第160話 実家
気づけば最初の投稿から1年以上過ぎていました。応援してくれている読者の方に感謝です。
そして、PV50000とユニークアクセス10000ありがとうございます。
気づけば達成していました。
更新が遅くなってしまいましたがこれからもよろしくお願いします。
たった半年。それでも懐かしさを強く感じる。
実家に近づくにつれて見慣れた景色。朱音は興味深いのか辺りをきょろきょろと見ながら歩いていた。
「住宅街ですね」
「コンビニはあるけど。それしかないかな」
駅からもそれなりの時間歩いてきた。このあたりに住むのなら車などの足が必須みたいだ。
連絡をとった際に迎えを打診されたが断った。なんとなく朱音と歩きたかった。自分の地元を朱音の隣で。
「歩かせてごめん。もう着くから」
「大丈夫です。楽しいですから」
繋がる左手に力を感じる。くすくす笑う朱音に嘘はなさそうだ。
家から一番近い自動販売機も通り過ぎた。朝と夜には秋を感じるが、まだ温かい飲み物はラインナップされていないらしい。
「あ、あの家ですか?」
「そうそう。なんで……って、ああバイク乗ったんだっけ?」
鮮やかなオレンジが目立つ黒いネイキッド。目立つ位置に止まっているそれが見えていたらしい。
「はい。後ろに乗せてもらいました」
ニコニコと語る朱音は楽しそうだった。俺を後ろに乗せたときは派手な運転をされた思い出があって少し怖かったが、さすがに朱音にはそういうことをしなかったらしい。
バイクと車の横を抜けて、家の鍵を取り出す。朱音がそわそわしだしていて可愛かった。
「どうぞ。いらっしゃい」
少し重たい玄関の扉を開けて朱音を中に入れた。両親はきっと2階のリビングにいるだろう。
「ただいま」
二人に届くかわからないが一応そう言っておいた。
「おじゃまします」
「どうぞ」
二階からどたばたと聞こえる。何をしているのだろうか。朱音も疑問に思っていたようで不思議そうな顔と目が合った。
「いらっしゃい。朱音ちゃん」
「よく来たね」
穏やかに微笑む春人と対照的に月子はハイテンションだ。テーブルを挟んでいなかったら飛んできそうな勢いだ。
「お久しぶりです。おじゃましてます」
「そんな久しぶりでもないだろ」
文化祭ぶり。一月と経っていない。俺のツッコミが気に入らなかった月子にジロリと睨まれた。やはり俺より朱音を強く歓迎しているのが伝わって苦笑いだ。
「待ってたわよ。じゃあとりあえずご飯にしましょうか」
キッチンから春人が運んできたのはお寿司だった。気合が入っているらしい。乗っているネタも大きく豪華だ。
「やたらいいの買ってない?」
「当たり前でしょ?」
当然のような顔をしてこちらを見ていた月子にまたも苦笑いしか出なかった。
キッチンで手伝おうとしていた朱音が追いやられて戻ってきている。
「父さんに任せてていいよ。朱音も座って」
「でも……。わかりました」
他人の家で気を使うのはわかる。わかるが
「あの二人に気を使うだけ無駄。というか本人がやりたがってるんだから」
隣の椅子を引いて朱音に着席を促す。渋々といった表情で座った朱音はまだそわそわとしている。
「待たせたね」
温かいお茶を人数分春人が準備して席に着く。小皿に醤油も揃っている。
「じゃあ食べましょう」
月子の号令で四人手を合わせた。
寿司の一貫目。こだわりはない。手前の光物から頂こう。
「美味しいです」
何を食べたのか見ていなかったが朱音は嬉しそうにほおばっていた。それを見る両親も嬉しそうだ。
「よかったわ」
ニコニコと全員笑いながら昼ご飯が進んだ。
お寿司には緑茶がいい。それも温かい緑茶。ほうじ茶でもいいけれど。
飲むと深い息が漏れ出る。そこまでテンプレートだ。
「ごちそうさまでした」
「朱音ちゃん。足りたかしら?」
相変わらず月子には腹ペコキャラとして見られているらしい。
「大丈夫です!!」
手を振りながら否定していた朱音にキッチンから春人が笑っていた。
「よかったわ」
そう言いながら春人に指示してお菓子を出していた。まだまだ食べさせる気らしい。
出されたフィナンシェはおそらく春人の手作りだろう。
「緑茶に洋菓子って」
「文句言うなら食べなくていいわよ」
「美味しいです!」
乗っているアーモンドが嬉しい。いい香ばしさだ。朱音も気に入ったようで噛みしめながら食べている。
春人もニコニコと眺めていた。そして月子はご満悦だ。
「……で、面談のことよね?」
ずずー。っとお茶を啜ってから月子がきりだした。
もちろんその件について話をしに来たというのもある。
「朱音さんの話は聞いたよ。母さんが朱音さんの方で出るなら僕が時人の方で出ようかな」
「父さんでも母さんでもどっちが出てくれても問題はないけど」
「あの、今更なのですが本当によろしいのですか?」
俺と春人の何気ない会話に朱音が申し訳なさそうに手をあげた。
「……朱音ちゃんは私が行くと困る?」
「そうではなくて、むしろ申し訳ないというか
「じゃあいいわね。問題はないわ!」
食い気味に月子が笑った。
「朱音、これ母さんが行きたいだけってのもあるから。朱音に問題ないなら行かしてあげてよ」
「あら時人。まるでわたしのわがままみたいじゃない。その通りだけどね!」
「月子さん……。ありがとうございます」
「じゃあやっぱり時人のは僕が行こうかな。僕だって行きたいしね」
月子が笑い出して、春人が続いて、俺も続いて。その笑いの渦に巻き込まれて朱音も笑い出す。
「家族……ですね」
「朱音ちゃんもよ?」
朱音が呟いた言葉に月子が真面目に肯定する。やや恥ずかしい発言だが朱音は嬉しそうにするし、春人は穏やかに微笑んでいる。
照れる。が、それよりも朱音が嬉しそうにしていることがこちらも嬉しくなる。
「……面談の日付なんだけど」
このままでは話が進まない。リュックからプリントを取り出して二人に見せる。来月の頭の方の日付がかかれていた。
「いつなら大丈夫そう?」
「僕はいつでも。時間帯は早いほうがいいかな」
「私は……この日以外なら大丈夫ね」
時間に融通が利く二人はいつでも問題ないみたいだ。
「じゃあ折角だし私も春人さんもこの日のこの辺りにしてもらえる?終わったら皆でご飯にしましょう!」
月子が指したのは金曜日の夕方早い時間帯。授業終わりすぐを指差していた。
「いいね。じゃあそうしてもらえるように提出してくれる?」
俺も朱音もその日で問題はなかった。春人がプリントにさっと記入して俺に返す。
「まあ一応朱音と連続してほしいとは伝えておく」
担任の三井には変な顔をされるとは思うが深く追求はされないだろう。あの担任なら。
面談の話はついた。問題なく。
話がこれだけならわざわざ実家に帰ってくるまでもなかった。
必要な話はまだある。
だが、重たい話はまだ早い。
みんなの飲み物がなくなったタイミングで春人がキッチンに立った。希望を聞かれたのでコーヒーを淹れてもらう。
久しぶりの春人のコーヒーだ。ガリガリと豆を挽く音が聞こえた。いい香りも届いてくる。
「美味しいです」
いつものようにミルクを足したコーヒーを朱音が飲んでいた。
その反応に春人も満足げだ。普段俺が気まぐれにミルクを入れようとすると怒るのだが朱音はいいらしい。
「あのさ、玲さんの結婚式なんだけど」
コーヒーを飲みながら話を進めた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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久しぶりの更新ですが、話も進んでいませんし、甘い話でもないです。
また頑張っていきますので応援していただければ喜びます。