進化
リアルで格闘技を趣味にしている作者ですが文書に起こすとなると難しいものですね。戦闘シーンの描写は部屋で1人で架空の敵と戦いながら書いてます。
身体強化も発動し弾丸のように飛び出した俺は真っ先にチルゾルの群れへとたどり着く。
鹿達に狙いを定めていたチルゾル達は自分たちが狙われていたとは考えてはおらず、一瞬の硬直の後に標的を俺達へと切り替え牙を剥き
群れの後方、一回り程大きな身体の個体が遠吠えのような鳴き声を上げ群れは散開し2頭のチルゾルが涎を垂らし俺を喰い殺そうと飛びかかってきた。
「ふっ!!」
足元を狙った1体へ体勢を低く保ったままのカウンターでの一撃、軽く放った様に見える左拳が的確に鼻っ面を撃ち抜き甲高い鳴き声を上げながら動きが止まる。
その隙に今にも俺の肩口へと噛み付こうとしているもう1体のチルゾルの攻撃を半身の体勢から回転する様に避けると、チルゾルは空中で後ろ姿を晒してしまい
打法 転輪
加減無しで無防備な腹へと下から突き上げる様に打ち込んだ一撃はチルゾルの体内で暴れ、声を上げる間も無く内臓をミキサーの様に破壊し顔面から地面へと落ちたチルゾルの頭を踏み抜く。
グシャッという音の後に体を震わせ絶命したのを確認し視線を先程一撃くれてやったもう1体へ。
ダメージが抜けずかろうじて立ち上がろうとしているところを振り下ろした手刀で頸椎を破壊しとどめを刺した。
「ふぅ……父さん達はっと」
父さんはおそらく群れのリーダーであろう個体と交戦中で身体強化、闘気を発動した筋力で相手を圧倒。俊敏なステータスで優っているチルゾルがなんとか避けてはいるものの捉えられるのも時間の問題だろう。
ベテランの鬼族は2体のチルゾルを相手取っていた様だが1体は既に地に伏し、もう1体も精彩を欠いた動きでたった今豪快に放たれた右ストレートにより吹き飛び命を散らす。
若手の鬼族は既にもう1体のチルゾルを倒し終わっており残すはリーダーの個体のみだが、父さんの馬鹿力でぶん回した腕に吹き飛ばされ絶命し俺はホッと一息吐きながら臨戦体勢を解いた。
「いやー!初めての狩りだったのにすげーなチカゲは!俺が初めて狩りについていった時はあんなに落ち着いてらんなかったぜ!」
「何言ってんだアラト。お前初めて魔獣と戦った時涙目でしょんべんチビってなかったか?」
「ちょ!!それは内緒って言ったでしょガランさん!!先輩としての威厳ってやつが……」
チルゾルを全滅させた後持ってきたノコギリで首を落とし近くの木に吊るして血抜きをしその間に川辺で俺たちも返り血を洗い流す。
「まあなんにせよよくやったなチカゲ。アラトの真似じゃねーが初陣であそこまで動ける奴はそうはいない、なあ、ライゾウさん」
「うむ!!流石は俺の息子だ!!今日は母さんにご馳走を作ってもらおう!!!」
だが最後まで気を抜くなよ、っと父さんから一言かけられたがベテランの鬼族からも賞賛されそれなりには戦えたみたいだ。
「言っとくけどチビってはねーからな?ホントだぞ?」
「分かってるよアラトくん。さっさとあいつら袋に詰めて持ち帰りましょ」
「分かってるってお前なぁ……」
仕留めた獲物を捌くのは村に帰ってから行う為皮でできた袋に死体を詰めそれを若手の俺とアラトが担ぎ持ち帰る。
村へ着くまでの間必死に弁明してくるアラトだったがその度にガランにいじられているのを横目に俺の狩人としての初陣は終わった。
ーー進化条件を満たしました。次の種族への進化が可能です。
狩りから村へ戻ってきた後俺は父さんと家へと帰り母さんの手料理を食べながら、酒も入って上機嫌な父さんに付き合っていた。
「聞いてくれ母さん!!チカゲはやはり天才だ!!!流石俺たちの息子だとは思わんか!!」
「はいはい、チカゲちゃんは小さい頃から頑張っていたもんねぇ。あなたも嬉しいからって飲み過ぎですよもう」
「いいではないか!!こんなに嬉しいことは中々あるもんじゃあないだろう!!!」
いつも通りどこかゆるい喋り方の母さんが父さんの相手をしているのを見ながら狩りの後に頭に響いた声について考えていた。
進化のことは以前父さんに聞いていたため知ってはいたがまさか初めての狩りでそうなるとは思っていなかったな……。
それに進化先として表示された選択肢の中にこの村では見覚えのない種族の名前が。
・童子
成人前の雄の鬼族の特殊進化種族。体格は細身で160センチほどの身長に青白い肌。一見すると人間に近い見た目だが額から小さな角が生え身体能力に大きく補正がかかりその腕力と脚力は通常の鬼を圧倒する。
かなり強力な種族であることは間違いないだろう。ただ、俺が気になった部分は人間に近い見た目という説明だ。
村の雄の鬼族は皆人間とは似つかない姿の者しかいない。
父さんからも聞いたことがあるが鬼族の雄というのは鍛え上げた強靭な筋肉と大きな体、見る者を威圧するような逞しい姿が良いとされているらしく童子という種族は見た目がそれとはかけ離れており母さんの様にかなり人間寄りの見た目になるのだろう。
それがどう影響するのかわからないんだよなぁ……ステータスが見れない他の鬼族からしたらもしかしたらそんな姿は鬼族じゃない!みたいなこともありえるかもしれないし……
そう考え込んでしまったところへ
「チカゲちゃん?」
「っ!……ごめん、ちょっと疲れたみたいでぼーっとしちゃってた」
喋らなくなった俺を母さんが心配そうに覗き込んでいた。
「そうね。初めての狩りだったんだから今日は早めに寝ちゃいなさい。ほら、あなたも程々にして寝ますよ」
「む……そうだな。明日も狩りへ行くのだしチカゲも今日はゆっくり休むのだぞ!!」
「うん、分かったよ。じゃあ先に部屋に行ってるね、おやすみ父さん、母さん」
2人からおやすみと返ってくるのを聞きながら自分の部屋へと向かった。
あの両親なら俺がどんな姿になったとしてもきっと変わらずに接してくれるだろう。いや、でも父さんは男らしく!!とか言うかもしれないな。
この世界は力がなければ奪われる。弱ければ大事なものを守ることなんてできない。
前世で俺は全てを奪われ裏切られ、殺された。それは俺に力がなかったから。
こんな世界だ、俺より強いやつなどいくらでもいるだろう。数の暴力やまだ見ぬ魔法、そんな奴らに抵抗できる力が……誰にも何も奪われない力が欲しい。
そう決心した俺はステータスを開き進化種族の選択へ。
ーー進化種族、童子を選択。本当によろしいですか?
ああ、構わない。
ーー進化種族、童子。存在進化のスキルを発動。10時間の昏睡モードに入ります。
その声と共に俺の意識は暗闇へと落ちていったーーー
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蛇足ですが進化前のチカゲのステータスを
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千景チカゲ 14歳 雄 レベル30
種族:小鬼(鬼族)
筋力138
耐久102
敏捷135
魔力0
魔防40
スキル:転生者 異世界言語Ⅴ 身体強化Ⅲ 任侠の徒
鬼気雷公
称号:鬼神の加護 混沌神の加護
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