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「こっちで合ってるんだよなあ?」
「……のはずなんだけど」
ガダン、とタイヤが軽く跳ね上がる。国道から段々と細い道に入っていき、そしていつの間にか下は砂利道、周りは木々に囲まれていた。陽の光もほとんど入ってこず、ぽつらぽつらと街灯が弱々しく光っている。
ナビを見ると、もうすぐそこに目的地があるように見えるが、別荘らしきものは発見できない。代わりに、鹿やキツネが俺たちをお出迎えしてくれている。後ろの女性陣は動物を見れて喜んでいるようだが、俺としては車道に飛び出して来ないことを願うばかりだ。鹿とかの場合、車が負けてしまうのでぶつけた時点で俺たちは移動手段がなくなってしまう。ここは電波も繋がらないだろうし、ちょっとした遭難気分を味わえることだろう。
「おっ、あれじゃないか?」
芥切が斜め右を指さす。見ると、木々に隠れてはいるが、家が見えてきた。
それから少し進んで右に行ったところで、別荘の全貌が見える。
「すごい、大きい」
後ろで百瀬さんが呟くように言う。俺も、別荘と聞いて期待するところはあったが、それを遥かに越える建物だ。木造の二階建て、オープンテラスに露天風呂のようなものも付いていて、何十人かで住むことを想定して作ったとしか思えない。
車を止めると、荷物を持って石畳みの上を歩いていく。
すると、玄関が開き一人の女性が現れた、部長だ。
「おつかれさま。どうぞ、入って入って」
中に入ると、部長の金持ちぶりがより露見された。
吹き抜けになっているリビングは、天窓から差し込まれる陽の光が大理石の床と反射する。白を基調とした高級感のある家具があちらこちらに並び、パッと見ただけでも十以上の部屋があるように見える。今日は宴会用にセッティングしてくれたのか、白に花の模様があしらわれたテーブルが横一列に並んでいて、同じ模様の椅子が同様に置かれている。
「どうしたの、皆?荷物はその辺に置いていいから、どうぞ座って」
呆気にとられている俺たちをよそに部長は話を進めていく。皆言われるがままに、荷物を置いていくが目線はあちらこちらに泳いでいる。
「一年はバラけて座ってね」と言われたので、俺たちはてきとうに間隔を開けて座る。テーブルにはピザやオードブル、寿司など豪勢な料理が並んでいる。先輩方は奥のキッチンで皿やお酒を持ってくる。俺たちだけ座っているのは申し訳ない気持ちもあったが、「待ってていいからね」と部長にも念を押されたので、待つことにする。
数分して、段々と席に着く人たちが増えていく。……初対面の人が多いと、やっぱり緊張するなあ。そわそわするというか、意味もなく体のあちこちを触ったりしてしまう。
「道貞は、ビールでいいか?」
「あっ、はい。ビールで大丈夫で……って、あれ、耀さん?」
耀さんは、俺の肩越しにサーバーから注がれたジョッキを目の前に置く。
「来ないって言ってましたよね?」
「ああ、そうなんだが……」
耀さんは言葉を濁す。よくわからないが、俺たちとの交流のために来てくれたのだろう。ありがたいことだ。
それぞれの元にお酒が届いていく。テーブルの上にはアルコール度数の低い飲み物やジュースも置いてあって、お酒が飲めない人への配慮も行き届いている。無理やり飲まされるようなことはなさそうだ。
皆が席に着いたところで、部長はジョッキを片手に席を立つ。
「えー、皆さん。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。今日は一年生の歓迎会ということで、五名の方が入ってくれました。これから共に活動していく仲間になりますので、この歓迎会で交流を深めていただければと思います」
部長がハキハキとした声で、前口上を述べていく。
……やっぱり部長って、ファッションセンスが皆無なだけで基本はしっかりした人なんだよなあ。部長もLECに所属しているのだから、恋愛経験に乏しいということになるのだが、そうは思えない。めちゃくちゃ美人だし、その程度の欠点だったら許容できる男はたくさんいるはずだ。
それは、隣に座っている耀さんにも言える。耀さんに関しては、そもそも欠点らしい欠点が見当たらない。強いて言えば気難しそうなところくらいだが、逆に魅力に感じる女性もいるだろうし、見た目は完全にイケメンの部類だ。
そのあたりの理由も、今日の飲み会で聞くことが出来るのだろうか。
「それでは皆さん、ジョッキをお持ちください」
部長の言葉に皆、ジョッキを手に取る。
「かんぱーーい!!」
かんぱーい!と皆続いて、ジョッキをぶつけ合う。そして、ぐいっと一飲み。うん、うまい。