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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第3章
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第114話 デートと乱高下


「おはようございます」

「……はよう」

待ち望んだ週末。目覚めると朱音と目が合った。先に起きていたようだ。

目の前で微笑んでいる朱音が可愛くて思わず引き寄せる。朱音は抵抗せずむしろ任せるように胸に寄り添った。

「温かいですね。時人くん」

「ごめん、寒かった?」

今日は掛け布団を俺がほとんど使っていたのだろうか。エアコンはタイマーで消えているが密度の高いこの部屋はそうそう温度が上がることはない。

「大丈夫です。時人くんに包まっていたので」

「……もしかして、また起こした?」

またも寝ながら抱きしめていたらしい。今回は身に覚えもない。俺の問いに朱音がクスクスと笑った。

「いいえ、でも、私が起きたときにそうだったので」

「なんか、いつもごめん」

「……?なぜ謝るんですか?むしろありがとうございます」

「……こちらこそありがとう」

俺の礼にまたもくすくすと笑って額を胸に擦り当てた。今日は良い休日になりそうだ。



「……ふう」

温かいお茶を飲んで一息つく。カーテンから差し込む光は今日も良い天気だと示している。外はまだまだ蝉も鳴いていて夏はまだ去っていない。

朝ごはんを終えてリビングにゆっくりとした時間が流れていた。テレビから流れている情報番組はお笑い芸人がロケとして商店街を周っていた。

「朱音、今日予定ある?」

「いえ、なにも……。なにかありましたか?」

「じゃあどこか遊びに行こう?」

「え、行きたいです!」

テレビで流れている散歩に触発されて外出欲がでた。

……そういえば、前に調べて行ってみたい場所があった。

「あのさ、朱音、ここなんだけど」

スマホの画面を見せる。朱音が覗き込んで嬉しそうに笑った。



「こんなところに、こんな施設があったんですね」

「最近知ったんだ」

朱音を連れて訪れたのは数駅跨いだ場所。チケットを買って中に入ると、既に薄暗く指定した席までゆっくり歩く。深く沈んだソファは大きくリクライニングが傾いていた。

「プラネタリウム初めて来ました」

「俺も初めてで行ってみたかったから、朱音が一緒に来てくれてよかった」

まもなく始まるらしい。客の入りは多く繁盛しているみたいだ。

隣のソファに座る朱音はわくわくが漏れでてるようでソファの手すりを触っていたりソワソワしている。

「こちらこそです。楽しみですね」

朱音がそういい終わるタイミングで場内アナウンスが流れた。案内灯も消えていよいよ開演するようだ。だんだん暗くなる室内で朱音が不意に手を握った。こちらを見てにこりと笑ってから案内の赴くままに顔を上げた朱音を見て俺も顔を上げる。始まる天体のショーに耳を傾けた。



「あっという間でしたね」

施設を出て近くの喫茶店で向かい合う。出てから朱音はテンションが高くずっと話し続けている。

「すごかったです。ぐるぐる回る星と星座のストーリー。いままで知らなかった話ばっかりで」

「面白かったな」

「はい。季節が変わればまた話も変わるみたいですよ。また行きたいです」

「行こう」

「時人くんと行く場所どんどん増えていきますね」

「あー、イルカショーも行かないとな」

「覚えててくれてましたか。嬉しいです。行きましょうね」

「もちろん」

ニコニコと笑って朱音が話し続ける。それを見ているだけで俺も嬉しくなった。

今日、出かけてよかったと思えた。本当に。

「時人くん、この後は?」

「特に決めてない。プラネタリウムに行ってみたくてそれだけだったから」

「じゃあ買い物に付き合ってもらえませんか?」

「いいよ」

晩ご飯の食材だろうか。わざわざ断りをいれることもないとも思うが朱音らしい。

「じゃあ行きましょう!」

朱音が勢いよく立ち上がった。その勢いに苦笑いしながら後れて立ち上がる。伝票を持って出口に向かった。



「時人くん、どうですか?似合いますか?」

「うん。可愛い。そっちより俺は好き」

「本当ですか?じゃあこっちにします」

大きい駅のモール。その中のセレクトショップで朱音が服を自分にあてて意見を求めた。

朱音に連れられていくつかの店を巡っている。すでに結構見て歩いたがようやく買うものが決まったらしい。

最終、二つまで絞っていた朱音が買うことにしたのは涼しげなカシュクールのワンピース。

試着室のカーテンを開けて見せてくれたその姿がはよく似合っていた。青地に白のストライプが入っていて夏らしさがある。Vネックの胸元は朱音の鎖骨が少し見えていて色っぽい。

そして、今日も着けてくれているネックレスがよく似合っていた。

試着室のカーテンを閉めて朱音が着替えているらしい。ごそごそと衣擦れの音が聞こえて少し居たたまれない。

元の服で出てきた朱音は嬉しそうに服を抱えてレジに向かっていった。

「お待たせしました」

「待ってないよ。気に入ったものが買えてよかった」

服くらい買ってあげたかったが、さすがに朱音も譲らなかった。

「時人くんの好きな服が買えたのでよかったです。楽しみにしていてくださいね」

朱音はどうやら服を選んでほしかったらしい。その意図をようやく理解して嬉しくなる。朱音が俺の好みを知りたかったようだ。

「あー。楽しみにしてる」

照れ隠しに片手で頭をかきながら答えると朱音はくすくすと笑った。

「今日はまだ暑いですけど、秋になったらさすがにこの服だけでは寒くなりそうなので、近いうちにまたデートしましょうね」

朱音なりのおねだりらしい。服が入った紙袋を朱音から取って朱音の空いた手に俺の左手を差し出す。

服を見だして朱音は手を離しがちになっていたのでここでしっかり繋ぎとめておく。朱音もしっかりと手に力を入れてくる。それだけで俺たちの気持ちは繋がっていると思えた。



時間的には夕方になっているがまだまだ明るい。朱音と並んで歩いて帰るまでの道。モールの中は週末の賑わいを見せている。比較的若い年齢層の男女があちこちにいた。

「時人くん、晩ご飯は何か食べたいものがありますか?」

「あー。焼き魚?」

「じゃあ鮭がありますから焼きますね。あとは……」

朱音が冷蔵庫の中身を思い出しつつ付けあわせを考えていた。そんな朱音を誘導するように手を引いて歩く。

「あー!長月さん?だよね!?」

大きい声で周りから視線を集めながら声をかけてきたのは同い年くらいの男だった。

「え、な、なんですか?」

「朱音、知り合い?」

「いえ、知らないです」

勢いに圧されて朱音がひいていた。半歩ほど朱音の前に出ておく。

前にも声をかけられたときもあったがあの時は違うクラスとはいえ朱音の知っている人物だった。今回はどうやらそうでもないらしい。が、名前を知っているのが気になる。

「冷たいなー。一度話したじゃん?」

「知らないです」

「……帰るよ。朱音」

ヘラヘラと笑って少し詰め寄った彼を無視して歩き出そうとする。朱音も心底面倒そうな顔をしていた。彼曰く一度話したらしいので同じ学校の生徒だろう。

「ふーん。ねえねえ、なんでこんなのとつきあってるの?」

「なんですか。やめてください」

その言葉を皮切りに朱音も颯爽と歩き始めた。もう相手をする気はないようだ。

「そっか。じゃあまた学校でねー」

それでも折れない彼が別れを告げた。朱音は無言で歩き続けた。

……こんなの。か……。

さっきまでは楽しかったはずなのに、朱音のテンションが下がったのはよくわかった。俺も少し萎えている。

モールを出るくらいまで朱音の歩く速度はいつもより速かった。何かを振り切るようだった。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ幸いです。



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