第131話 いないところで
久しぶりの更新ですが少し短いです。
「かわいい女の子に囲まれて俺も幸せもんだなー」
「彼女の前でよくそんなこと言えるわね?」
「心配しなくても奈々が一番だからー」
「……ならいいけどっ」
文化祭準備で残っていた俺たちは空腹に導かれるまま近くのファーストフードに来ていた。時人が帰ってしまったので男子は俺一人だ。
俺の冗談に部活終わりで合流した彼女が少し拗ねていた。かまってほしいだけなのがわかっていたので可愛いもんだ。
「知らなかったんだけど、そこ二人もつきあってたの?」
田中ちゃんが目を丸くして驚いている。まあ俺たちはあの二人ほどオープンにいちゃついたりしていないし、わざわざ公言もしていないので知らない人は知らないだろう。
「おー、まあなー。今日も奈々が来ないんなら俺も帰ってたし」
「竜くんって誠実?キャラじゃない」
「いやいやー俺は真面目よー?」
相変わらず驚いた表情の田中ちゃんが俺と奈々をいったりきたりと見ている。
そもそも複数人の男女混合で学校帰りにご飯に行ったとして、その中に自分の彼女がいなかったら不誠実なのだろうか。
それは違うだろう。今日だって文化祭の準備を終えた今日一日お疲れ様の労いを兼ねているはず。ただの集まりだ。
そんなところまで気にしだしたら、束縛なんじゃないか?
……気にしそうなカップルをよく知ってはいるが。
「そだねー。竜くんは真面目だよー?キャラじゃないけどねー」
「嬉しいんだがー、そこは結ちゃんより先に奈々に言ってほしかったなー?」
そう言って奈々を見ると睨まれた。ハンバーガーを口いっぱいに頬張っていて話すことは難しそうだ。一度笑ってポテトに手を伸ばす。
「でも二人ともそんなに恋人っぽさ出てないよね?いつからつき合ってたの?」
「あーまあ大体夏休みくらいってことにしといてー」
奈々に告白されたのがおよそ一ヶ月前、夏休み終わりの祭りの日。付き合い始めたといえばその日だが仮期間なのもあって少しややこしい。
俺の曖昧な返答に少し不思議そうにしていた田中ちゃんだった。うーん?といった顔でハンバーガーを食べていて少し面白い。
今朝、時人と揉めてはいたが田中ちゃんは悪い子じゃない。ちょっと……熱中しすぎるところがあるだけで基本的には面白い子だ。
「柳君は水樹君と仲いいよね」
もそもそとゆっくりポテトを食べていた永田ちゃんが初めて口を開く。
田中ちゃんと仲がいいってこと以外、彼女のことはあまり知らない。独特の空気感を持つ女の子なので少し話しかけづらい。それもあって話したことすら少ないだろう。
「まあなー。友人関係って意味なら俺が一番仲良いと思うぜー」
時人の一番は間違いなくあの子だが、友人って意味なら俺だと思っている。
「付き合いは長い?」
「いやー?高校入ってからだからそこまでだなー」
「……そうなんだ」
そう言うと再びポテトをもそもそと食べるのを再開していた。いまいち釈然としない。何か時人についてあったのだろうか。
旅行の際に奈々と結ちゃんには語ったので俺と時人の出会い自体は二人は知っている。それがあったから俺は入学してすぐ時人に積極的に話しかけた。
高校入学時に既に俺も時人も今のような格好に変わっている。何も知らなければ積極的に関わる二人には見えないだろう。
「今日初めて喋ったけど水樹ってあんな顔してたのね」
田中ちゃんが言うとおり時人の顔を知るのは少ない。今日時人が濡れたことで知ったのだろう。
「……いい体してた」
二人の反応から印象は悪くないようだ。さっさと髪をきればいいものを。何を面倒がっているんだ。アイツは。
「ナガちのそういう反応珍しいねー」
永田さんのことを言うらしい。言っちゃ悪いが似合っていない渾名だ。だがそこがいい。
「ん。案外性格も悪くない。長月さんがべた惚れなのもわかる」
「あー、そう言えば別れ際に朱音ちゃんに何言ってたのー?」
結ちゃんが身を乗り出して聞いている。確かにあれは気になっていた。面白い匂いがする。
「タナちゃんですら少し反応していたカラダなのに、長月さんは動揺してなかった。だから聞いてみた。見慣れてるの?って」
「んっはー。ナガちそれはああなるってー」
折角の場だ。流れに乗って渾名呼びを通させてもらおう。
しかし案外いい性格をしているらしい。彼女の攻めにみんな思わず吹き出す。
長月さんのあの反応を見るにあの二人の関係は大分進んでいるようだ。ぜひ今度弄ってやろう。
電車組の俺と奈々と結ちゃんで駅に向かう。向こう二人は自転車で帰っていった。
「文化祭、もうすぐだねー」
結ちゃんは少し疲れが見えている。色々と苦労しているみたいだ。また今日みたいに息抜きさせてやりたいと思う。
まあ大成功を納めるというのが一番の労いかもしれない。
「楽しみね。結があれほどがんばっているもの。当日はがんばるわ」
部活などで準備を手伝えていない奈々が張り切っていた。
ちらちらとこちらを見ている辺り、何か俺に期待をしているようだ。
……奈々にも時人にも言えていない。だが、既に決まっている。
文化祭、当日、俺は学校に来ることができない。
俺は二人に曖昧に笑って誤魔化しておく。
いつ言おうか。早くに言っておかなかった自分に後悔しかなかった。
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