第14話 初日
今日も晴れている、雨は嫌いじゃないが流石に続くと煩わしい。梅雨が明けてくれると助かる。
昨日の行動は本当に自分らしくなかった。何故か彼女にだけは踏み込んでしまう。
「時人さー今日一日しかめっ面してる。」
なんかあった?と昼休みにご飯を食べながら問いかけられた。
「……何もないって。」
「時人わかりやすいからなー。」
今日も丁寧に一口ずつ口に運んでいた。そんな育ちのよさが出ているくせに箸で人を指すのは良くないと思う。
「言わないなら聞かないけどさー。何かに巻き込まれてるとか、そういうアレじゃなさそうだし。」
実は長月が隣に住んでいてお互いに一人暮らし。今日からキーボードを教える変わりに晩御飯を作ってもらう。
なんて、ここまで言うと竜は面白がってからかうのが目に見えている。テンションが高いときの竜の相手をするのは疲れるし、めんどくさい。
「ま、そのうち話す。多分。」
「それ話さないやつー。」
竜がカラカラと笑った。こういうときに深く聞き込んでこないのは竜のコミュ力の高さだろう。
授業を終えて帰る準備をする。竜はバイト先に別れを告げてくる、と早足で帰っていった。
そういえば今日の時間帯とか決めていなかった。隣の彼女を見るといつもの無表情で帰る準備をしている。
「今日、何時からにする?」
「え、あーそういえば何も決めてなかったですね。」
彼女はこっちを見ると笑顔でそういった。その表情に見とれてしまう。
「……水樹くん?」
「ごめんボーっとしてた。そのあたり帰りながら決めようか。」
色々とごまかすためにリュックを背負って立ち上がる。まだ準備をしていた彼女がいそいそとテキストやノートをカバンに詰め込むのを眺める。
「お待たせしました。帰りましょう。」
そうして二人で教室を出る。いい天気が続いたのでグラウンドでは運動部が暑そうに活動していた。校門を抜けて歩きながら問いかける。
「……で、どうする?俺は帰るともうすることないからいつでもいいけど。」
「うーん、水樹くんっていつも何時くらいに晩御飯食べてますか?」
時間なんてそんなの考えたことがなかったのでいつもの生活を振り返ってみる。
「バイトがないときだと何かしながら適当に食べてるから特に決めてない。」
信じられない、といった表情がもろに出ていた。
「適当すぎます。じゃあ今日から晩御飯の時間は18時くらいにしましょう。」
「じゃあその後練習しようか。……ところで今日は何を作ってくれるんだ?」
「うーん、買い物に行ってから決めます。水樹くんの家って調味料とか揃ってなさそうでしたし。」
「え、俺の家で作るのか?」
カレーのときみたいに作ってきてもらうものだと思っていたが、どうやら違うらしい。
「調理したもの直接出したり、洗い物をまとめてできると楽なのでそのつもりでしたが……迷惑ですか?」
「その方が楽ならそうしようか。料理に関しては完全に任せるしこちらに異論なんてない。」
そのまま帰り道の近くのスーパーマーケットに寄ることにした。普段のご飯はネット通販でダンボール買いしてあるので久しぶりに入る。カートにカゴを乗せて押す。必要なものは彼女にとってもらおう。
「水樹くん嫌いなものってあります?」
「特にないな。」
「じゃあ今日はしょうが焼きです。豚肉安いですし。」
そういってカゴに材料を入れていく。このスーパーにはよく来ているようで必要なものがどこにあるか把握しているようだ。その足取りに迷いはなかった。
レジまで来て支払いのことを忘れていたことに気づく。自分が教える対価とはいえ二人分の食費となると金額も大きくなる。まして今回は調味料も揃えているのでなおさらだ。
「長月、一旦ここは俺が払うから細かいことは後で決めよう。」
「いや水樹くんに悪いのでちゃんと支払います。私は教わる側なので。」
「それを言うなら俺だって食べる側だから。……もうレジまで来てるから細かいことは後でな。」
納得のいってないだろう彼女を無視して会計を済ませる。その間に袋詰めを済ませてくれていた。その緑色のエコバックは彼女がもってきていたもののようだ。
「……買い物行くの予想してた?」
「いつもカバンに入れてるんです。帰りに寄って帰れるように。」
まだ納得していないようで眉間にしわがよっている。竜は俺のことをわかりやすいというが彼女の方がわかりやすくて小さく笑った。
今日は調味料などの重量物も多めに買っている。流石にこれは持たせるわけにはいかないのでエコバックを持って歩き出す。
「……私、支払いもしていないのに荷物くらい持たせてください。」
「今日のは重たいしどうせ行くところ一緒なんだから俺が持つ。」
お互いに譲らなかったが押し通した。そこから帰り道でも話し合いとなった。結局教わる側教える側、作る側食べる側と対等であるべきという俺の意見を押し切ってこれから食費は折半ということに決めた。
「……私、これまでより安くつきますし、その上で教わるなんて得しかしないんですけど。」
こちらを睨みながらそう言う彼女を無視して歩き続けた。俺たちは対等。そうあるべきだ。
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