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恋愛体験部-Love Experience Club-  作者: アイル
第1話 部員勧誘
8/13

4

 講義が終わり学習スペースに向かうと、芥切は既にいて俺たちを待っていた。

 ……スーツにポニーテールというスタイルで。

 先ほどまでのボサボサヘアーにジャージの時とは印象がまるっきり違う、仕事のできる営業マンのようなきちっとした風貌に皆驚いていた。


「おい、どうしたんだよ」


「どうしたって……聞くか?」


 少し眼を細くして言う芥切に、俺は追及するのを止めた。何だか戻れなくなってしまいそうな気がしたし、近くに置いていった携帯が光り、”私にも、勉強教えて”という文字が見えてから余計にその気は失せた。……きっと家に帰った時に伝えたのだろう。これから皆で勉強会をするんだ!そうなんだ、楽しんできてね!みたいなやり取りがあったはずだ。……そうでないパターンは想像したくないので止めておく。その後、芥切は身体のあつこちを触り始め、豆粒ぐらいの小さな機械を潰していたが、俺は見なかったことにした。


 一週間が経ち、俺は数学の再試験を受けていた。

 あの日から度々、俺たちは勉強会を開いていた。大体の人が最初の一日で試験対策を終えたので、人数は段々減っていったが、お喋り会のような感じで俺たちは集まっていた。稲葉さんは最後の最後まで芥切に教えてもらっていたし、陽キャさんグループも稲葉さんのためなのか毎回来ていた。かくいう俺は、別に来る必要もなかったのだが、行かないと催促の連絡が来てしまうし、クラスメイトと話している時間は悪くなかったので、なんだかんだ毎回行っていた。


「はい、プリント前に回してください」


 チャイムが鳴り、先生がプリントを回収していく。俺は前に回ってきたプリントをすっと先生に渡す。

 先週とは違い、今回の試験はかなり余裕があった。内容も先週とあまり変化がなく、数字が違うぐらいで解き方はほぼ一緒だった。試験時間の半分ほどを残して、試験を解ききってしまったので逆に時間が余って退屈なぐらいだった。

 横では、芥切が欠伸をしながら眠たそうに目元を擦っていて、稲葉さんも自信ありげにペンをしまっていた。皆合格してそうで何よりだ。

 俺は、昼飯を食べるため食堂に向かおうと席を立つ。そこで、携帯が鳴ったので電源を入れると、一通のメッセージが来ていた。

 ”昼休みは部室集合……忘れてないよね?”


「やっべ」


 思わず声が漏れ出てしまった。

 先週部長に言われていた部員勧誘。その期限が今日までとなっていたことを俺はすっかり忘れていた。いや、しかし、覚えていたからといって結局俺に出来ることは何もなかっただろう。先週の最初の勉強会の時、サークルの話題が上がった際、俺はLECの話をしようかと思っていた。だが、寸手のところで俺は取り止めた。だって、どう説明すればいい?「一癖も二癖もあるモテない連中が集まって恋愛体験をするサークル」と言って、「えー、めっちゃ面白そう!入りたーい!」と言ってくれる人がいるだろうか。ドン引きされて話しかけられなくなるのがオチだ。

 ……仕方ない。部長には正直に勧誘出来なかったことを謝ろう。部長も鬼ではないはず、情に訴えれば耀さんとのSM写真をばら撒く真似はしないでくれるだろう。

 部室に向かおうと、バッグを背負ったところで芥切に呼び止められる。


「おい、飯食いに行くんだろ?一緒に行こうぜ」


「悪いな。これから部室行かなきゃいけないんだ」


「道貞くん、なんてサークルに入ってるんですか?」


 くいくいと袖を引っ張ってくる稲葉さん。俺はこの場を切り抜けるために、てきとうに言葉を並べる。


「うーん、名前なんだっけなあ。俺もまだ入ったばかりでよくわかってないんだよねえ」


「そうなんですか?じゃあ、どんな活動をするサークルなんですか?」


「男女で仲良くなろう!……みたいな?」


 自分でも何言っているのかよくわからなくなっているが、しょうがない。俺は嘘をつくのは苦手なタイプ

だし、本当のことを言うわけにもいかない。

 稲葉さんを見ると、ハッとしたように猫目を開き、大げさに手を口元にあてて言う。


「もしかして、ヤリサー?」


「ちがーーーう!」


 俺は声を大にして否定した。まだクラスメイトも残っている中で、ネガティブな評判につながるようなことは避けたい。実際、LECがそういうサークルであるかどうかは(部長は否定していたが)まだ不明なところはある。が今はそんなことより俺の保身が大事だ。

 稲葉さんには健全なサークルである旨弁解を図った。稲葉さんは考え事でもしているのか、あまり話を聞いているそぶりはなかったが、最終的にはわかりましたと言ってくれた。


「最後に一つ、聞いてもいいですか?」


 安心して、今度こそ部室に向かおうとしたところで稲葉さんに問いかけられる。

 俺が振り向くと、稲葉さんは神妙な顔で口を開いた。


「そのサークルには、道貞くんの気になる相手はいますか?」

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