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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第3章
143/166

第140話 許し


久々の更新ですが短いです。




朱音が話し終えるのを待った。腕の中で最後まで鼻声ではあったが途中でまた泣き出すこともなかった。

体が震える。それは怒りか恐怖か。

「時人くん、怒ってますか?」

「怒ってるよ」

「……ですよね。ごめんなさい」

「朱音にじゃない。アイツに」

いまだ胸から顔をあげない朱音の髪を撫で続けていたがその動きを止める。

「俺こそごめん。怖がらせた」

俺が早くに見つけていれば。事態は変わっていたかもしれない。

あいつらの思い通り有村に時間を稼がれて。

萩原たちが間に合わなければどうなっていたかなんて考えたくもなかった。

「言う資格なんてないのかもしれないけど……。朱音が無事でよかった」

百パーセントの無事とは言えない。朱音の話を聞く限り傷は負っている。それでもそう言わざるをえない。

撫でるのをやめて朱音を抱く腕に力を込めた。

「……私なんて、時人くんの思いを無視して離れて……。私が悪いんですよ」

「朱音が悪い訳ないだろ」

「……許してくれるんですか」

「許すも何もない。朱音の行動が俺を想ってなのはわかってる。それでも許しがほしいって言うなら俺は朱音を許すよ」

ようやく顔をあげた朱音が控えめに微笑んだ。一番気にしていたのはここだったようだ。

朱音が一番怖かったのは稲垣に襲われたことでもなく、俺に許してもらえないこと。

そんなことあるわけないと俺も微笑みで返す。

「時人くん……」

朱音の肩が震え始める。また泣いてしまったようだった。それでも今度はさっきまでの悲しみとは違う気がする。安堵の涙だと思う。

しばらくそのまま朱音を慰めているとカラカラと控えめに扉が開く音がした。視線だけそちらにやるとビニール袋を提げた桐島がそこにいた。

心配そうな表情をしていた彼女がゆっくりと顔を出した。空気を読もうとしているのか口の動きだけで声をかけていいか確認を取る。頷くとほっと息を吐いて教室に入ってきた。

「朱音ちゃん、大丈夫?」

近づいてきた桐島に気づいていなかったのか腕の中で朱音はピクリと動いて声の方を向いた。

「……結さん」

名前で呼ばれたことに桐島も驚きの表情から涙目になり始める。

「朱音ちゃんー」

「結さん、さっきはありがとうございました」

朱音の肩をぽんと叩いて体を離した。俺が離れたその瞬間に桐島が朱音に抱きつく。

「よかったよー。朱音ちゃんー。名前で呼んでくれて嬉しいー」

「……どんな顔だよ」

桐島が笑いながら少し泣きつつ朱音と抱き合うのを見て呟き笑う。喜ぶ桐島を感じて朱音も大分気持ちを取り戻したようだった。



色々と落ち着いた朱音を椅子に座らせる。その前に俺も腰をかけた。

「これ目元冷やした方がいいから使ってー」

桐島が持ってきた保冷剤を朱音が受け取る。ありがとうございますと言って目元に当て始めた。確かに少し腫れている。クラスメイトはともかく大須が気づくかはわからないがバレたときが面倒かもしれない。まだ大須のもとに戻るのは早そうだ。

「先にクラスに戻るね。ゆっくりおいでね。無理しちゃだめだから」

最後にそう言って桐島が教室を後にする。笑って手を振りながら見送る朱音はもう大丈夫に見えた。

「……朱音」

教室はまた俺たちだけになった。

保冷剤を目元に当てる朱音の手に自分の手を重ねる。

「時人くん?」

「名前呼びたくて」

「ありがとうございます」

くすくすと笑いながら朱音が礼を言う。名前を呼んだだけでお礼がくるのが嬉しくて俺も笑ってしまう。

大須には悪いが今は二人きりがいい。この時間が愛おしい。

「二度とこの手を離したくない」

「え?」

思っていたことが勝手に口から出ていた。言うつもりもなかったのに。

朱音は驚きながら笑っていた。

「……私もです」

重ねた俺の手に更に朱音の手が重なる。

「離しません。離れませんから」

二人の手で朱音の顔は見づらくなっているがその声で伝わる朱音の表情は笑顔だ。

「ここにいるのね!」

「ちょっと待ってください、今は!」

ガラガラと派手な音と声と共に教室の扉が開かれる。

現れたのは派手な金髪の長い髪をした女性とそれを止めようと頑張っていた萩原。やや遅れて諦めた顔をしていた桐島と穏やかに微笑む背の高い男。その集団をすり抜けて駆け寄ってきたのは大須だった。

「時兄ぃも朱音ちゃんも遅いよー!……朱音ちゃん、どうかしたの?」

「悪い待たせた大須。色々あってな」

「大須くん、一人にしてしまってごめんなさい」

「ちょっと朱音ちゃん?何があったの?時人がなにかしたの?謝りなさい時人」

大須並のスピードで近づいてきた母が俺に詰め寄る。

「色々言いたいことあるけど……。また髪染めたの?」

夏に会ったときは黒かったはずだ。そのせいで一瞬朱音も相手が誰かわかっていなかった。

「お久しぶりです。月子さん。もう大丈夫ですよ」

まだ疑っているのか母は俺を見ていた。

「母さん、時人がこの子を傷つけるような子じゃないのはわかっているだろう?」

「父さんもちゃんと母さん止めてくれって」

途端ににぎやかになった教室に朱音が笑っていた。それを見て桐島も萩原も笑い出す。

ここまで空気が大きく変わったのはある意味よかったかもしれない。

あのままだとずっと教室でいてしまいそうだった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ幸いです。


また更新が遅くなってすいません。

もうすぐ3章も終わりです。まだまだ頑張りますので応援よろしくお願いします。


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