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第二王子マグヌス

 早朝、シャリーンは指導役ではなくなったはずなのだが、ウィラを起こしに来た。しかも前日のように扉を思いっきり叩くのではなくかなりの配慮があった。その上、急かすような態度もない。

 ウィラは不思議に思いながら、今度こそ手紙をジョビナに渡そうと探したが、枕の下に手紙が見当たらなかった。ヤキモキしながら花園に向かいそこで待ち受けていたジョビナに会う。


「シャリーン。あなたがローネに酷く当たっているのを知ってるわ。大概に……」

「悪かったと思ってるわよ。もうしないわよ」


 ウィラがジョビナに紛失した手紙のことを伝えようとするよりも先に、彼女はシャリーンに話しかけていた。それに冷や冷やしたが、シャリーンの答えが意外なもので、ウィラは目を丸くしてしまう。


(あれは酷く当たっているってことだったの?確かに綺麗に洗濯したと思ったのに、何度も洗わされたけど)


「ローネ。ごめんなさい。昨日は。今日から公平に当たるわ。だから許してね」


(謝られた。だけど、そんな別に……)


 何も反応を示さないローネに笑いかけたのはジョビナだった。


「ローネ。反省しているみたいだから許してあげてね。シャリーンも元は悪い子じゃないから」

「元はって。なんか褒められているのに嬉しくない」

「素直になってよ。シャリーン」


 ジョビナとシャリーンは仲良いようで、二人の会話がローネは羨ましくなった。その態度が出ていたみたいで、二人は一斉にローネを見る。


「ローネは本当可愛いわね」

「こんな健気な子だと思わなかったわ。カスぺル様が気にかけるのもわかる気がする」

「そうね。イーサク様も」

「で、どっちが好きなの?」


(な、なに?!好きって。そんなのノアに決まっているけど。だって、だって)


 突然話を振られ顔を真っ赤にさせたローネに二人は笑い出す。


「冗談よ。冗談。二人とも王子様だから手に届かない存在だから。そんな存在に特別扱いされるローネが羨ましいと思う侍女はいっぱいいるのよ。シャリーンもその一人だったけどね」

「そうよ。だけど今は違うからね。ローネ。こんなこと言いたくないけど、二人とも王子様だからね。好きになったら駄目よ。つらいだけだから。侍女のみんなはそれを弁えて、憧れているだけなのよ」

「シャリーン!」

「ジョビナ。怒らないの。だって、好きになった後、その事実がわかってもつらいじゃないの。ローネはそんなこと知らないみたいに見えるから」


 (……そうよね。ノアはここでは王子様。私は単なる侍女。普通の人間の子だもの。わかってるようでわかっていなかった)

 

 ウィラはシャリーンに改めてその事実を教えてもらって感謝の気持ちと、同時に苦い思いがこみ上げてくる。


(お互いに人魚であれば……)

 

 そんなこと考えたらいけないと、ウィラは笑顔を作って手元の紙に文字をしたためる。


「わかってる。そうよね。ごめんね。ローネ」


 

 文字を読んだシャリーンがそう言い、ジョビナが周りの空気を換えるように大げさに手を叩いた。


「ほら。花摘みの仕事あるでしょう。私も手伝ってあげるわ」



 そうして三人は王妃の間に飾る花を選び始めた。




 ジョビナは花摘みを手伝った後、彼女自身の仕事をするために花園で別れた。それから朝一の仕事、花の入れ替えと掃除を終わらせて食堂に向かっていると一人の見栄えのいい男性とぶつかりそうになる。


「マグヌス殿下」


 シャリーンがそう言って頭を下げ、ウィラも慌てて真似をして廊下の端へ移動する。


「シャリーンだったかな。ローネに用事があるんだ。ちょっと借りてもいい?」


(用事?何の用?マグヌス殿下って言ったら王妃様の子供で、第二王子。それが私にどんな用事なの?)


 シャリーンは青ざめた顔をするウィラを見たので、どうにか断れないかと思案し始めた。しかし、マグヌスは容赦ない言葉を放つ。


「私は第二王子マグヌスだよ。君が逆らえる立場なのかな?」


(シャリーンが叱られてしまう)


 ウィラはシャリーンの侍女の制服である白いエプロンドレスを引っ張り、首を横に振る。


「ローネ。君はよくわかってるみたいだね」


 マグヌスはシャリーンを追い払うように手をはたくと、ウィラの肩に手をかけた。

 王妃によく似た美貌が間近に迫ったが、ローネは胸のときめきどころか恐怖しか浮かばなかった。

 安心させようと笑顔を作ってシャリーンに向ける。彼女の心配そうな視線を受けながらも、ウィラはマグヌスに従うしかない。


「さあ、付き合ってもらうよ」


 彼に肩を掴まれ、ウィラは言われるがまま歩き出した。


「近場で目立つところがいいかな」


 マグヌスは独り言をぼやきながら進む。いつの間にか彼はウィラから手を放している。


「本当はこんな強引なことしたくないんだけど。仕方ないよね」


 食堂からよく見える中庭に連れ出され、彼はやっと足を止める。胸元からハンカチを取り出し、木製の椅子の上に置くと座るように促した。


「大丈夫。座って。あ、私が先に座るべきか」


 彼はウィラの態度に納得したようで、その向かいの椅子に先に座った。


(座らないとだめよね。命令みたいなものだし。こんな横暴な命令、私でもしたことはないわ)


 王女であったウィラは我儘を自負していたが、こんな風に命令をしたことはなかった気がする。彼女は納得いかないがハンカチの置かれた椅子に座った。


「君、拾われた子なのになんか気品とかあるよね。それこそ王族みたいな」


(この人、なにかよくわからない)


 マグヌスが彼女に向ける視線は暖かいものだ。

 シャリーンに高圧的に物を言った時とはまったく異なっていた。


「案外本当に王族だったり……ね」


 彼はウィラの態度はどうでもいいらしく、独り言をぼやく。

  

「時間かな。ローネ。いやウィラ」

 

 自身の名前が出てくるとは思わず、彼女は目をいっぱいに広げて見てしまう。


「やっぱりそう?」


 心底おかしそうにマグヌスは笑い、椅子から身を乗り出した。


「マグヌス、何をされているのですか!」


 ウィラの頬に彼がふれそうになった瞬間、声がかけられる。


(ノアだわ!)


 彼女はマグヌスの背後の彼を見ようと目を凝らす。


「カスぺル。邪魔をしないでくれるかな」

「……どういう意味ですか?」

「どういうって、気に入ったから私のものにしようと思っただけだよ」

「マグヌス。それは身勝手です」

「身勝手?何それ。私は王族だ。好きな侍女をものにするくらい当然だろう。それとも、君も好きなの?」

「それは、」 

「兄上がた!」


 ノアが躊躇したところで、イーサクの声がかかる。


「何があったのです?」


 いつの間にか騒動になっていたらしく、食堂、そして中庭に隣接する通路から使用人、騎士、様々な位の興味本位な視線が集まっていた。

 イーサクはどうやらその騒動を聞きつけてきたらしかった。


「ローネが困っています。マグヌス兄上。からかうのもいい加減してください。カスぺル兄上もマグヌス兄上の遊びに付き合わないでください」


(遊び?)


 ウィラの驚いた視線に気が付き、イーサクは顔を雲らせる。


「ごめん。ローネ。マグヌス兄上は、こうして人が嫌がることをするのが好きなんだ」

「心外だな。弟よ」



 マグヌスが心底傷ついた顔を見せたが、イーサクは顔色を変えなかった。

 どうやら、このようなことは何度もあるようで、イーサクは呆れた顔のままノア(カスぺル)の元へ駆けつけた。


「イーサクは本当にカスぺルが好きだな。だから好みも似てしまうんだろうね」

「兄上!僕はローネをそういう意味で見ているわけではありません」

「ふうん。イーサクははっきりしているね。カスぺルはどうなの?」

「俺は……」


 自分が話題に出されてウィラは恥ずかしさのあまり体が火照って倒れるんじゃないかと思った。


(ノアは、私のことどう思っているの?私はなんてことを。人間の世界では私はただの普通の人間なのに)


 そう思いつつ、彼女はノアの答えを知りたいと彼の言葉の続きを待った。けれどもそれが出されることはなかった。


「どうでもいいや。私は部屋に戻るよ。ウィラ。邪魔して悪かったね」

「ウィラ?」

「ウィ……ラ?」


(どうして、その名を呼ぶの?この方は!)


 イーサクはウィラの名前に困惑し、ノアは驚いたようにウィラを見た。


「面白いことになりそうだね」


 可笑しそうに声を抑えて笑い、マグヌスは言いたい事だけ言うとさっさと中庭から出て行ってしまった。


「君の本当の名前は、ウィラなのか?」


 中庭に人々の視線は集中したまま、そんなことに構わずノアは確かめるようにウィラに問うた。


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