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ずれていく気持ち


 ――ノアのことが好き。


 ウィラがその気持ちに気が付いたのはかなり前だった。

 「好き」が異性として好きの感情だと気づかされたのは、ヒルダを連れてノアに会うようになってからだ。 

 ヒルダは金髪碧眼の姉たちの中で一番華やかで美しい。目は大きく瞼は長く、唇はいつもピンク色で、明るくて理想の女性だと思える。

 そんな彼女がノアと親しく話しているとどうしようもない気持ちになった。それで

ウィラは男性としてノアのことが好きなのだと自覚したのだが、すでに遅かった。ヒルダに会わせたくない。その気持ちを隠しつつ、ウィラはヒルダが頼まれれば彼女を連れて、ノアに会った。もちろん頼まれた時だけだ。

なので、ヒルダをノアに会わせたくなくて、避ける時期もあった。


「ウィラ。ちょっといい?」


 夕食前にヒルダが部屋を訪ねてきた。

 ウィラ自身は二人で会いたくなかったが、彼女は自分の気持ちを押し殺して扉を開ける。


「ウィラ。本当。無事に戻ってきてよかったわ。ノアも心配してたわよ」

「そうなの」


 ノア。

 ヒルダから彼の名前を聞きたくないと思いつつ、ウィラは相槌を打った。


「昨日、魔女とノアはずっとあなたを待っていたみたいよ。どうして昼間いかなかったの?王宮を出たのは知ってるわよ」


(二人で会ったのを見たから。会いたくなかった。正直に答えられたいいのに。ヒルダ姉様もどうしてこんなこと言うのかしら。聞きたくないの)


「何かあったの?」

「別に何もありません」

「それならいいけど。明日でも行って来たら。父上の目なんて、私がどうにかするから」


 ヒルダの提案にウィラはどうしていいかわからなかった。

 会ってしまったらノアを酷く詰りそうな気もしていた。

 ノアの前でそんな自分を見せたくなくて、ウィラは決めかねていた。


「ノアが会いたがっていたから。ね。お願い」


(ノアが会いたがっていた。それはどういう意味。ヒルダ姉様のことを好きだと私に言うつもりなの?ノアもきっと私の気持ちに気が付いてるはずなのに)


 ウィラは気持ちが歪んでいくのがわかり、目を閉じた。


「ウィラ?どうしたの?」

「なんでも……。すこし気分が悪いので、休んでもいいですか?」

「もちろんよ。ごめんなさいね」


 ヒルダはそう言うと早々と部屋を出ていく。すると入れ替わりにリブが入ってきた。


「ウィラ様、大丈夫ですか?」

「ええ。大丈夫。少し寝るから」


 もう誰とも話したくないと、ウィラはリブに背を向けベッドに横になる。リブは背をむけた彼女を心配そうに見ていたが、邪魔をしないようにそっと退室した。



 ウィラはまた少年の夢をみた。

 しかし、少年がノアに変わることはなく、彼女は人間として少年とダンスを楽しみ、目を覚ます。

 目を覚ました時間は皆が就寝する時刻で、小腹も空いていたので彼女は部屋で食事をとった。心配するリブを休ませて、ウィラは再び眠くなるまで石板を読むことにした。海の世界では、石板が本代わりになるが、完結まで相当な重さになるので、普通は持ち運ぶことはない。一人が物語を作り、それを石板に刻写がする者がいる。物語を読みたいものは、刻写家に頼み自分の石板に刻写してもらうのが常だった。


 王宮にも何名ものお抱え刻写家がおり、ウィラの部屋にもいくつもの石板があった。

 ウィラは石板に目をやっていたが、頭に入ってくることはなく、ノアとヒルダ、そして少年のことばかりを思っていた。


「楽しかったわ」


 夢で彼と話したのはとても楽しく、人間になって踊った時の躍動感はたまらないものだった。

 まるでノアと二人で海底の散歩をしたときのような楽しさがあり、今となってはできないだろうと悲しくもなった。


「ノアはヒルダ姉様を選んだもの。もう私と一緒に遊んではくれないわね」


 邪魔をするもの悪いだろうし、ウィラ自身が仲睦まじい二人の傍にいるのに耐えられそうもなかった。


「でも、人間になればあの人と一緒にいれる?ノアと一緒にいたように」


 少年はノアそっくりで、一緒にいるとノアがいるような気持にもなった。


「人間になれば……一緒にいられる?」


 魔女はその知識の多さだけではなく、不思議な薬も作れると聞いていた。

 ウィラはずっと慕っていたノアを「失った」ことで、混乱していたかもしれない。けれども彼女自身は運命に操られるように、その考えに取りつかれていった。



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