第1幕(8)
「そ、そう……ですか。あの、テオドールさんは?」
「お前にそんな呼び方をされると妙な感じがするな。まぁ、俺は主家を失い、家に戻る気にもなれず、傭兵の真似事を始めているよ。ちょうど雇い主もすぐに見つかったことだしな」
「はぁ……傭兵……」
このテオドールさんと言う人は、さっき名乗った通りラヴィニアお嬢様の幼なじみで、付き人。生まれはバーケルト伯爵の次男で、家のことはすべてお父さんとお兄さんがやっており、彼は小さい頃からリーデル家に預けられていたはず。
『付き人』の名目ではあるけど、ほとんど兄妹のように同じ教育を受けて育っていたはずだ。つまりは、彼もまた生粋の貴族のお坊ちゃんなのだ。
そんな人が、その日暮らしの傭兵とは……。
ゲームのエンディングで、そこまでのことが起こっていただろうか? もう少し平和的だったように思うんだけど……。
考え込む私を見て、まだ思い出せないのだと思ったらしいテオドールさんは、悲しそうな顔をした。
「ラヴィニア……それすらも、忘れてしまったのか……」
「ご、ごめんなさい……」
「いや……お前自身は、斬首などという目にあったんだ。辛い記憶を失くしてしまっても、致し方ない」
なんだか納得してくれちゃった。
……あれ? この人さっきから、私のことなんて呼んでた?
「ラヴィニア……せめて首だけでもとにかく遠くに逃れよう。俺たちが必ず……」
「ち、ちょっと待った!」
気持ちの上でだけ、掌を押し出して”待った”のポーズをとった。とれてないけど。
「あの……私は、その……”ラヴィニア”なんですか?」
私の問いに、テオドールさんは何度目か知れないきょとんとした顔を見せた。
「どこからどう見ても……”ラヴィニア”だ」
どうやら私は、悪役令嬢の、処刑された後の、生首に、なってしまったらしい…………
「なんでーーーーーーーーーっっ!!!!?」
私の人並み以上の声量が、この体になっても何故か発揮されてしまった。