狩人
お久しぶりです。ストックしていた小説のデータが吹っ飛び絶望にくれそれに追い討ちでリアルでの多忙で更新が遅くなってしまいました……。
「シッ!!」
打法 尖峰
オーソドックスに体を半身にし左腕と左脚を前へ構え拳は軽く握り脱力からの一瞬のトップギア、まるで鞭のようにしなり回転が加えられた左の拳は何匹もの獰猛な蛇のように目の前の鬼へと襲い掛かる。
「ぐぅっっ!!」
息を吐く間も無く打ち込まれる連打により体を丸め急所をガードしていた腕が徐々に開いていく。
鳩尾が僅かに晒され、その隙を見逃さずに電光石火の踏み込み。ゼロ距離からの右の掌底を叩き込む。
掌法 転輪
掌を密着させた状態で放つこの技は腰、肩甲骨、前腕の回転を余す事なく掌へと伝え体の内部から破壊する。固い鎧に身を包んだ相手や純粋な物理攻撃の効きづらい魔獣でも対処出来るようにと考え編み出した技だ。
「かっ!!……は……」
高い耐久値を誇る鬼族だが体の内側から破壊するこの技を喰らい空気にも似た声を吐き出し膝から崩れ地に沈む。
一応間違っても殺す事などないよう手加減は十分したんだが……それでも村の狩人の中では比較的まだ若く進化したばかりの鬼では耐えることはできなかったらしい。
「そこまで!!勝者、チカゲ!」
立会人を務める父さんの声が響き渡り俺も力を抜き臨戦態勢を解く。
「皆もその目で見ていただろう!!本来狩人として狩りに参加するにはまだ若いチカゲだが、この立会いでその力を示した!!」
周りを見渡せば狩人の者だけでなくいつのまにか村の女衆や子供なども俺たちを中心に円を描くように集まりこちらを見つめていた。
「よってここに!!チカゲの狩人としての同行を許可する!!いいな、チカゲ!」
「うん、ありがとう父さん。それに、ゴウキくんも立会いに付き合ってくれてありがとう」
そう言って俺は先程向かい合っていた鬼、ゴウキへと手を伸ばす。
ゴウキは顔を痛みで歪めながらも俺の手をとり
「ったく……これでも俺は村の若手の中じゃ負け無しだったんだぞ?それをお前、何もさせてもらえねーまま完封しやがって」
「ゴウキくんの怪力で殴られたら俺の体じゃ耐えきれないから。ああやって連打で押し切るしかなかったんだよ」
「それでもだ、どんだけ力が強かろうが当たらなきゃ意味ねえよ。まぁなんにせよこれからは同じ狩人としてよろしくなチカゲ」
「こちらこそ。外の魔獣も狩りの知識も俺には足りないものだらけだから」
ゴウキは歳でいうと俺の4つ上の雄の鬼族。
本来狩人として狩りに同行出来るのは16歳からでゴウキは狩人になったその年に若手の中では最速の進化へと至り若い鬼達を牽引してきた。
そんなゴウキのステータスは
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ゴウキ 18歳 雄 レベル36
種族 鬼 (鬼族)
筋力133
耐久140
俊敏58
魔力0
魔防24
スキル:身体強化Ⅲ 闘気Ⅱ
加護:鬼神の加護
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オーソドックスな鬼族のステータスだがレベルからすると若干筋力と耐久が高い。その分俊敏と魔防が低いが身体強化のスキルレベルはⅢ、闘気と合わせて発動した時の一撃の威力は高くあながち俺の耐久値では耐えきれないというのも嘘ではない。
6歳になってからひたすら修行に明け暮れ、他の鬼達に好奇の目で見られることも多かったが村で一番の戦闘力を誇る父さんの息子ならと皆納得しそこまで噂を立てられることはなかった。
10歳には父さんとの組手も追加されますます修行に熱が入り毎晩俺が眠った後に父さんは俺は天才だと母さんに熱弁していたらしい。
そして今年14歳になった俺は立会いを経て、異例だが狩人の一員として認められることになったのだった。
翌朝、父さんと一緒に家を出た俺は狩人達が狩りの前に集まる集会所とやらに足を運び今日の狩りの計画を聞いていた。
この村の狩人は俺を入れて21人。
その内5人はその日は村に残り警備にあたるらしい。そして残りの16人はグループに分かれてそれぞれ決められたポイントで狩りを行うのだという。
グループにはそれぞれベテランの狩人がリーダーとして付くのだが今の村の狩人は俺を含めた若手の鬼が9人、父さんを含めたベテランの鬼達が12人という構成になっており父さんには及ばないがベテランの鬼達は一人一人がステータスも高く狩人としての知識も豊富だ。
この日の狩りは父さんと一緒のグループで狩りを行う。俺が初めての狩りという事もあり他のメンバーも若手が1人、ベテランが1人と万全を期してポイントへと向かった。
今日俺たちが狩りをする場所は村から西へ3キロほど歩いたところにある川辺。
水を飲みに来た野生動物やそれらを獲物にしているチルゾルという魔獣が今日のターゲットになる。
チルゾルは狼に似た魔獣らしく動きが素早く群れをなして行動し、全長は120センチほどで鋭い爪と牙による噛み付きなどに注意して戦えば問題はないとのこと。
肉は少ないが骨や爪、皮などどれも頑丈で生活日用品に加工でき村では重宝するのだと父さんに教わった。
「止まれ」
父さんの一言で皆姿勢を低くし草陰へと隠れる。
どうやら川辺の近くに着いたらしい。
川辺には水を飲みに来た鹿の親子が辺りを警戒しながら佇んでいる。
「父さん、あの鹿達の方が食料には適してると思うんだけど……」
「うむ、たしかにそうなのだが野生動物の狩りは比較的安全だからな。今日は若手のグループがそちらへ向かっている、だから我々の今日の獲物は食料ではなくチルゾルに絞っているのだ」
なるほど、そうやって獲物もグループ毎で分けてるってことね。
ただでさえ鬼族は大食らいが多い。肉に関しては毎日の狩りで補充していたとしてそれらを調理する器具はどこから調達しているのかと思っていたがそれも狩りで補っているわけだ。
「ほら、チカゲ。奴らがおいでなすったぞ」
ベテランの鬼族にそう言われ川辺の奥の茂みへと視線を移すと低い体勢で今にも飛びかかろうとしている6体の魔獣の姿。
前世も含めて初めて魔獣の姿を見たが……俺もやはり鬼族の血を引いているためか溢れ出てくる感情は恐怖ではなく歓喜。
自分でも気づかないうちに口角が上がり魔獣との戦闘を今か今かと待ちわびる。そして……
「行くぞ!!」
父さんの号令で両隣の鬼族と共に獲物へと駆け出していく。
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