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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第4章
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第151話 祭りも終わって、戻る日々


ここから第4章です。




教室の中は賑わっている。文化祭は終わったもののまだどこか浮かれ気分なのは片づけが済んでいないからだろう。

渡り廊下に出しっぱなしにするわけにはいかないので教室に乱雑にまとめられた屋台と備品。それらがまだ日常から距離があることを示している。

全校朝礼が終わって教室に戻ってきた。どうやら一番客を集めたのはあのたこ焼きのクラスだったようだ。大須も気に入っていたあの先輩はミスコンテストではそうそうに敗退したはずで、その分の加点はなかったはずなのに集客が一番だったのは驚きもある。食欲を誘うソースの香りの強さか、あの先輩含む接客の強さか。

「折角作ったこれらも解体してしまうんですね」

「まあ。いらないしな」

「水樹くんさー……」

朱音との会話を聞いていた桐島が嘆いている。イベントも終わったし、作ったのは確かだが、こんな手作り屋台に思い入れも特に無い。

「まあいらんしなー。時人の言ってるのもわかるわー」

「竜くんは当日働かなかったんだから今日はがんばってもらうからねー」

「まあしゃあないわなー」

腕まくりをしてやる気をみせている竜は金槌片手に解体するらしい。

「文化祭あっという間だったわね」

「そうですね」

俺たちは集中もそこそこに話しながら作業を進めている。

「大須クンにもまた会いたいわね」

「そう言えば親戚じゃないんだよねー?どういう繋がりなのー?」

「あー俺のバイト先のマスターの孫。小さいときから知ってるから弟みたいなものなんだよ」

「噂の喫茶店のー?」

「何の噂?」

「朱音ちゃんから聞いたんだよー」

桐島が朱音に同意を求めていた。過去に遊びに来たことを朱音は話していたらしい。

「朱音から水樹のバイト先に遊びに行ったって聞いたのよ。すごくテンション高く。ね」

「ちょっと。奈々さん」

「えー朱音ちゃん可愛いー」

どうやらテンション高く話したのは事実らしく、朱音が恥ずかしがりながら萩原を止めている。それを見ていた桐島がさらに上回るテンションで朱音に抱きついていた。

「ちぇー。俺も会いたかったがなー」

「大須くん。水樹にそっくりだったよね。色々と」

渦中の人物に会えなかった悔しさで竜が嘆いている。友里はどこか自慢げだ。

「タイミングが合えばまた紹介する」

竜は俺にとって一番の親友だ。大須に紹介したい気持ちもあるし、二人は息も合いそうだ。

「おー。楽しみに……あ。じゃあさー。今度は皆で時人のバイト先に行こうぜー」

「えー行きたーい!」

思いつきをそのまま口にした竜に桐島が同意している。未だ朱音は桐島に抱かれたままだ。

「……さすがにこの人数は迷惑じゃないかしら」

「先に話を通しておけば、暇なときなら問題はないと思う」

学校終わりのバイトの時間だとそこまで忙しいことは稀のはず。放課後に少し遊びに行くなら問題はない。が、その時間帯に大須が来ているかと言うのは微妙だ。

大須の家はそこまで遠くはない。だが、近くもない。特に小学生になったばかりの大須にとっては。

「じゃあ近いうちに決行でー。楽しみだなー」

「あー。まあいいや。そのうちで」

どうしようか考えたが、なんとかなるだろうという結論に落ち着いた。

「時人くんがバイトじゃない日に行きましょう」

「あー、まあ俺もその方が自由に出来るしそっちの方がいいかな」

桐島にしがみつかれながら朱音が頑張って口を出している。朱音の言うとおりの方がありがたい。

「そのバイト先の喫茶店って水樹の家から近いんだよね?」

「いつも歩いて行ってるくらいには近い」

「じゃあ俺の家も近いね」

「あー方角的にはそっちになるかも」

「そう言えば友里くんの家も近かったのね」

「歩いてだとちょっとあるけどね」

片付けは全く進んでいない。手より口の方が動いている。

だが、それを咎める人もだれもいない。担任も不在で作業は遅々としていた。

「そういえば打ち上げってまた焼肉だったんだなー」

「まあ定番だからねー。苦手な人も少ないし食べる量は各自で調整できちゃうしー」

「時人も行けばよかっただろー」

クラスのグループチャットに乗せられた写真で知ったらしい竜に詰められる。

もともと行く気も無かった上にあの日は朱音と早く二人になりたかった。

軽く肩を叩く腕を払った。それでも竜はカラカラと笑っている。

「水樹くんは朱音ちゃんと打ち上げしてたんでしょー?どこか行ったのー?」

「あー。……ラーメン食べに行った」

俺の返答に桐島が目を丸くして驚いている。

「朱音ちゃんのご飯食べなかったんだー?珍しいねー」

「帰ってすぐは俺も朱音もあまりお腹空いてなくて。深夜くらいに食べに行ったから」

「え、あー。なるほどねー」

「写真ありますよ」

どこか戸惑った桐島に朱音がスマホの画面を見せる。途端、桐島が画面を伏せた。

「あ、朱音ちゃん。あまりこの写真は人に見せない方がいいかなー。なんて思ったり」

「……朱音。私たちだったからいいけれど」

途中から朱音に耳打ちするように声量を抑えた萩原が朱音に呟く。それを聞いて朱音は慌ててスマホをポケットに仕舞った。

そんな女性陣を俺も竜も友里もぽかんと見ていた。

「……そんな見せるのに躊躇う写真だったのかー?」

「そんな写真は撮ってないはず」

「……何か写り込んでいたんじゃないかな」

記憶を辿っても特に問題は……。ある。

あの時のあの角度なら。察しのよい二人なら色々気づいたかもしれない。

朱音が着ている明らかに俺の物とわかるTシャツも、首もとのアレも。あるいはその両方か。

そこから推測されてもおかしくはない。朱音も色々話しているみたいだし。

「あー、うん。まあラーメン食べたってことで」

「……時人がそう言うならそういうことにしとくかー」

会話の雰囲気で何を察したのか竜は深く追求はしてこなかった。この辺りの感覚は助かる。

結局、片付けが終わるのは昼までかかってしまった。



「時人くん、お昼です!」

「いつもありがとうございます」

朱音が用意してくれたお弁当を広げる。今日も豪華だ。

片づけをしていたメンバーでそのまま学食に来ている。珍しく竜も学食らしく萩原と二人で丼を抱えていた。

「お弁当まで作ってもらってるんだね。水樹たちは変わらず仲が良くてなによりだよ」

「はい。仲良しです」

嬉しそうに朱音が肯定する。それだけで俺も嬉しくなった。

「まあ。うん。否定はしない」

「しなくてもわかるからねー。態度とか表情とかねー」

「水樹はもとより、朱音もわかりやすくなったからね」

変わらず朱音は嬉しそうに笑っている。それを見ていた竜が堪えきれないように笑い出した。

「ホント変わったよなー。二人ともー」

「……もう食べていい?」

これ以上揶揄われても相手しきれない。返事もそこそこにいただきますと言って食べ始めた。俺が食べないと朱音も食べ始めないし。

「美味しいよ」

「よかったです。今日の玉子焼きは自信作ですから」

「うん。わかる。美味しい」

「えへへ」

「やっぱり二人ともわかりやすいんよなー」

またも竜がカラカラと笑った。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ幸いです。


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