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なんでやねんと歌姫は笑った。  作者: 烏有
第2章
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第102話 依存と思いとソレと


いつの間にかPVが2万を超えていました。いつもありがとうございます。





暑さでうだる体のままソファに身を沈める。背もたれにくっつく背中が熱をもって暑いがそれ以上に体を休めたい。

ふわりと髪から香るのはいつもと違う香り。今日から新しいシャンプーに変えた。前まで使っていたのはドラッグストアで適当に選んだもの。なんとなく髪にあっていない気がしていた。

乾かした髪はするりと指が抜けるほどサラサラだ。前髪もぺたりと下りていて目はほとんど隠れてしまっている。

指で前髪を分けてテレビに視線を移した。よく知らない芸人がクイズで対決している。

クイズ番組は苦手だった。質問を見ると答えが気になってしまう。耳に入ってくるのも気になるのでリモコンを操作してチャンネルを変えた。適当にザッピングしても目を引くような番組は無い。仕方が無いので興味は無いがバラエティ番組でリモコンの操作をやめた。

背もたれに深く体を投げ出す。スマホを持ち上げて首を上に向ける。腕はだるいが首が楽な姿勢でそのままスマホを操作した。SNSを開いて色んな呟きが流れるそれを眺める。

自分自身で発することはないが、好きなバンドや音楽情報を知るためにアカウントを持っていた。竜ですらこのアカウントは知らない。

最近朱音といることが多く、一人になるタイミングと時間が少なく新しく曲を聴いたりすることは少なかった。だが、新譜の発表みたいなめぼしい情報は無さそうだ。

SNSを閉じてサブスクで契約している音楽ストリーミングアプリを開いた。トレンドのランキングは知らない曲で埋まっている。最近は流行り廃りが激しいようだ。

ランキング上位は同じアーティストのようだ。適当に一曲流してみる。そのまま止めずにスマホを横に置いた。

英詩で理解できない歌詞だったがポップでキャッチーなメロディだった。だが集中して聴けていない。ただその曲が右から左に流れていった。

『……そういうときにトキメキますよね』

テレビから自分の恋愛経験を明け透けに話す女性芸人の声が聞こえた。女性目線の恋愛感を話していたようでスマホの音量を下げる。

『でも私、依存体質なんですよー』

『それは怖いですね』

MCの女性と話している女性芸人はその依存体質について語っていた。彼氏がいないとダメになるらしい。

それの何が怖いのだろうか。

俺だって朱音がいないとダメになると思う。いまの生活も思いも朱音ありきだ。朱音第一とまで言える。

恋人に全てを捧げてしまう。その女性芸人はそう言っていた。時間もお金も体も全てを。と。

その結果、自分自身を傷つけて、想いもチグハグとなって別れるのだと。

付き合う前からコレまでの付き合いについて振り返ってみる。たとえば初めてのデートらしいデートはあの夏休みすぐの朱音の誕生日の日。

それなりの金額を消費したしそのために時間も要した。それをすることに躊躇いもなかったが、これも依存体質なのだろうか。

テレビの中は笑いが耐えない現場になっている。その雰囲気で話していた女性芸人も今はフリーらしい。

車のCMが流れる。時間的にもこの番組はそろそろ終わりのようだ。

ため息をついた。胸中を整理できない。シャワーを浴びる前までのと違う緊張だ。

朱音がいればいい。朱音さえいれば。そう思うのはヨクナイことなのだろうか。

朱音自身もそう感じていると思う。俺さえいればいいと。

俺への対応というか接し方でそう感じる。

俺たちはお互いに依存しているのだろうか。共依存。そう言っていた。そのうちボロボロになってしまうと。

朱音と別れたくはない。そんな気は全くない。でも未来はわからない。お互いに疲れてボロボロになることだってありえるのか。

カチャリと玄関の扉が開く音がした。リビングのドアを開けて入ってきたのは朱音。パーカを羽織ってはいるが涼しげな色のショートパンツから伸びる生足は白くまぶしい。

「戻りました」

「うん。おかえり」

大き目のパーカーのフードまで被っている朱音の顔は未だ赤い。それはお風呂上りが理由だけではなさそうだ。

「何か飲む?その様子だとお風呂上りすぐに来たんだろ?」

「私が準備しますよ。時人くんの分も」

クスクスと笑った朱音が楽しそうにキッチンに駆け込んだ。冷蔵庫を開けて麦茶を取り出した。残り少なくなっていたそれを朱音がグラスに注ぐ。鍋に水を注いで火にかけてからテーブルにグラスを並べて置いた。どうやら今から麦茶を作るようだ。

「ありがとう」

「いえいえ」

キッチンに戻った朱音がピッチャーを洗っていた。どこから取り出したのか長い柄のついたスポンジをクルクルとまわして中まで丁寧に。

鼻歌交じりでスポンジを操る朱音はご機嫌だ。

「朱音。楽しい?」

「ええ。楽しいです」

問いかけにクスクスと笑いながら返す朱音はやはりご機嫌だ。

「時人くんがいますから」

朱音はまぶしい笑顔でそう言いきった。



沸騰したお湯と麦茶のティーバッグをピッチャーに詰めてキッチンに一晩放置する。熱いまま冷蔵庫に突っ込むわけにもいかない。明日の朝には冷めていることだろう。

「おまたせしました」

キッチンから出てきて隣に座る朱音がそう言った。

「ありがとう朱音」

「いえいえ。私自身楽しんでやってますから」

ニコニコ笑う朱音を見てさっきの番組の内容が頭をよぎる。

朱音のしてくれている家事も楽しんでやっていると本人は語るが、時間も手間も俺に捧げているともとれる。

依存。なのだろうか。これも。

もともと友だちの少なく人との交友関係に自信もない俺には断言することは出来ない。

だが、さっきの女性芸人の話している内容と一致していると思う。

「どうかしましたか?」

ただ見つめていた俺に朱音も不思議に思ったらしい。

「いや、何もない」

「そうですか」

気にしないことにしたらしい朱音がグラスの麦茶を傾ける。隣でこくこくと喉を鳴らしながら飲んでいて少し上気している頬も相まってどこか艶っぽい。

「あれ、時人くん……シャンプー変えましたか?」

グラスをテーブルに置いた朱音が鼻をくんくんとさせながら首を傾けた。鼻先をこちらに向ける朱音が続けて鼻を動かしている。

「あーうん。変えた」

「好きな香りです」

「今日初めてだったけど俺も気に入ってる」

顔を近づけた朱音の髪からも朱音が使っているシャンプーの香りがする。ふわりと漂うそれにどこか惹かれてしまう。

「朱音もいい匂いがする」

「それはよかったです」

朱音は嬉しそうに頭を肩に当ててくる。ぐりぐりとこすり続ける朱音が少しくすぐったい。

まるで猫のマーキングのようだ。なんて思っても口からはでないけれど。

テレビは情報番組でキャスターが今日のニュースを語っている。差し当たり興味のない芸能人の熱愛報道に内容は耳に入ってこない。

「朝からこの人のニュースばかりですね」

気づいていなかったが朱音が言うならそうらしい。ドラマなど見ない俺でも知っているほどの有名な俳優なので世間が騒ぐのも判る気がする。それでも興味はわかないが。

なんとも言えない微妙な表情で報道を眺める朱音を横目で見る。何を思っているのだろう。女性らしく恋愛情報に興味を持っているのか。

「朱音はこの俳優好きなの?」

「いえ、そんなことは……」

「そういえば朱音の好きな俳優とか知らない」

「んー。そんなに知らないんです。なので特にこの人が好きとかは無いですね」

アイドルとかもよく知らないですし。そう朱音は少し自嘲気味に笑った。

「俺もそんなに知らないから一緒」

「おそろいですね」

相変わらずおそろいが嬉しいらしい。笑顔の種類が変わったのがわかる。腕を肩から回して朱音の髪に触れる。サラサラと指が滑って心地よい。

「ふふ。時人くん」

「どうした?」

「もっと撫でてください」

「もちろん」

朱音の要望どおりそのまま撫で続ける。目を細めて嬉しそうにする朱音に俺も嬉しくなる。

体ごと俺に寄せる朱音を見てまたも脳裏によぎるのは依存の文字。

それでもいいと思えた。朱音に依存して、依存されて。それで未来に潰れてしまうのならそれでもいいと。

隣で笑う朱音を見てそう思った。

俺にとってのこれが。朱音に依存するこの行動が、想いが間違いなわけがない。

髪に触れながら朱音を想う。朱音が好きだ。朱音に触れたいと思う。朱音に……捧げたいと思う。

「朱音。好きだよ」

「?私もです」

突然の告白に驚きながらも朱音は受け入れて喜んでいる。

目を合わせて笑いあう。朱音は見るからに幸せそうだ。

朱音に幸せをあげられるならこれでいい。お互いに依存している関係でもいいんだ。朱音の笑顔を見てそう思った。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きが気になる方はブックマークなどしていただければ嬉しいです。


10月は更新頻度がおちて申し訳ないです。11月には戻ると思いますのでまた応援していただければ幸いです。



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