第1幕(5)
真っ白――
目を開けた時に真っ先に思ったのは、そんなことだった。本当に、目の前が、一面真っ白だったのだ。
あ、そうか、病院か。
確かトラックに撥ねられたんだった。そうか……生きてたんだ。奇跡だなぁ。
梨花ちゃんに、突き飛ばされて……。
まぁ、衝動的にやっちゃったんだろうなぁ。あんなことがあった直後だし。そりゃあ、悔しいよなぁ。
まぁ、これでソロの件は梨花ちゃんに決まるだろうし、あとは私が完全回復して復帰すれば、丸く収まるか。
あとは……どれくらいで怪我が治るか、だな。
試しに右腕を持ち上げてみた。
お、動く動く。元気ではないけど、なんとか動く。ということは、切断まではいかなかったんだ。良かった、私の腕――
「……?」
持ち上げた自分の腕を見て、違和感を感じた。なんか……白い、細い。
合唱部は腹筋や背筋をはじめ体を鍛えて臨むため、運動部並みに体を鍛える。夏も毎日走り込むし、筋トレだって欠かさないから、色黒だしまぁまぁ筋肉はついていた。
でも目の前の腕は、筋肉の削がれた骨だけといった様子だ。そして、日差しのもとに長い間出ていないかのように、色が白い。
これ……私の腕じゃない!?
だけど頑張ってもう片方の腕を引っ張り出してみたけど、同じだった。足は……足はどうなんだろう? あ、寝たままじゃわからないか。
腕を踏ん張って、なんとか起き上がってみると、足以上に驚いた。
「……どこ、ここ……?」
一面真っ白な天井は、病院のものじゃなかった。真っ白な壁と天井に囲まれていて、大きなきれいな窓からたっぷりの日差しが差し込んで明るい、どこかの家の中だ。
私の寝ているベッドに、綺麗な細工が施されたチェストにテーブルセット。極めつけは窓の向こうに広がる庭。
これまた驚いた。ここ、私の知ってる場所じゃない……!
いったいどこなんだろう? 日本のどこか? 病院じゃなくてどこかの施設?
もしかして植物人間になって、いつの間にかどこかの養生施設に入ってた?
あ、そうかも。だから手足もこんなに細く白くなって……。
勝手に納得いったところでもう一度窓の外に目を向けた。
広くて、緑と花がたくさん。とてもきれいだ。近くで見てみたいと思った。
できるかできないかなんて考えずに、私はベッドから起きだして、窓の方へ歩いて行った。スムーズには動かなかったけれど、それでもなんとか歩く事が出来た。
窓を開くと、視界一杯にその庭が入ってきた。
思わず、ため息が漏れた。感嘆のため息だ。
植物園でもないのにこんなにきれいな庭、初めて見た。なんだか、胸の奥が熱くなってくる。
気づいたら、息を深く吸い込んでいた――
「~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!」
久々に声を出すような感覚だったけど、それがまた爽快だ。気のせいか、周りの木々も花たちも、震えていたような気がする。
気持ち良かった!
そう思った時、空から何かが降ってきて――
ゴチンッ
そのまま、私の頭と正面衝突して、気を失ったんだった。
そうだ、そして今に至る……。
また状況がコロコロ変わるものだ……。
さっきまではあった四肢がなくなって生首になっていて、しかも喋れていて、目の前には見知らぬ男の人がへたり込んでいる。
どういう状況なのか、さっぱりわからないけれど……とりあえず、今言うことは、一つだろう。
「あの……降ろしてもらっていいですか?」
「そ……そうだな」