第122話 友人の結果と
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
っていう挨拶も今年初投稿も遅くなりまして申し訳ないです。
「うっはー。それうまそー」
「やらんが」
「とらないってー」
今日は竜と昼をいっしょにしている。朱音が持たせてくれたお弁当は昨日の炊き込みご飯をおにぎりにして入れてくれていた。二つ入っていた小さなハンバーグはなにもついていないが見ただけで美味しそうだ。竜が狙っていたので弁当箱ごと抱え込む。それを見て竜はカラカラと笑った。
「しっかしこのレベルのご飯毎日作ってもらってるんだろー?すごいな長月さん」
「……朱音に教わりながらたまに作ってるんだけど、その度に朱音のすごさが身に染みる」
「時人って料理できんのー?」
「できない」
「だよなー。っぽいわー」
「……だから教わってるんだよ」
実際はできないから教わっているだけではないが、そこまで竜に言う気にもならない。
竜に誘われて久々にこうして二人だけでご飯を食べている。それを提案したのも竜だった。朱音はそれを聞いて一言わかりましたと言ってから桐島たちと食堂に向かっていった。向こうも向こうで萩原辺りが話したいこともありそうだ。目の前の竜と同じように。
「で、言いたいことあるんじゃなかったのか」
「まあなー。言いたいことというか、報告というかさー」
「前置きはいいって」
ハンバーグを一つ口に入れた。家ならケチャップやデミグラスソースとかがかかっている。でも今日のこれは胡椒が強めに効いていておかずにぴったりだ。優しい味わいの炊き込みご飯がより美味しく思える。
「昨日、プラネタリウム行っただろー?思ったより楽しかった。教えてくれて助かったさんきゅー」
「楽しめたならよかった」
「……それでさー。終わってからご飯行って色々話してさー」
「……?」
「ちゃんとつきあうことになったから」
竜が微笑みながらそう言った。いつもの笑い方でなくどこか落ち着いたその表情は初めて見るもので。
「そっか。竜が色々気持ちに整理ついたってこと?」
最初は好きでもないのにつきあうことに折り合いがついていなくて不誠実と悩んでいた竜。
俺と朱音と桐島にそう吐露して、俺たちもまた竜に話した。ちゃんとしたデートは昨日が初めてだったみたいだが、それでもたまに学校で見かける二人は楽しそうにしていたと思う。
「整理なー。……というかなんだろう。俺も色々悩んでたみたいでなー。好きって何だろう。つきあうってどういうことだろうって」
気づけばお互いに箸が止まっている。食べることが好きなあの竜も今は話すほうに集中しているようだ。
「色々悩んだけどさー。時人を見てるともっと簡単なんじゃないかって思えた。時人はいつだってシンプルに長月さんを見ていた」
「俺が朱音を?」
「時人さ長月さんといるときどんなときよりも優しい目をしてるんだよ」
「……それはそうだろ」
「そう言いきってしまえるのが時人のいいところだなー」
意識したことなんてないが俺が朱音を悪く見るなんてありえない。それに、目は口ほどにモノを言う。なんてあるがこれはよく実感する。朱音は俺をそう見ているのだから。
だから、俺も朱音をそう見ているのは確信できる。
「……俺さ思ったんだよ。俺がそういう風に萩原を見たいんだって。萩原からそう見られたいって。他の誰でもなく萩原だけを。俺に好きだって伝えてくれた萩原だけを」
「それを昨日実感したってことか」
「そうだなー。そんでそのまま伝えた」
そう見たい。見られたい。それは今はまだってことなのだろう。これからそうしていきたいという竜の決意。望み。
俺と朱音の付き合いかただけが正解ということはないだろう。俺と朱音には俺たちだけの。竜と萩原には二人だけの付き合い方があると思う。
それでも竜の気持ちはよくわかった。
俺と朱音が出会ったのは高校入学してからだし、関わりを持つのも入学してすぐではない。朱音と取引をはじめて俺の家に朱音が来るようになって、仲を深めて付き合うようになった。
気づけば俺の家で過ごすようになって今ではほぼほぼ一緒にいる。学校でも家でも。
俺は朱音と家族みたいだと思っている。朱音もそう思ってくれている。だからこそ俺たちの間に流れる空気感は竜が感じたようなものなのだろう。
俺は朱音といると穏やかな気持ちになれる。もちろんドキドキと高鳴るし楽しい気持ちになるがそれ以上に自然にいられる。
竜はきっと俺たちのその空気感に憧れというかそういうものを抱いたのだろう。そういう風に萩原となりたいと。
「だからーうん。つきあうことになって、その報告というかー。時人には言っておきたかった。ありがとう時人のおかげ」
「よくわからないけど、わかった。竜が納得いって萩原にもよかったと思う。俺も嬉しい」
礼を言われるようなことをできていたのかわからないけどストレートなその思いだけはちゃんと受け取っておく。竜の礼にか少し照れてしまったが、当の竜も照れているらしい。
「……とりあえず食べるかー。それくれないのかー?」
「やらん」
もう一つのハンバーグを箸でさした竜を否定する。そうするとまた竜はカラカラと笑った。
「あ、いた。竜、水樹も」
「おーユーリ。おかえりー」
クラスメイトと食堂に行っていたらしい友里が教室に戻ってくるなり俺たちに駆け寄ってきた。探していたというよりは何か言いたげだ。
「何かあったのか?」
「さっきまで食堂にいたんだけどちょっと二人には伝えておこうと思って」
「何を?」
「桐島さんたち、三人でご飯食べてて俺もたまたま近くにいてね。……なんかちょっかいかけられてたから」
「は?」
「いや時人、ユーリ睨んでも」
咄嗟に友里に言ってしまったが友里の雰囲気からもう問題はないことはわかっている。ただ、つい口に出ただけだ。
竜はカラカラといつものように笑っているがどこか目つきは厳しい。友里も竜と萩原の関係を知っているのだろう。だからこそ俺たちに言ってくれたみたいだ。
「俺も近くにいたし何かあれば間に入ろうと思ったけど、特に荒れはしなさそうだったから」
「友里、ちょっかいってどんな?」
「諦めの悪いナンパ?かな。二人組でね、一人がしばらく食い下がってたけどもう一人が何か言って離れていったよ」
二人組か。昨日も見た嫌な笑みが脳裏に浮かぶ。
「なあ竜。もしかして昨日帰り際に見たあの人たちじゃないか?」
「あー。たしかー……。稲垣先輩?だっけかー」
「ああ。名前はわからないけど一人は先輩っぽかったよ?」
情報は少ないが確信はある。萩原と桐島もいることだし何もなかったとは思うが後で確認しておこう。
「あーすまんなーユーリ。わざわざありがとうたすかるー。後で俺もちょっと聞いてみるー」
「一応ね。あの3人のことだから自分から言わないと思うから」
友里は軽く手を振って自席に戻っていった。クラスメイトと何か楽しそうに喋っている。
教室は段々と生徒が戻ってきていた。それに気づいてふと時計を見ると昼休みも半分は過ぎている。慌てて残りのお弁当を全て食べた。
「時人くん、今日バイトでしたよね?」
「そう。でも買い物付き合えるくらいの時間はあるよ」
「今日は……大丈夫です」
朱音が冷蔵庫の中を思い出しながら答えた。廊下を歩きながら俺たちは話し合う。
隣で笑う朱音は今日も可愛い。だけど、俺の頭には昼休みの友里の言葉がぐるぐるとまわっている。
昼休みに戻ってくるのが遅かった3人から詳細を聞くことができず今に至る。授業中も話すことができる雰囲気でなく結局何も聴けていない。
「また時人くんのバイト先遊びに行きたいです」
「いつでもいいよ。マスターも喜ぶし」
「マスターさんにも会いたいです」
バイト中にもマスターと話していると朱音の話題が出ることもある。マスターも朱音のことを気にしているようだ。
「あーでも、やっぱ明るいうちのがいいかな。夜はお酒も出すから雰囲気変わるし」
店が店だけに変な客はそうそういないが、それでもたまに現れる。
その時間帯に俺が接客することがそんなにないが、客として行くことはよくあった。父に連れられて。
「じゃあまた休日のバイトの日ですね」
「タイミングまた知らせるよ」
「待ってます」
朱音がクスクスと笑った。そんな笑顔が可愛くて思わず朱音を撫でてしまう。俺の腕が頭の方に伸びるだけで朱音は嬉しそうにする。そして頭を少し寄せるので俺も更に嬉しくなった。
「あーいたいた。また会ったね朱音ちゃん。それと……昨日ぶりだね」
先に聞いておけばよかった。どうやら俺の予想は当たっていたようだ。目の前には昨日と同じ笑みの稲垣先輩がいた。
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