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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第4章
160/166

第156話 拒絶と行方


少し短いです

日は沈みかけている。

綺麗なオレンジ色が差す空の下、朱音と並んで歩いていた。

来るときは乗ってきた電車。だが、急いで帰らないといけない理由もない。

「一駅分だし、歩いて帰らない?」

そう朱音に問いかけると、やや控えめに朱音が頷いた。

空気は重たい。手は繋いで並んでいるものの朱音と距離を感じてしまう。

もちろんその理由もわかっている。だからこそ少しでも気を紛らわすことができれば、と歩いているのだ。

「少し、疲れました」

朱音が呟いたのは体力面でのことではないだろう。ふと朱音越しに公園が見えた。

「ちょっと寄ってかない?」

「……はい」

手を引いてアピールすると少し微笑みながら朱音が着いてくる。

きゃっきゃと遊具ではしゃいでいる児童。ゆっくり公園内を散歩している老夫婦。様々な日常がそこにはあった。

朱音を連れて公園のベンチに腰掛けた。

「朱音、大丈夫?」

「ちょっと堪えました」

「……ごめん。力になれないどころか、踏み込みすぎたかもしれない」

「それは違います!」

朱音の声量に近くで遊んでいた子どもがこちらを振り返った。

「時人くんがいなかったら……、私はきっと来ることもできなかったです」

俺の制服の裾を摘みながら朱音が呟く。

「でも、結局朱音が傷ついて……」

「これでよかったんですよ。そもそも勘違いだったんです。……もしかしたら普通に距離を詰めることができるなんて」

こちらを見上げて弱々しく微笑んだ朱音を見てられなかった。思わず抱きしめて朱音の頭を撫でる。

なんて言えばよかったのだろう。

傷ついた朱音にかける言葉がわからない。

「ありがとうございます。私には時人くんがいてくれたら。それでいいんです。それだけで満足です。それ以上望むなんて……私には……」

朱音もゆっくりと俺の背に腕を回す。リュック越しに朱音の力を感じた。

朱音が望むそれ以上のもの。それは俺だけでは与えられない。今の俺には難しい。

あの祖母からの家族の愛。

朱音にとっての残り少ない血のつながりのある家族。

それからの親愛を、俺には与えられない。

いまだかける言葉は見つからなかった。

「あの、時人くん、スマホ。鳴ってます」

ある意味助かったのかもしれない。ポケットから取り出す。

「母さん?……朱音。ちょっとごめん」

「はい。大丈夫です」

朱音から離れて耳にスマホを寄せる。

『時人?今どこにいるの?』

『ちょっと……出かけてた』

『朱音ちゃんと?』

『まあ、うん』

そう言うと月子は明らかにテンションが上がっていた。楽しそうね。なんて笑っている。おそらくデートか何かと勘違いしているのだろう。

『じゃあまだ帰らない?』

『……いや、もう帰ろうとしてるよ』

『わかったわ。時人の家で待ってるから』

『は?』

むなしくもスマホから聞こえるのはツーツーという通話が切れた音。

「月子さん、何かあったんですか?」

「いや、なんか家で待ってるらしい」

「急ですね。月子さんらしいです」

朱音がくすくすと笑う。

「ごめん。もう少しゆっくりしたかったけど」

「いえいえ。助かりました」

気分転換にはなったのだろうか。公園に入る前より表情は明るかった。

てーんてーん。とボールが跳ねてくる。

近くの子どもが蹴ったものらしい。それを受け止めて手を振る彼らの元に投げ返した。ありがとうございます。と叫ぶ声に手をあげて返す。

「じゃ、帰ろうか」

そのときお腹がくうと鳴った。普段ならもう夕食は済ましている時間だ。腹時計は素直に正確だった。

「はい。お腹も空きましたしね」

またも朱音がくすくすと笑って立ち上がろうとする。そんな朱音に手を伸ばして立ち上がる助けをした。

「今日の晩ご飯の予定は?」

「何時になるのか予想もついてなかったので、簡単に丼にしようかと思って炊飯器だけ予約してあります」

「いいね。親子丼?」

「……帰ってからのお楽しみということで」

「楽しみだな」

指を絡めて朱音と歩き出す。

ボール遊びをしていた男の子たちの近くを通るときに、ひゅーひゅーと囃し立てられた。

「俺の彼女。かわいいだろ?自慢なんだ」

「と、時人くん!?」

声をかけられると思ってなかったらしい彼らがびっくりしていた。それ以上に朱音も。

そんな反応が可愛かったので笑ってしまう。

正しく気分転換にはなったみたいでよかった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ幸いです。


更新頻度が落ちて申し訳ないです。



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