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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第3章
137/166

第134話 まもなく始まる


話があまり進まず短いです。




大須を連れて文化祭を周る。気づけば朱音の手を引っ張るようにあちこちを巡る大須はとても賑やかだ。それでいて俺含め周りを明るくさせる。

「時兄ぃ!次!あっち!」

さっきからグラウンドで体を使う系のアトラクションを楽しんでいる。

ここは運動部が運営するエリアでお金は必要としていないため大須も気兼ねなく遊びまわっていた。

大須が次に行こうとしているのは野球部が運営するストラックアウト。年齢や性別で立ち位置が変わるもので大須にもちょうどいい難易度のようだ。

「朱音ちゃん見ててねー!」

投げる位置に立った大須がボールを持った手を振りながらこちらを見た。俺と隣で見守る朱音はクスクスと笑う。

「大須くん楽しそうですね」

「楽しいんだろうな。あの顔」

「誘ってよかったです」

「……朱音もちょっと元気になった?」

正直、今朝のことを掘り起こすのは賭けだった。単純に忘れていただけなら思い出してまた落ち込ませてしまう。

だけど、朱音は既にふっきれたとはいかないまでもちゃんと切り替えている気がした。

「はい。だって楽しいですもん」

「よかった」

朱音がこちらを見上げてゆっくりと笑った。視線を合わせて俺も微笑む。

「ちょっと時兄ぃ!朱音ちゃんとなにしてるのー!」

見られていないことに気づいた大須からお叱りを受ける。思わず朱音と笑いあった。

「見てますよー」

「あと一球がんばれー」

少し不貞腐れた表情を見せながらも投げた最後の一球は既に空いていた真ん中を通っていった。

「あー!!」

崩れ落ちるように落ち込みを見せた大須に野球部員が肩を叩いて励ましている。

「君、上手だよ。今日来た子どもの中ではうまい方じゃないか?」

「ほんと!?僕うまいかなー?」

彼の言葉に大須がすぐに立ち上がる。コロコロ変わる大須の顔に彼も苦笑いだ。

「朱音ちゃん!僕じょーずだって!」

「聞いてましたよ。よかったですね」

走り寄ってきた大須を撫でながら微笑んでいる朱音に野球部の彼も顔を赤くしていた。

それを見てまた実感した。そのときが迫っていることを。

「大須、そろそろ時間」

ちらりとスマホで時刻を確認する。急がないといけないほどではないが、次に何か遊ぶと間に合わなさそうだ。

「わかったー」

ぱっぱと手を短パンではたく。手を洗いに行く気はないらしい。

「楽しみだね。時兄ぃ」

「……だな」

大須が笑っているので心を殺して肯定する。楽しみなことはない。でもそれは大須には見せたくない。

「時人くん」

朱音に呼ばれるまま振り向く。すぐ目の前に迫っていた朱音の顔に心臓が高鳴る。

「朱音」

気づけば抱きしめられていた。その僅かな間。苛立ちかけていた心が穏やかになっていく。

「見ててくださいね」

「もちろん」

すぐに朱音から離れた。名残惜しいがそれでも十分だった。

「……朱音ちゃん優勝だよね!コンテスト!」

大須が朗らかに笑った。



体育館はなかなかの人の入りだった。並べられた長いすはほとんど埋まっている。

朱音は先に控え室に向かっていたので、入り口で大須と二人でたくさんの人の頭を眺めた。

「水樹くんやっときたー……ってその子が親戚の?」

入り口近くにいた桐島と萩原に後ろから声をかけられた。

「時兄ぃのお友だち?本当に?」

「いつまで疑ってんだよ……。クラスメイトの桐島と萩原。友だちだよ」

「えー時兄ぃ高校生になってから変わりすぎ。……黒瀬大須です!」

相変わらず俺に友人がいることが不思議らしい。夏休みにスーパーで友里に会ったときも驚いていた。

「かわいい……ほんとに水樹の親戚?」

「ねー。水樹くんにも大須くんほど愛想があればねー」

元気に挨拶をする大須に二人も驚きを浮かべていた。

「無理だな」

二人の嘆きに首を振って返事をする。あははー。と桐島が苦笑いをしていた。

「萩原奈々です。よろしくね大須クン?」

「桐島結だよー」

「奈々ちゃんと結ちゃん?二人も朱音ちゃんのお友だち?」

「そうだよー。朱音ちゃんもお友だちだよー」

大須に名前を呼ばれてはしゃぎながら桐島が喜んでいる。萩原もどこかうずうずとしていた。

「って結、そろそろ行かないと。席とってあるから二人も行きましょ?」

その言葉に大須が元気に頷いて萩原の隣に行く。流れるように手をとって歩き出す大須を見て桐島が長く息を吐いた。

「これは水樹くんの弟だねー……」

萩原も驚いたようで一瞬ギクシャクとしながらも歩き出した。

「桐島には言っておくけど大須と俺は親戚じゃないからな。知り合いの孫で昔から知ってるってだけだから」

「……そうだとしても水樹くんの教育できすぎでしょー」

「朱音にも似たようなことをさっき言われたんだけど」

「じゃあ間違いないってことだねー」

二人が取ってくれていた席は最前だった。体育館の舞台の前。真ん中ではないがかなり見やすい位置だ。

そこに歩いていくまでに大須は萩原を気に入ったようで楽しそうに会話を広げていた。

「俺、初対面の萩原相手にあそこまで話せる自信ないんだが」

「水樹くんは奈々相手以外でもそうでしょー?……でも、確かにクールな奈々は難易度高いかもねー。大須くんにはそんなことないようだけどー」

「やっぱ大須すごいな……」

席の周りにはクラスメイトが何人かいた。この辺りに集まっていたらしい。萩原と手を繋いで現れた大須にみんな驚いている。

大須には好きにさせておこうと思って長いすの端に座ると大須が隣に駆け寄ってきた。

「時兄ぃ。本当に友だちいっぱいなんだね。よかった」

「誰が誰を心配してたんだよ」

へへへ。と笑う大須の頭を撫でる。舞台の上がバタバタとしている。まもなく始まるみたいだ。

隣にいる大須に見えないようにため息をついた。

やっぱり、嫌だなあ。

狭量な自分にさらに嫌になった。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ嬉しいです。



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