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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第1章
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第21話 クラスメート



今日は良い天気だ。梅雨は本当に明けたようだ。

これから暑い夏がやってくることを思えば憂鬱にもなるが、こればっかりは仕方ない。

家を出る間際に忘れ物を思い出して棚の奥から引っ張り出す。出すことも使うことも今まで無かったのでどこに置いたか忘れていた。それをポケットに無造作に入れて家を出た。

俺たちの通っている高校は指定の制服はあるものの着用は義務ではない。体操服のジャージを着たり、カッターシャツを着ずにTシャツにスラックスなど着崩している生徒も多い。

通学路を歩いて学校に向かうと夏服を着ている生徒が目立っていた。まだ朝はそこまでだが昼間は湿度が高いのも相まってすこし暑くなるだろう。俺はまだ長袖でいいが、夏服をそろそろ出しておかないといけないな。

「水樹くんおはよー。」

ロッカーに着くといつも自分より早めに来ていた桐島と出会った。

「おはよう。珍しくゆっくりだな。」

「あはは、夏服初めて出したから。似合う?」

桐島がその場でくるっと回った。膝丈のスカートがフワッと舞う。そのまま腕を後ろに回して右手で左手をつかみ上半身を前に軽く倒してこちらを上目使いで見上げた。

「……あざとい。」

「そこはかわいいって言ってほしかったなー。」

桐島を軽く流して二人で教室に向かう。

「水樹くんさー昨日の晩御飯美味しかった?」

「……は?」

桐島がニヤニヤしながら言った想定外の質問に抜けた声が出た。

「何の話?」

「昨日バイト終わって何食べたのかなーって。それだけだよー。そんな睨むことない

じゃん。」

くくく。と隠す気もない笑いを出しながら桐島が続ける。

「あー面白。水樹くんのポカーンって表情初めて見た。うける。」

もはや笑い出した桐島についていけないが、俺たちの関係について長月にでも聞いたのだろうか。長月も桐島に話すとは思ってもいなかったが。

「放課後あんなボソボソ後ろで長々話してたら気になるじゃん。挨拶くらいじゃなさそうだったし晩御飯とか聞こえたし。」

隠す気あったならもうちょっと方法あったでしょー。と彼女は笑った。

「……で、気になって長月に聞いた?ってこと?」

「そうそう。聞こえたって言ったら朱音ちゃんが話してくれて。……水樹くんに鍵盤教わってるって。」

「……俺たちはご飯と技術を取引した。それだけだから。」

「ふーん。……ま、いいんじゃないかな。水樹くんが朱音ちゃんと話すようになったおかげで朱音ちゃんも私と話してくれるようになったし。」

その後私の友達が来たから喋らなくなっちゃったけど。と彼女が言ったあたりで教室に着いた。

おはよーと明るく教室に入っていく桐島に続く。まだ竜も来ておらずまっすぐ自分の席に向かった。桐島は友達と話しているようですぐには席に来ることはなかった。

「おはようございます。」

「……おはよう。」

隣の長月がこちらを向いてニコりと挨拶をした。

「桐島に色々聞かれたって?」

「そうです。昨日水樹くん帰った後に少し話す機会があって。」

「……いいけどあまり広めないでね。色々聞かれても面倒だし。」

「……わかりました。気をつけます!」

俺も油断していたのでこちらにも原因はあるのだが一応釘を刺しておく。

……しかし、桐島がしっているなら竜にも話しておくべきか?いやまだいいか。弄られてもどう対処していいかわからないし。確実に弄ってはくるだろうし。

気をつけます。と言った彼女は笑顔から急にキリっとした表情に切り替わる。その変化に少し癒されながら授業の準備をする。

「今日もバイトあるから、昨日と同じくらいになると思う。」

「では八時くらいですね。」

「ああ。……だから、これ渡しておく。」

ポケットから鍵を取り出して長月に渡す。

「……合鍵ですか?」

「そう。俺と一緒に帰ってそこで鍵開けてもいいけど、無かったら長月が出かけたりできないから。」

「いいんですか?」

「別に構わない。……長月がなにかするとは思わないし。」

「では、お預かりします。」

そう言って大事そうにカバンに仕舞った。

「俺の部屋で楽器弾いてくれても構わないから。」

「本当ですか?では……時間があれば練習しておきます。」

料理を作っても時間は有り余るだろうし、課題や予習復習なんかもすると思うがある程度気を抜いてもらわないと暇するだろう。もちろん自分の部屋に帰るかもしれないが。

「明日はバイトないし、また練習しよう。」

「楽しみです。」

「……合鍵無くさないでよ。」

「そんなことしません。」

彼女は一瞬ムッとしたものの、俺が笑い出すと彼女もふきだした。

「やっぱり楽しそうだねー。朱音ちゃんおはよー。」

桐島がニヤニヤとしてこちらをみている。

する相手を見て挨拶しろ。と言ったところで彼女のニヤニヤが崩れることは無かった



「時人くん、本日もお疲れ様です。」

昨日と同じ時間にバイトを終える。昨日よりは人が来たものの相変わらず客数は多くなかった。

「お疲れ様です。」

エプロンを外して裏から出る。今は客もいないが今日はまだ店を閉めないらしい。

「今週末に大須が来るようです。時人くんにバイトを頼んでない日ですが予定はいかがですか?」

「予定は入れてませんし遊びに来ますよ。大須と約束もしましたし。忙しそうなら働きます。」

「それは助かります。ではまた土曜日に。」

あらためてお疲れ様ですと挨拶して店を出た。そのタイミングで長月にメッセージを贈る。

少し間があって返事がきた。帰り道を歩きながら確認する。どうやらもう出来上がっているらしい。家でご飯ができていると考えるとお腹がすく。メニューを聞いていないので何ができているか楽しみだ。

マンションのオートロックを開けてエレベータに乗る。その時間すら待ち遠しい。

今まではバイト終わりにここまで空腹を感じたことはなかったが、すでに長月の料理に調教されてしまったのか。

部屋に着くと鍵がかかっていた。長月は一度自分の部屋に戻ったのか。鍵を開けて中に入る。

「あ、おかえりなさい。」

扉を開けるとパタパタとスリッパを弾ませて彼女が迎えに来てくれた。

「た、ただいま。」

……ただいまを誰かに言うのなんてだいぶ久しぶりだ。



ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ幸いです。

評価や感想などいつでもお待ちしております。気が向いたらしていただければ嬉しいです。



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