第117話 撮影会
今回少し短いです。
「時人くん、目線ください」
「あー。うん」
朱音のスマホのカメラに視線を移す。それでよかったのかカシャカシャとシャッター音が聞こえた。
「ちょっと待ってくださいね」
スマホを構えたまま朱音が動き出す。違う角度からも撮るようだ。
「どうしたらいい?」
「時人くんはそのままでお願いします」
再びカシャカシャと聞こえた。
朱音にねだられて急遽開かれたのがこの撮影会。先ほどから様々な構図とシチュエーションでカメラを向けられている。
朱音が俺の写真を撮りたいと言い張って俺が受諾するとこだわりをみせはじめた。今はベースを弾いている体での写真らしい。
「後で月子さんにも送っておきますので」
「恥ずかしいから止めて」
一度月子と邂逅してから朱音はたまに連絡をとっているみたいだ。俺が連絡とっていないのもあって俺からなかなか止めさせることができない。個人的に母親と仲良くされるのは恥ずかしさが勝つのだが。
ニコニコと朱音がスマホを操作している。
……もう既に送ったなんてことは無いと思うのだが。さすがに親にこんなキめた写真は見せられない。
「……カッコいいのに」
「それはもう本当にわかったから」
手持ち無沙汰にベースを弾く。適当なコードでウォーキングベースを弾く。気分が乗ってきてそこからすっかり手癖になっているフレーズを手首を回してスラップで奏でる。途中に挟むゴーストノートが肝だ。
目の前の朱音がチョコチョコとあちこちに動いてその度にシャッターの音が鳴る。
……気にしないでおこうと思った。
「見てください。これよくないですか?」
「あー。うん。そうだな」
「時人くん適当じゃないですか」
「……いや、これは反応しづらいって」
満足した朱音が一枚一枚感想を挟みながら見せてくる写真。アー写とかで見たことのある雰囲気の写真がそこにあった。自分のそんなものを見てもなんて返せばいいのかわからない。
「これでまた時人くんフォルダが潤いました」
「なにそのフォルダ。そんなに撮ってた?」
「見ますか!?月子さんにも協力してもらって枚数も増えてきてるんです」
「は?」
朱音がスマホを操作してフォルダを見せる。ざっとスクロールして朱音が写真を見せる。俺のフォルダとも言ったが旅行中だったりみんなで撮った写真だったり、朱音とのツーショットだったりと、俺一人の写真じゃない方が多いみたいだ。
だが問題は、母親が送ったであろう俺の高校生以前の写真がちらほらと混ざっていること。困りはしないが恥じもある。幼少期はともかく中学時代の私服姿ははっきり言って見てほしくない。
月子もその辺りは気を遣ってくれたのか見たところ無さそうだ。
スクロールが止まった今日の日付のところには、さっきまで撮っていた俺の写真が並んでいる。そして、昼に食べたオムライスとそれの前でピースしている俺たち。そして昨日の日付になると昨日のデート中の写真が流れ始める。モールでのショッピング中で朱音とおそろいのサングラスを試着している写真、服を選ぶ朱音を待っている俺の写真、喫茶店で向かいの席でコーヒーを飲む俺の写真。プラネタリウムで隣に座った俺たちの自撮り写真。
そしてその前に撮られた記憶に無い写真があった。もちろん記憶にないはずだ。その写真の俺は満足そうに眠っていたから。
「あ、これは、違うんです」
俺がそれに気づいたことで朱音が慌ててスマホを隠す。
「別にいいよ。寝顔くらい」
正直、気持ち的にはカメラ意識させられていたさっきの写真の方が恥ずかしい。
「……ごめんなさい。つい」
「謝らなくてもいいって。次は俺が朱音を撮るから」
「ね、寝ているときはダメです」
「朱音は撮ったのに?」
「……誰にも見せないなら。……いや、やっぱりだめです」
朱音の反応が可愛らしく思わず笑ってしまう。
「見せるわけないだろ。俺のだし」
というか明らかに女性用の寝具でない場所で寝ている写真なんて見せようものなら何を言われるか。
「う」
呻いて固まった朱音を見て一つ思いつく。自分のスマホをさっと操作してカメラを起動。そのまま赤い顔の朱音を撮る。
「え、あ、待ってください」
撮られてから朱音からストップがかかったが手遅れだった。俺のスマホには照れた朱音が可愛く写っている。
「もう撮っちゃったから。ごめんな」
横から朱音がぽかぽかと軽い力で肩を叩く。朱音なりの抵抗だったようだ。
「……じゃあ私だって撮ります」
またも朱音が写真を撮るようだった。さっきとちがって今度は朱音とのツーショットだった。
夏休みが開けてから朱音の俺に対する接し方が少し変わった気がする。今までも近かった距離感が更に近く感じた。
依存している。とかではない。のだろうか。
わからない。ただ、朱音が幸せならそれでいいか。
昨日からの一連のできごともそうだ。
隣の朱音の頭を撫でる。くすぐったそうにしながらも朱音は頭を寄せてきた。
「時人くん、明日からまた学校ですね」
「そうだな」
楽しみですね。と朱音は笑った。
授業は退屈だし、外は暑いし、おそらくまだまだ多数の視線にも晒されるだろう。
それでも朱音となら楽しめるのだろう。隣で笑う朱音の髪をもう一度撫でて俺も笑った。
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たまにはこんな話もいいかなって。