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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第3章
123/166

第120話 友人の初デート


「時人さー。有志バンドとかでないのかー?」

「ないな」

「えーなんでさー」

「なんとなく」

「なんだそれー」

カラカラと笑う竜。なんとなくと返したけれど理由はある。

文化祭のイベントの中に有志で集まって演奏するバンドや歌のうまさを競うコンテストなど色々あるが、この高校に軽音楽部は無く、有志バンドも毎年一組か二組らしい。そんな中に飛び込んで盛り上げられる気はしない。

見たことがあるわけではないけれど、おそらく演奏レベルもそこまで求められていないだろう。必要なのは盛り上げるためのMC力とオーディエンスに仕込むサクラ。どちらも自分には足りてないしそこまでして前に立ちたいという願望もない。

「ちぇー。時人でるなら最前列行ったのになー」

「竜こそ歌コン?とか出たら?」

「興味はあるがー。自信ないしなー」

他薦ならともかく大体の生徒は自分から出場するだろうそのコンテストはレベル高いだろう。楽器を演奏するバンドと違って歌うことは敷居も高くなくみんな経験あるだろうし。

「で、用はそれだけ?」

「んーにゃ。あのさー時人って長月さんとどういうとこ遊びに行ったりしたー?」

「……萩原となんかあった?」

「……なんもなくてさー。なさすぎて申し訳ないんさー。ってか萩原が部活で忙しくて時間取れてないんよなー」

少し力なく笑う竜に戸惑う。

萩原が課した一ヶ月という期限も半ば近く来ている。竜の言葉と雰囲気からあまり進展は無さそうだ。

竜が萩原に真剣に向き合っていることはわかるが、彼女はバレーに対しても真剣なのだろう。竜がこうして俺に相談するくらいには困っているみたいだ。

「色々行ったけど、俺と朱音ってそもそも俺の家にいることがほとんどだから。毎日がお家デート……みたいな」

言ってて恥ずかしくなってきた。実際にその通りなのだが口にするとあらためて意識する。

「……そういえばそうなんだよなー。じゃあその色々行ったのちろっと教えてよー」

「……最近で言えばプラネタリウム行った。この前の土曜日」

「そんなのこの辺にあったの?どこ?」

スマホを取り出して地図アプリを開く。事前に調べたこともあったのですぐにその場所が出てきた。土曜日に訪問しました。とアプリにも記されている。

そのまま公式のホームページを開くと案外遅くまで営業しているみたいだ。それこそ部活終わりでも間に合うだろう。

それがわかって竜もほっとした顔をしている。

「ああー。ここかー。……萩原、誘ったら来てくれるかなー」

「喜ぶと思う。……竜もそんな心配するんだな」

「そりゃ折角だし喜んでもらいたいじゃんー」

「朱音はテンション高かったな。楽しめたみたいだった」

「……土曜日のお昼行ったの?人多かったー?」

「あの日は……昼前に着いたはず。人はそこそこいてた」

「あー。で、お昼食べてーみたいなー?」

「そう。近くの喫茶店行って、その後、竜もバイトしてるあのモールぶらついて」

嫌な出会いも会ったけど

「楽しかった。かな」

「んっはー。聞いといてなんだが時人からそんな話きくとはなー」

カラカラと笑って肩をバンバンと痛いくらいに叩く。その竜の腕を軽く払いながら思う。

自分からデートに誘おうとしているあたり竜は以前より萩原に好意を持っているのだろうか。

「聞いたから答えたんだろ」

「怒るなってー。たすかった。さんきゅ。今日でも誘ってみるわ」

「当日か」

「無理なら違う日言ってくれるかなってさー」

「まあいいけど。がんばって」

「おー」

その返事を聞いたあたりで予鈴がなる。昼休みも終わって午後の授業が始まるようだ。渡り廊下を後にして教室に戻った。



「うちのクラスは縁日に決定でーす」

ホームルーム。昨日に続いて前に出た桐島が仕切った会議はサクサクと進む。何人か意見を出させて最終的に多数決になった結果、クラスでの取り組みとして教室で縁日を出展することが決まった。

飲食物は取り扱わず、スーパーボールすくいみたいな遊びを提供するようだ。

「お祭り思い出しますね」

「楽しかったな」

隣の朱音がニコニコとしていた。

朱音とはぐれて桐島と色々あって、その間萩原と竜も色々あって、一つの分岐点みたいなタイミングだったあの祭りの日。

それでも朱音と巡った出店は楽しかった。あの時は食べ物を買うことが多くて遊んだといえば金魚すくいくらいか。

まったくすくえなかったけれど楽しかった。

「時人くん金魚すくい全然できなかったですよね」

「いや、朱音もだから」

「水樹くーん、朱音ちゃーん?ちゃんと話きいてねー?」

教壇に立つ桐島から叱咤が飛んでくる。どうやら俺たちが話している間に会議が少し進んでいたらしく今は役割をどう分担するかの話みたいだ。

できれば、楽で、目立たず、朱音と一緒のポジションがいい。そう思って隣の朱音に視線をやると理解したのかそうでないのかにっこりと微笑まれた。

俺の彼女はとても可愛い。



「時人くん、帰りましょう?」

「ああ。ちょっと待って」

ホームルーム一杯の時間まで使って会議は無事に終わった。俺も朱音も事前の準備に当たって当日は時間もありそうだ。

三井の簡単な終礼があって放課後。気づけば帰る準備を終えた朱音が隣から促してきた。机の中のものをさっとリュックに放りこんで立ち上がる。

「あ、時人。ちょっと待ってー」

遠くから竜の声が聞こえた。バタバタとこっちに走ってきた竜が俺と朱音に向けて両手を合わせた。

「ごめん長月さん、この後時人ちょっと借りていい?ご飯までには返すからさー?」

「わかりました。じゃあ時人くん待ってますね?」

「ごめん朱音。ありがとう」

竜の頼み込みに朱音も面食らっていたが、笑いながら答えた。

事前に言っておけ。という念を込めて竜を睨んだが全く届かないようだった。カラカラと笑いながら助かったー。という竜に苦笑いして朱音に一旦別れを告げた。



「萩原からおっけー出たのはいいんだけど部活終わるまで暇でさー」

ご飯食べるわけには行かないしさー。勉強する気も起きないしなー。と色々理由を続けたが結局のところ竜の暇つぶしにつきあわされるようだ。放課後の人が減っていく教室の中、俺と竜が向かい合って座る。

早くも外から部活の声がする。運動部だろうか。

「まあいいけど」

そういうと竜はまたカラカラと笑った。

「放課後教室に時人いてるの違和感しかないわー」

「まあ残ることないしな」

「こうしてだべるのもたまにはいいもんだべー」

交流関係の広い竜だが、あまり俺たち以外と遊んだりはしない。それは竜のこだわりというか色々考えている結果らしいが、それでもこうしてクラスの人と残っているのはたまに見ていた。

「文化祭楽しみだなー。時人準備班だったよなー。ともにがんばるかー」

「当日に他生徒に接客なんてできる気がしない」

「いや、バイトで接客してるんだろー?」

「仕事だから」

「お金は大事だからなー」

またカラカラと笑うと思ったが、案外真面目に受け止められてしまった。

「まあな」

「……そういえば前に聞いたんだけどー。時人のバイト先に長月さん遊びに行ったんだってー?」

「朱音は何を喋ってんだよ……」

「かっこよかったってさー。俺も行きたーい。かふぇー」

「……来てもいいけど。相手はしないから」

「接客はしてくれるんだろー?」

「仕事だから」

「またそれかよー」

今度こそ竜はカラカラと笑った。

真剣な空気なんてそこにはなく、いつもの軽い竜と陽気な時間が過ぎる。なんてことのない話だったがそれゆえに時間が過ぎるのがとても速く感じた。気づけば夕方、萩原が終わるらしい時間が近づいていた。



「この時間でもまだまだ暑いよなー」

校門の前で萩原を待つ。先に帰っていいか聞いたがダメらしい。

萩原が来たときに俺がいるより竜が一人で待っているほうが喜ぶと思うのだが。そう言っても竜はまあまあと譲らなかった。

「秋は遠い」

「だなー」

横を通っていく部活終わりの生徒達を眺めながら俺たちは花壇のレンガに腰をすえる。

「……やっぱ帰っていい?」

「もうちょいじゃーん。もう萩原来るって。ここまできたから最後まで頼むってー」

「少しくらいならスマホなりなんなりで時間つぶせよ」

お腹もすいてきた。はやく朱音が待つ家に帰りたい。

それでもまだまだ竜は譲らない。

「……だから、どんな顔して萩原待てばいいのかわかんないんだってー」

想定外の可愛い理由に思わず噴出す。期限付きとはいえ彼女。竜にとって初めてのそれに若干緊張しているようだ。

「笑うなよなー……」

「普段のからかいの報い」

「くー。時人が厳しいんだがー……」

「おまたせ……って水樹も?」

たったと駆けてきた萩原に驚かれる。そりゃそうだ。デートに誘われたと思えば友人もそこにいたのだから驚くのも当然だ。

「いや、俺は帰るよ。竜につきあわされてな。邪魔なんかしないって」

「そうじゃないけど。ありがとう」

「萩原聞いてよー。時人が毎日お家デートって惚気てくるんさー」

「……羨ましいわね。って竜くん。早く行きましょう?時間が惜しいの」

夏休みは終わったがまだ暑い夏の時期。陽は明るいが時間的に限りはある。初めてのデートらしいし楽しんでほしい。さっさと見送ろう。俺も帰りたい。

「おー萩原ちゃん、そっち彼氏くん?彼氏いたんだー?」

「……お疲れ様です。稲垣先輩」

校舎から歩いてきた男子の二人組は萩原の知る相手らしい。萩原が挨拶した相手の隣には最近よく見る嫌な顔がいた。

明らかにこちらを見ているのはわかったが俺の視線は前髪に阻まれて交差していない。

「萩原ー早く行こうぜー。じゃあ先輩お疲れ様っすー。時人、今日はあざまる。またなー」

萩原を引っ張るように去っていった竜に苦笑いして、俺も帰り道に体を向ける。ポケットからイヤホンを取り出して耳を塞いだ。

二人組みのニヤニヤとした表情がやけに目に焼きついていた。




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