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そう、ヤツは不登校。


 公園を通り過ぎて暫くあるけば、私の家が見えて来る。

 私の家の手前に見える普通の一軒家がヤツの住まう家。今まで何度もプリントを配達に来たけど、玄関までしか入った事はない。


 一度通り過ぎて家に帰り着替えて来るなんて面倒くさい事はしない。あくまでも帰宅途中のついでなのだ。ゆっくりと敷地に入り、玄関扉の前に立つ。



 ……ピンポーン。


 インターホンを押して、反応を待つ。

 少し待ってみるものの、反応は無い。もしかして留守だろうか? いや、仮に両親が留守でも、ヤツは居る筈だ。学校に来ないのに遊びに出掛けてるなんて有り得ないのだ。常識的に考えて。


 ……ピンポーン。


 もう一度鳴らして見るが、やはり反応は無い。

 だがしかし、ここで引き下がる私ではない。と言うか一旦帰ってまた来るのがとてもとても面倒くさい。出ぬのなら出るまで鳴らそうホトトギスなのだ。


 ……ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。


 これでも出ないかと言わんばかりに、一定の間隔でインターホンを連打する。この私が貴重な時間を使っているのだ。応じて貰わねばならんのである。



「……はい」


 もう何度鳴らしたか分からなくなってきた頃に、ようやく反応があった。だるそうな男の声で短い返事。これは間違い無くヤツだ。


「隣の月島です。学校の先生からプリントを渡す様に頼まれたので持って来ました」


 苛立っているのを悟られない様に穏やかに要件を伝える。例えお隣さんの幼馴染でも私の本性を知られる訳にはいかないのである。私が本性を曝け出すのは、自室に居る時だけなのだ。


「……ああ、今開ける」


 ぐぬぬ、わざわざ届けに来てあげたと言うのにこの態度。近頃の男子高校生はどうなっているんだね? 全くけしからん。


 ガチャリと音を立てて玄関扉が開く。そこに立っていたのはジャージの様な部屋着を着て、髪がボサボサのヤツだった。女子高校生が訪ねて来たんだから髪くらい整えなさいよ。まあ、それで待たされたら怒るけどね。


「はい、これ」

「……あいよ」


 短いやり取りで要件を終える。

 ……いや、まだだ、まだ終わってない。本人に会えたのだから、今が説得するチャンスではあるまいか。いつもは母親に手渡して終わりなので、次に顔を合わせるのが何時になるのか分からない。


「どうして学校に来ないの?」


 取り敢えず軽いジャブで牽制だ。いや、直球ストレートかな? 兎にも角にも理由を聞き出せない事には解決もへったくれも無い。ヤツはだるそうに答えを返す。


「お前には関係無いだろ?」


 おいこらちょっと待て。関係無い訳なかろうて。貴様が学校に来ないからこうやってプリント届けたり、ついには説得まで頼まれたんですよ? 何を勘違いしているのだこのボサボサは。


「あら、何時もわざわざプリント届けに来ているのに関係無いなんて酷くない?」


 わざと嫌味ったらしくカウンターを返す。ヤツの態度に少しイライラしているのだ。さっさと理由を教えたまえ。


「いや、俺が頼んだ訳じゃ無いし」


 あ"あ"? 何だコイツ。コイツは感謝と言う物を知らないのか。全く親の顔が見てみたいものだ。いや、結構何度も見てるか。うちの母親に負けず劣らすの美人な奥さんだったな。いやいや、今はそれそんな事を考えている時ではない。


「クラスの皆も心配してるから、たまには学校に来たらどう?」


 イラつきが態度に出そうなのを何とか堪えて、穏やかに返す言葉を紡ぐ。出来る事なら平和的に話し合いで解決したいのだ。だって私は面倒見の良い委員長だからね。


「いや、やめとくよ。じゃあな」


 そう答えた頭ボサボサマンは、これで話は終わりと言わんばかりに扉を閉めた。説得失敗である。私は静かに振り返ると足早に自宅へ帰った。





「ああああ!! アイツ本当に何なのよー!!」


 自室に入り、制服から部屋着に着替える。これが外向けの私から、素の私へ切り替わるスイッチなのだ。

 部屋着へと着替え終えた瞬間ベッドにダイブする。そしてクッションに顔を埋め、両足をバタバタとさせながら叫んだ。

 この私にあんな態度をとる輩が他に居ただろうか? いや、居ない。ヤツは私を怒らせた。こうなったらありとあらゆる手段で必ずや学校へ引き摺り出してやる。首を洗って待っているが良い。


 私は新たな決意を胸にヤツを学校へ来させる作戦を練り始めた。


 


 無愛想なヤツにキレた彩音さん。勝手に宣戦布告です。

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