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恋愛体験部-Love Experience Club-  作者: アイル
第1話 部員勧誘
9/13

5

 何だ、その問いは。

 出題者の意図がよくわからず、一瞬思考がフリーズしたが落ち着いて考えてみる。真っ先に思い浮かんだのは、百瀬さんだ。経緯はどうあれ、LECに入ったのは百瀬さんへの好意があった訳で、そう考えるとはいと答えるのが正解なのかもしれない。

 だが、今はどうだろうか。LECには様々な変人がいて、百瀬さんはその変人(しかも女性)に恋心を抱いている。LECに入ってから一週間、たまに連絡をすることもあるが返ってくるのはそっけない返事ばかりで、仲が進展するとは思えない。

 断じて言うが、俺に魅力がないのではない。百瀬さんの攻略難易度が高すぎるのだ。ならば、この恋は諦めて次の相手を探す方がよっぽど得策だ。北空大学には何千人もの学生がいる。ここにいる間に他の気になる相手を見つけることも可能だろう。

 ……よし、決めた。答えはノーだ。ここで明確に意思表示をすることで、俺は百瀬さんへの未練を捨てて、次の道を歩んでいく。


「気になる相手は、い……」


「やっぱり、女目当てで入ってるじゃないですか!」


 俺が言い切る前に、稲葉さんは大声で言った。……いや、俺いないって言おうとしていたんだけど。

 というか、あまり大声で言わないでもらいたい。周りでひそひそと話しながら俺の方を見ている人が結構いるんですが。


「いや、稲葉さん……」「私もそのサークル入ります」


 稲葉さんは言うと、怒ったように口をぎゅっと結ぶ。

 ……何で?よくわからないが、LECに入るのはおすすめしないので、口を出そうとして一旦やめる。そして、思いつく、ちょうど良いのではないかと。

 狙った訳ではないが、稲葉さんはLECに入ると言ってくれている。一人でも勧誘すれば、部長は満足してくれるだろう。そうすれば、あの写真が世に出ることもない。

 稲葉さんがかわいそうな気もしないでもないが、勝手に勘違いしてくれているし、自業自得な部分もあるだろう。決して、いわれのない俺の悪評を叫ばれて腹が立ったからなどではない。


「すごく嬉しいよ。じゃあ、一緒に部室行こうか」


「ちょっと待て」


 部室に向かおうとするところをまたも呼び止められてしまう。見ると、芥切は神妙そうにこちらを見ている。さっきの稲葉さんと同じような表情。稲葉さんと同じでとんでもないことを言い出すのではないかと心配していたが、芥切は違うベクトルにとんだ言葉を投げかけてきた。


「そのサークルの部室は、A棟の三階にあるか?」


 ドキッと胸の音が一度聞こえた。どうして、部室の位置を芥切が知っているのか。……俺がLECに入っていることを知っているのか。そもそも質問の意図は何なのか。不明なことは多いが、俺は「ある」とだけ返す。

 すると、芥切はブツブツと独り言を呟き始めた。わずかに聞こえたのは、「あそこにはまだ盗聴器も隠しカメラもなかったはず……」という言葉で、聞きたくないことを聞いてしまったと俺は顔をしかめた。

 少し経ち、芥切は顔を上げると


「俺もそのサークル入るわ」と言ってきた。


「えっ、なんで!?……というか、いいのか?」


「ちょっと変な匂いはするが、友達と一緒のサークルなら入りやすいしな。

 ……それに、いざとなった時に隠れられるし」


 最後にボソッと呟かれた言葉は無視するとして、芥切はLECがどんな感じのサークルなのか、さっきの俺と稲葉さんとの会話である程度感じ取った上で、入りたいと言ってくれているようだ。

 ならば、止める理由もない。


「後で文句言うなよ」


 俺たち三人は真っすぐ部室へ向かった。ドアをノックして中に入ると、部長に「遅いよー」と言われてしまった。確かに、試験終了後に話し込んでいたせいで先週よりも十分ほど遅くに来てしまった。


「すいません。でもそのかわり、入部希望者を二人連れてきましたよ」


 俺は笑顔で言うと、二人を紹介する。若干緊張した様子で言う稲葉さんと、淡々と事も無げに言う芥切はとても対照的だった。 

 二人の自己紹介が終わると、部長は満足そうにうなずいた。


「良さげな人たちが入ってくれて嬉しいよ。じゃあ次に、未咲も紹介してもらっていい?」


 百瀬さんの方を見ると、横に見知らぬ女性が立っていた。腰まで伸びた黒の長髪、肌は白く、しゅっとした輪郭で長身、”きれいなお姉さん”というのが第一印象だ。


「未咲ちゃんと同じ教育学部一年、柳凛太郎やなぎりんたろうです。よろしくお願いいたします」


 発せられれる声は高音だったが、少し作られた感じに聞こえた。男が出す裏声のような……いや、待て、まさか……だが、女性で凛太郎という名前はあるのか?

 聞きたい。でも、聞いても良いのだろうか。こういうのは、デリケートな所のはずだ。初対面の人が聞くにはハードルが高い。そう思いながら悶々としていると、横で稲葉さんがおずおずと手を挙げた。


「女性……ですよね?」


 皆が聞きたかったことだろう。ごくりと生唾を飲み込んで、凛太郎さんの次の言葉を待つ。

 凛太郎さんは、顔の下で可愛くダブルピースをすると、


「オカマです!」


 と笑顔で言った。

 ……滅茶苦茶きれいで、良い人そうなのになあ。どうして、LECに入る人は一癖持った人ばかりなのだろうか。

 俺は頭が痛くなるのを感じながら、”恋に落ちる前に知れてよかった”と先週百瀬さんに抱いた感情と同じことを思っていた。

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