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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第3章
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第147話 結婚式


父からの電話だ。朱音に一言入れて寝室から出て扉を閉める。

中からポロンポロンとキーボードの音が鳴っていて朱音は一人でも弾いているみたいだ。

『今、大丈夫?』

『大丈夫。問題ないよ』

そろそろ来るだろうと思っていた。父親からの電話。

用件に見当もついていないが、わざわざすると言われてからの連絡だ。あの場で話すには話せない内容だったのか、時間がかかる話なのか。

『一人かい?』

『いや、近くに朱音もいてる。聞かれたらまずい話?』

『ふふふ。そうか。むしろ都合がいいよ。先にそっちの用件から済まそうかなって』

静かに笑う春人は楽しそうだ。

朱音にも用事があったのだろうか。先にと、言われたのでいくつか話すことはあるみたいだ。

『時人、それに朱音さんも……この日、あいてないかな?』

春人が言った日付をカレンダーで確認する。来月の土曜日だ。俺はまだバイトのシフトもだしていないので問題ない。

『俺はあいてるけど。ちょっと待って、朱音に聞いてみる。けど、その前に何の予定か聞いていい?』

何もわからないうちにスケジュールを押さえるのは身内である俺なら問題ないだろう。だが、朱音にはちゃんと説明して変な内容なら断ってもいいと思っている。

『ああ。そうだね。玲の結婚式なんだ』

玲さん。先日、マスターの店で会った両親の友人だ。

結婚式に呼ばれるほど親しくはない。と、思ったが春人の説明曰く、新婦さん側の招待客とのバランスを考えてのことらしい。俺にまで話がまわってくるほど玲さんはそんなに呼べるほどの人がいないようだ。

『サクラだと思ってくれていいよ。玲もバイト代くらい出させてほしいと言っていたし、お金がもらえて美味しいご飯が食べられるって思ってくれたらいい。で、時人ひとりもなんだから朱音さんもどうかなって思ったんだけど聞いてもらえるかい?』

とりあえず理解した。それなら朱音に聞いてみてもいいかもしれない。電話を繋げたまま寝室に戻った。扉を開けると朱音が顔をあげこちらを見る。何か言いかけたがこちらが通話中なのがわかったのか不思議そうな顔で口を閉じた。

「朱音、この日、用事ある?」

「ちょっと待ってくださいね」

朱音がスマホを持ってひらくのはカレンダーアプリ。

「あいてますよ。何かありましたか?」

「知り合いの結婚式にサクラとして出ないかって。バイト代も出るみたい。どう?」

「結婚式ですか!行ってみたいです!」

食い気味に反応した朱音の瞳は輝いていた。ピアノのスツールから立ち上がりかけた朱音を制す。

「わかったわかった。じゃあ行くってことで伝えておく」

興奮気味の朱音の髪を軽く撫でてもう一度寝室を後にしてスマホを耳に寄せる。保留にするのを忘れていたので会話は筒抜けだっただろう。

『ってことで』

『仲が良いみたいでなによりだよ』

『はいはい。で、他にも話あったんだろ?』

玲へのお祝いもそこそこに話を進ませる。これが本題ではないだろう。

『そうだね。時人は……進路決まっているのかい?』

『進路?いや、まだ。進学するかも決めてない』

『だろうね。まだ高校一年生だしね。……昨日担任の先生と少し話をしたよ。勉強は頑張ってるみたいでよかったよ』

いつの間に三井と会ったのだろうか。というかよく話をしようと思ったな。担任の先生だとわかったのだろうか。

『あーうん。まあそこは約束したから』

『進学する気があったのかと驚いたよ』

父親にどう思われているのだろうか。進学しないと思われていたのにこちらも驚きだ。

『……で、もしかして進路について聞きたかったの?』

『まあそうかな』

珍しい。というか、なんだこれ。本当にあの父さんだろうか。

いまいちこの電話の真意が掴みきれない。こんな話を聞きたいがために電話するような人ではなかったはずだ。

『時人がどういう基準で決めることになるかは知らないよ。好きなことを勉強したいからとか、単純に就職したくないとか、キャンパスライフを楽しみたいとかでもいい』

『……?うん?』

『それでも、もし、時人がこれからも朱音さんと親しくしておきたいなら朱音さんとその辺りもしっかりと話し合っておきなさい。彼女は時人と環境が全く違うんだ。選べるはずのものも選ばないのかもしれない』

そういえば春人は朱音がこのマンションの契約の際に立ち会っている。もしかしたら朱音について俺より知っていることがあるのかもしれない。

選べるはずのものも選ばない……?

『どういう意味?』

『話せばわかると思うよ。余計なおせっかいかもしれないけどね』

『……とりあえずわかった』

『母さんも朱音さんを気に入っているし、これからも仲良くしてほしいからね』

『それなんだけど仲良すぎない?二人で会ったりしてるみたいだし』

『みたいだね。まあいいじゃないか。……朱音さんが母親ってどういうものなのか知ることができるのは彼女にとっていいと思うよ』

それはそうかもしれないが、あの母さんが一般的な母親として枠に収まるかは審議を要する。

親しくしている母さんはともかく、父さんまで朱音の家族事情を知っていたのが驚きだ。母さんが話したのだろうか。

『……朱音と真剣に話してみるよ。進路のこととか色々。俺がまだ決めていないことも含めて』

春人に従ってみよう。それに、朱音と付き合ってそれなりに経ったが朱音について知らないこともまだまだある。

そういった面も含めて朱音と向かい合う時間をとるのも必要かもしれない。そのきっかけとして進路はいい話題だと思う。進路含めて将来について話すなら真剣になるだろう。

『いいと思うよ。そして困ったならいつでも話しておいで。時人だけでなく朱音さんの力にもなれるから』

その後少し話をして別れを告げた。

玲の結婚式への招待。春人が朱音との仲を心配していたこと。そして進路、将来について。

短時間だったが内容は濃かった。

気づけばポロンポロンと鳴っていた鍵盤の音も止まっている。朱音も休憩でもとっているのだろうか。

話していたことを頭の中で整理するように深呼吸してから寝室の扉を開けた。



朱音はスツールに座りながらスマホを見ていた。俺が入ってきたことに気づいてまた顔をあげる。今度は通話中じゃないとわかってそこはかとなく笑顔だ。

「お話は終わったんですか?」

「あーうん。ごめん待たせた」

電話が来るまで朱音の鍵盤を見ていた。もう教えるようなことはないが一応そういう取引なので口を出せることはちゃんと言ってやりたい。

「いえいえ気にしないでください。私も好きにしてましたから」

「……急な話だったけど結婚式の件、本当に大丈夫?」

「え、楽しみです。結婚式なんて初めてですから」

朱音は玲の結婚式に思いを馳せている。本当に楽しみにしているようだ。

どういう相手なのか全く伝えていなかったので朱音に説明した。

「てことは月子さんたちも来られるのですか?更に楽しみも増えました」

「それ聞いたら母さん喜ぶなあ……」

というか春人が今頃月子にも伝えているだろう。そのうち朱音にメッセージなり通話なり来そうだ。

「……時人くん」

「どうかした?」

俺の説明に何か気になるところでもあっただろうか。朱音がこちらを見ていた。

「結婚式楽しみです」

私たちの結婚式。まるでそう言われているようで少し顔が赤くなる。

「俺も楽しみだよ」

俺たちの。そう言うように朱音に伝えると嬉しそうに彼女は笑った。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ幸いです。



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