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恋愛体験部-Love Experience Club-  作者: アイル
プロローグ
1/13

1

「女子ラクロスでーす!」


「ダンスに興味ある人はぜひうちのサークルへ!」


 始業式が終わり講堂から外に出ると、待っていましたと言わんばかりに上級生の声が飛び交う。俺はその人の多さに驚いた。高校までとは比べ物にならない。サークル勧誘の人だかりを抜けるのにも一苦労しそうなほどに、講堂前はごった返していた。

 ビラを受け取りながら、ゆっくり歩きつつ周りを見る。茶髪、金髪に染め、髪をいい具合に遊ばせたチャラそうな人や、四月の肌寒い時期にもかかわらず生足スカートで化粧もバッチリ決めている人。そんな大学生活が充実しているであろう人もいれば、アフロにグラサンで真っ赤なライダースジャケットを着た、何か勘違いしている人もいる。

 改めて大学生になったことを感じる。今までの地獄の受験勉強を思い出して、感慨深くなる……と同時に俺は気を引き締める。大学生になることがゴールではない。始業式で校長も言っていた、「目標をもって大学生活を過ごしてほしい」と。俺の目標は決まっている。

 大学生活中に童貞を捨てることだ。

 この目標があったから、俺は受験勉強も頑張ることができた。この一問を解くことで、グラマラスなお姉さんのおっぱいに、お尻に一歩近づくと考え、脇目も振らず勉強をしていた。

合格してからは、モテるためにどうすれば良いのか、雑誌やテレビを見ながら研究を重ねた。女ウケの良い服装や髪形にして、裸になっても恥ずかしくないように筋トレとランニングで身体を鍛えた。事前準備は完璧だ。その辺の一年とは覚悟が違う。俺は魔法使いにはならない。

などと考えていると、目の前を歩いていた女性にぶつかってしまった。女性が手に抱えていたたくさんのビラがバラバラと落ちる。


「ああっ、すいません」


 俺は慌てて落ちたビラを拾い集める。風で吹き飛んでしまうと、大変だ。

 全て集め終わると、角を揃えて女性に手渡すために立ち上がる。そこで、初めて女性の顔を認識した。


「ありがとうございます」


 女性は可愛らしく微笑みながら受け取ると、歩き出していった。女性の背を見ながら、俺は脳内で反芻する。

 肩ほどまで伸びた綺麗な黒髪。リスのようにくりっとした二重瞼。小さな口。しゅっとした輪郭。首元には小さなほくろが二つ連なっていて、スーツはパリッとして新品のようだった。きっと、今日に向けて買い揃えたのだろう。母親と服屋に行き、これにしなさいと言われたスーツを着て恥ずかしながら「似合ってるかな?」とか言っちゃったりして……って違う、そうじゃない。危ない危ない。うっかり、先ほどの女性の今日までの過程を想像してしまった。

 俺はそんなストーカー紛いのことをしたい訳ではない。何が言いたかったかといえば、あの女性が可愛かったということだ。入学式の間、ひたすら女性観察を行っていたが、それでも先ほどの女性ほど魅力的な女性はいなかった。連絡先でも聞いておけば良かったという後悔は今になって心の中を支配し始めた。

 ……しかし、過ぎたことを気にしても仕方ない。また新たな出会いに期待しよう。そう思い、脚を踏み出したところで違和感に気づく。靴底を見てみると、ビラが一枚くっついていた。多分、先ほどの女性のものだろう。何の気なしに見てみる。どうやら”LEC"というサークルの紹介らしい。一番上にはサークル名、下にはサークル概要が何行にもわたって書かれている。全く興味がないので、視線を下にうつす。

 そこで俺は目を見張った。一番下にはサークルメンバーの集合写真と説明会の場所が記されているのだが、説明会の箇所図に二重丸がつけられていて、更に集合写真に写っている男性に矢印が書かれていた。


「嘘だろ……」


 写真の男性はしゅっとした顔、きりっとした眼に銀縁の眼鏡が特徴のイケメン男性だった。

 俺は空を見上げて放心状態になった。やっぱりそうなのか、イケメンと美少女はすぐに惹かれあう。俺たち一般人はいつだって余りものだ。


「……伝えなきゃな」


 俺はわずかに笑みを浮かべると、ビラをポケットに入れて走り出した。今になって、俺は自分の気持ちに気づくことが出来た。言わないで後悔することだけはしたくない。

 ……あの人はどんな反応をするだろうか。きっと戸惑うことだろう。でも、それでも構わない。

 俺は勢いよくドアを開けた。


「殴り込みじゃぁぁぁぁぁ!!!」


「何だ、騒々しい」

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