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恋愛体験部-Love Experience Club-  作者: アイル
プロローグ
4/13

4

 俺は無言の早歩きで、ドアの方へ向かう。が、途中で部長に腕を掴まれてしまう。俺は後ろを振り向かずに大声で叫ぶ。


「今までありがとうございました!またどこかでお会いいしましょう!」


「どうして逃げようとするの?LEC入ってよ」


「どうしてですって……?」


 そこで、俺は振り向き部長の顔を見る。部長は一瞬仰け反った後、じっと見つめ返す。


「変な人しかいないからですよ!美人だけど金にしか興味ない人に、美人だけどファッションセンス皆無の人に暴力メガネ。三者三様で頭おかしいじゃないですか!」


「いや、暴力はお前が悪いだろ」


 ぼそりと呟く耀さんの言葉は聞こえないふりをする。

 最初、恋愛の練習が出来るサークルと聞いたとき、入るのもアリかもと思った自分がいたが、それを越えるレベルで部員の個性が強すぎた。下手に関わると、貴重な大学生活を棒に振るかもしれないと警告音が脳内に鳴り響いている。やはり、変なサークルには変な人が集まってしまうということか。

 ……もし、俺の将来の彼女になるような人がいれば、我慢して入るという選択を取るかもしれないが、LECにはそんな人はいないだろう。

 部長の腕を振りほどいて逃げ出そうとすると、コンコンというノックとともにドアが開き、人が入ってくる。

 ……ん?あの人は……


「し、失礼します。あの、ビラを見て来ました。入部希望なのですが……」


「歓迎するよ。どうぞ、座って」


 耀さんは、本を閉じると営業スマイルを浮かべて、手早くテーブルとイスを元の位置に戻すと、入部希望の女性を案内する。その女性は、心なしか頬が好調しているように見える。

 ……ちょっと待て。

 肩ほどまで伸びた綺麗な黒髪。リスのようにくりっとした二重瞼。全てが俺にドストライクな女性。


「……あれ?おーい、道貞~」


 部長は立ち止まって動かない俺の前で手を振ったり、頭を叩いたりしてくる。が、今は部長に構っている暇はない。

 やはり、運命だったのだ。入学式の後、彼女のビラを拾った時から俺たちは見えない糸で繋がっていたのだ。

 神様には感謝しかない。


「それで、これが一応LECの規約になる。一読してもらって、問題なければ入部届に名前を書いてくれ」


「……はい、読みました。何も問題ありません」


 透き通った美しい声で返事をすると、彼女はバッグからペンを取り出し入部届にサインをしていく。邪魔になる横髪を耳にかける姿がなんとも美しい。


「……部長、俺、LECに入ります」


「……え?なんで?」


 部長は頭にはてなマークを浮かべて、首をひねる。俺としては、一刻も早く入部届にサインをして美しき彼女と交友を深めたい訳で、苛立ち交じりで部長をせかす。


「なんででもいいでしょうが!ほら、早く入部届出してください!」


 俺は部長の肩を押して、テーブルの方に誘導する。なんなのよぉ、と不満を言いながらも部長は慣れた様子で入部届とLECの活動規約を俺の前に出す。先ほどの耀さんと同様の説明を始める部長は無視して、手早く入部届にサインをしていく。部長は露骨に不満そうにしていたが、俺のあまりの変わり身に何かおかしいと思ったのか、俺がサインを終える前に一つの結論に達していた。


「もしかして、今来てる子がさっきビラを拾ってあげた子だったり……?」


「します」


「あらまぁ!」


 顔は入部届に向けたまま口だけ動かして伝えると、部長は大げさ気味に反応を示した。うざいことこの上ないが、俺が彼女をガールフレンドにするためにこのサークルに入るのは事実だし、多少なりからかわれるのは仕方がないだろう。

 今、俺の鼓動は高まる一方だ。これからは華のキャンパスライフが俺を待っている。さっきまでは嫉妬の炎で炎上しそうだったが、それも今となってはなんてことはない。これからの日々の中で、俺の方があの暴力メガネより優れた人間であることを彼女に証明していけば良い。大丈夫、時間はたっぷりあるのだから。

 書き終わり、顔を上げる。一席分空いたところでは、耀さんが彼女と仲睦まじげに会話をしていた。やはり、彼女の頬は紅潮しているように見える。

 絶対に許さない。

 俺は、入部届を乱暴に部長に押し付けると、二人の邪魔をしようと足を運ばせ……ようとしたが、どうしてか足が動かない。見ると、部長が俺の手を掴んで離してくれなかった。


「ねえ、道貞……規約はちゃんと読んだ?」


「読んでないですよ!どうせ、大したこと書いてないから別にいいじゃないですか!そんなことより、俺は今耀さんをぶちのめすという大事な使命があるんですよ!」


「ここ見て」


 部長は規約の紙を俺の前に持ってくると、該当する箇所を指で示す。俺は、苛立ちながら手早く目を通す。

"異性との交際を禁止する"


「……えっ?ちょっと待って、え?」


 俺は部長から紙をひったくると、もう一度読み直す。しかし、何度見ても同じ文言が書かれている。異性との交際が禁止……?ということは、俺と彼女は付き合うことが出来ない……?


「ちょっと待ってください!なんですかこれ!」


「前にサークル内で六角関係の超ドロドロな昼ドラみたいな展開があって、サークル内の雰囲気も最悪になっちゃって。それから、こういう規約を入れたんだよね」


 あっ、もう入部届は取り消しできないから。貴重な新入部員だしね、と言って俺の入部届を部長はファイルに入れる。

 ……俺と彼女が付き合えない。だとしたら、俺がLECに入る意味は皆無ということになる。

 神様には嫌悪感しかない。今後、俺が神社に行くことはないだろう。


 などと愚痴っている中で、一つの考えが頭をよぎる。さっき、彼女も規約を読んで同意したうえで、サインをしている。しかも俺と違って内容をちゃんと確認しているように見えた。異性との交際禁止は彼女にとっても痛手ではないのか……?

 そう思った俺は、一旦、彼女を観察することにした。


「こんにちは!私、部長の藤枝若葉ふじえだわかばです。よろしくね」


「はい、あの、私、百瀬未咲(ももせみさき)と言います。よろしくお願いします」


 言って、未咲さんはきれいにお辞儀をした。部長と話している時は、頬の紅潮は見られない。やはり、耀さん目当てで入部したのは明白。規約を見逃していたのだろうか。


「部活のこととか、それ以外のことも含めて何かあれば私に聞いてね。先輩として力になるから」


「あ、あの、一つ聞いてもいいですか……?」


 緊張した様子で、上目遣いに未咲さんは部長を見る。遠目で見てもわかるレベルの破壊力に一瞬、意識が飛びそうになるのを抑えて、二人のやり取りを見守る。

 いいよ、と優しい口調で言う部長に未咲さんは数舜待って、口を開く。


「若葉さんは、今、彼女はいますか?」


 ……ん?何かがおかしい。

 普通、そういう話は耀さんにするものだし、何より女性に彼女の有無を聞くのはおかしい。

 部長も戸惑った様子で、彼女……?と何度も呟いている。


「……彼氏も、彼女もいないかなぁ」


 少し上ずった声で答える部長。どう答えていいかわからなかったのだろう。……気持ちはわかる。

 未咲さんはというと、返答の直後、顔を口で押えてしゃがみこんだ。


「良かったぁ。……私にもチャンスあるってことだよね」


 きっとそれは、誰にも聞こえないぐらいの音量で、もしくは心の中でつぶやくつもりだったのだろう。しかし、思いのほか声は響き俺の元にまでその言葉は届いてきた。

 ……ちょっと待て。

 皆、どうしていいかわからずフリーズしている中、俺は意を決して未咲さんに話しかける。


「ごめんね、未咲さん。ちょっと聞きたいんだけど、さっき、耀さんと話しているとき顔が赤くなっているように見えたんだけど、あれはどうして?」


「あの、私、ずっと女子校で……異性の方とお話しすると緊張で顔が赤くなってしまうのです」


 顔を紅潮させて未咲さんは話す。

 ……それは反則じゃない?そんな顔を赤らめて話されたら、好きなのかって勘違いしちゃうでしょ。

 いや、違う。今はそういう話じゃない。……俺は、意を決して口を開く。


「どうして、LECに入ろうと思ったの?」


「それは……」


 言いながら、未咲さんは部長をじーっと見る。そして、俺の方に向き直ると、顔を赤らめて、


「一目惚れです」


 と言った。

 ああ、もう、終わった。

 規約には"異性との交際を禁止する"とは書いてあったが、"同性との交際を禁止する"とは書いていない。つまりは、そういうことだ。

 後ろでは、風子さんがお腹を抑えて爆笑しているし、部長は戸惑った様子であたふたしていて、耀さんは俺らの話にはまるで興味なさそうにしている。

 やはり、変なサークルには変な人が集まってくる。俺はこれからこの人たちとサークル活動をしなければいけないのか……。

 とりあえず、帰る前に去勢手術に関する本を買っていこうと心に決めた。

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