第150話 やっぱりご機嫌な朝食
文化祭が終わって二日目。昨日は遅くまで朱音と話し合って、二人で眠った。
今日は朱音のほうが先に起きたらしく、目を覚ますと穏やかに笑っている朱音と目が合う。
「おはようございます」
「おはよう。朱音」
既に日は昇っている。だが、それほど寝坊というわけでもなさそうだ。
枕元のスマホを立ち上げて時間を確認しても体感とそう大きく違わなかった。
「結構前から起きてた?」
「いえ、そんなにですよ?」
相変わらずのクスクス笑いに髪を撫でて返す。
よっと腹筋に力を入れて起き上がる。そのまま体を伸ばした。肩と首がコキコキと軽快な音をたててより覚醒する。
「おなか空きましたか?朝ごはん作りますね」
「……目玉焼きが食べたい」
「では、パンにしますね」
遅れて朱音も起き上がる。腕を伸ばしながら、んー。と鳴いていた。
朝ごはんのリクエストをすると朱音が喜んで受け入れる。そんな簡単なことが嬉しくて朱音の頬に触れてから小さくキスをした。
「朱音、今日、どこか遊びに行こうか」
「行きたいです!」
どこに行こうかな。と、頭の端で考えながらベッドから立ち上がる。小さな手を引いて朱音が立ち上がるのを手伝った。
「ありがとうございます」
「俺がしたかったから」
「ふふっ……ありがとうございます」
ニコニコと笑いあいながら朱音と寝室を出た。
「まだ残ってますね」
「あー。たしかに」
洗面所で並んで顔を洗っていると鏡を見ていた朱音が呟いた。
朱音の首元はまだ小さく赤くなっていた。とはいえ、昨日よりは薄くなっている。そこまで目立ちはしないだろう。
「……またつけてくださいね?」
鏡越しに悪戯っぽく笑う朱音に思わず歯ブラシごと吹き出しそうになった。
「しばらくは自重させて……」
この時は朱音に思いっきり誘われて俺自身も昂ぶっていた。なおかつ朱音が望んでいたのも重なってたくさん朱音を可愛がった。
いろんな反応をしてくれる朱音は可愛かったが、なんとなく自分の暴走になってしまいそうで、次はもう少しコミュニケーションをとりつつしたいと思っている。
歯ブラシから手を離して両手を上げる。降参。そのポーズの意味を受け取った朱音がまたもクスクス笑った。
「では、楽しみにしてますね」
「……なんでそんな嬉しそうなんだよ」
なんでなんて口にしてみたがもちろんその理由も見当はついている。俺の台詞が照れ隠しなのが朱音にもばれているようでずっとクスクス笑っていた。
「時人くん、ベーコンとウインナーどっちがいいですか?」
「ベーコンかな」
そう答えるとベーコンベーコンと口ずさみながら朱音が冷蔵庫から取り出していた。そんな一つ一つの動作が愛らしい。
テレビをぼんやり眺めていると、ざっざっと何か切る音が聞こえた。ちらりと視線を動かすと朱音はキャベツを千切りにしていた。サラダにつかうのだろう。
熱したフライパンで焼き始めたらしい音も聞こえてきていい香りが漂う。
「もうすぐできますよ」
その言葉をきいて立ち上がる。朱音がキッチンで皿に二人分のベーコンエッグを並べていた。それをテーブルに運ぶ。
「ん?キャベツをサラダに使うと思ったらここにいたんだ」
ベーコンと一緒に炒めていたらしい。軽く火が通ってしんなりとしたキャベツがベーコンの下に敷かれている。
「ちゃんとサラダもありますよ」
ちぎったレタスとプチトマトの簡単なミニサラダ。瑞々しいそれらが青々と輝いていて彩りとしても栄養面でも十分過ぎる。
鍋からタマゴのスープも朱音がよそっていた。朝から全く手を抜いていないのに時間はほとんどかかっていない。
「美味しそう」
テーブルに並んだ朝食を見て感想を告げる。朱音はニコニコと素直に受け入れていた。
「召し上がれ。です」
「いただきます」
ベーコンエッグの黄身を割る。半熟なそれがトロリと皿に流れてその一部がついたベーコンを口に入れる。今日は塩コショウの気分だったので何もかけていない。シンプルなタマゴの味とベーコンの塩味とコショウの辛さ。完璧なバランスのそれに舌鼓をうつ。
「美味しい」
「よかったです」
いつものように朱音も食べ始める。豪勢な朝食を食べて活力も漲る。俺たちは休みだが世間的にはただの平日。テレビから流れる朝のニュースをBGMに俺たちはゆっくりと朝食を楽しんだ。
昼前まで俺の家で過ごしてから朱音は一旦自分の家に帰っていった。その間に俺も出かける準備をする。部屋着から着替えて髪を整えた。思いつきで急遽決まったとはいえデートだ。朱音の隣を歩くためにも手は抜かない。
準備ができた朱音が戻ってくるまでに俺の用意は済んでいた。
「どうですか?」
「それ、着てる朱音と遊びに行くの楽しみにしてた。似合ってるよ」
プラネタリウムに行った日に朱音が買ったワンピース。
もっと早く出番を与えてやりたかったが申し訳ない。秋になりかけているとはいえ今日も昼の間は涼しいとはいえない気温なので問題はないだろう。
しかし、このワンピースだけで出かけるのも今年は今日で最後になりそうだ。
「時人くんが選んでくれましたから。やっとですね」
俺の反応に満足らしい朱音が嬉しそうに笑う。
「……ひとまずランチ食べて、カラオケでも行こうかなって思ってたけど、ちょっと変更かな。歩いてもいい?」
「ヒールじゃないので大丈夫ですよ」
頭の中でスケジュールを組み立てる。先日、カラオケも朱音にせがまれていたが学校帰りでもいける場所だと考えて今回は変えよう。
「じゃあ行こうか」
「はい。エスコートお願いします」
朱音の手を引いて家を出る。太陽はらんらんと輝いていた。
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