俺んちにお泊りな。」

「わーい。友だちの家に泊まるの初めて!」

横に立つ大須に告げると純粋に喜んでいた。二人並んで部屋に戻ると彼女が麦茶を飲んでいた。

「あ、おかえりなさい。時人くん。」

いまだ聞きなれない彼女からの呼び方に面食らう。大須は彼女の呼び方に満足げだ。

「ああ。ただいま。」

物足りなさ気に大須がこちらを見上げていたが気づかない振りをする。

「大須、風呂沸いたから先入っておいで。タオルとか出しとくから。」

もともとマスターの家に泊まる予定だったので、着替えなどを準備させる。

「せっかくだし時兄ぃも一緒に入ろうよ!」

「そんなに広くないぞ?」

「いいじゃん!」

「……仕方ないな。さっさと入るぞ。」

ため息をついて了承する。大須は嬉しそうに待っててね。と言いながらトイレに向かっていった。

「では、そろそろ帰りますね。」

話を聞いていた彼女が帰る支度をはじめた。麦茶の入っていたコップを流し台に持っていく。大須と自分の分はまだ入っているしどうせ風呂上りにまた飲むので置いておく。グラス一つ洗わせるのも申し訳ないのでそれは任せてもらった。

「……時人くん朝ごはんはどうされますか?」

「あー何も考えてなかった。」

そういえば最近の朝ごはんは、残り物を温めて食べていた。今日は大須が全て平らげてしまったので何も残っていない。

「まあ適当に済ますよ。」

「食事の面で時人くんの適当は信用できないのですが。」

「……コンビニでパンでも買おうと思ってた。」

彼女のジト目から視線をそらしながら応える。

「何にするか聞いたわけじゃないです。……よければ朝もつくりますか?」

「え、朱音ちゃんのご飯を朝も食べられるの!?」

大須が戻ってきていた。

「そんな顔で求められたら断れないですよ。」

喜色満面な大須にクスクスと彼女は嬉しそうに応えた。

「……悪いな。」

「いえ、どうせ起きてますし自分の分も作りますから。」

任せてください。と言って胸を張る彼女に頼むと返す。しかし、大須は晩御飯にあれだけ食べていたのに朝も食べる気らしい。あの小さい身体のどこにそんな容量があるのか。

話もまとまったので大須と二人で彼女を玄関まで見送る。

「朱音ちゃん、おやすみなさい。」

「はい、おやすみなさい。」

かがんで大須の身長に合わせた彼女が頭を撫でながら微笑んだ。

「今日も助かったよ。ありがとう。」

「いえ、楽しかったです。」

立ち上がって彼女がドアノブに手をかける。大須が俺の服の袖を引っ張る。こちらを唇をとがらせて見上げるその表情は不満をあらわしていた。

「では、時人くん。お邪魔しました。」

「ああ。おやすみ。」

彼女は帰っていった。



「朱音ちゃん優しいね。」

「まあそうだな。」

きゃっきゃっと水を跳ねさせるので落ち着かせる。二人で湯船に浸かりながら大須と話した。

「おじいちゃんと話してるみたいだった。」

「話し方が似てるからな。」

「ご飯も美味しいしね!」

大須はすっかり彼女に懐いたらしい。小学校にあがって社交性を更にあげたようだ。成長を感じて大須の髪をくしゃくしゃと雑に撫でた。やめてよー。と言いながら嬉しそうだ。

「時兄ぃさー……朱音ちゃんのことちゃんと名前で呼ばないと駄目だよ。」

「呼んでただろ。」

「そうだけどそうじゃなくて。もっと朱音ちゃんみたいに普通に。」

「……そうだな。」

本当に大須は人をよく見ている。たしかに未だに彼女の名前を呼ぶのは気を使っていた。

「ま、がんばるさ。」

そう言って湯船から上がる。続いて大須も立ち上がった。

「しっかり温まったか?」

「うん。」

風呂の栓を抜き脱衣所に上がる。先に大須の髪を拭いてやる。ざっと拭いてそのままバスタオルを渡した。

大須が身体を拭いている間に風呂場に水を流す。壁と天井、湯船にシャワーで水をかけておくだけでカビを抑制できるらしい。これからの時期にカビは大敵だ。

パンツ一つで部屋に駆けていった大須に苦笑いしながら自分も身体を拭く。

髪を乾かしてないだろう大須を追いかけてドライヤーを持ってリビングに向かう。

仁王立ちで麦茶を飲んでいた大須を座らせて髪を乾かした。そのまま乾かしていると大須がウトウトとし始めた。

「大須、もう寝ようか。」

「えー……うーん……まだ時兄ぃと話したいなー……。」

「駄目。マスターにも夜更かしさせないって言ってあるし。」

「はーい。」

しぶしぶそう言ったが既に瞼は重たそうだ。寝室に連れて行きベッドに寝かす。

「すごい部屋だね。」

「いいだろ。」

「時兄ぃは一緒に寝ないの?」

「少し部屋片付けたらすぐに寝るよ。……おやすみ大須。」

「……おやすみ。」

疲れもあったのだろう。すぐにすやすやと眠り始めた大須。安心して眠っているようでよかった。



電気を消してリビングに戻る。夏本番ではないが、体温の高い子どもである大須と同じベッドは暑くなるだろう。今日はリビングのソファで横になるつもりだ。

減っていた麦茶を作っておこうとお湯を沸かす。残っていた麦茶をグラスに注いで飲み干した。思っていたより多く、お腹が液体で満たされて少し苦しかった。

残っていたグラスと麦茶のピッチャーを洗いながら、彼女が麦茶をどこにしまっているか予想する。予想通り、インスタントコーヒーなどを入れていた棚に麦茶のティーパックを見つけた。

お湯が沸いたのでピッチャーに注ぐ。そのまま常温で冷やしておこう。

ティーパックのあった棚。その横にお茶菓子があるのを見つけていた。買った覚えはないので彼女が買ったものだろう。

彼女が通い始めてそんなに日は経っていない。だが、すでにそこかしこに彼女の痕跡は多数存在している。その事実にすこし口角が上がった。






ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ嬉しいです。

評価や感想などいつでもお待ちしております。生きる楽しみです。


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