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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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特別編 ハロウィンの夜

 


 例えばそれは、あり得たかもしれない日常。



 ーーー☆ーーー



 ハロウィン。

 正式なアレソレは抜きにして、主に仮装を楽しむイベントとして大陸に広まっている。


 ゾンビ、ヴァンパイア、狼男などなど多種多様な『仮装』で溢れる街を二人の男女が歩いていた。


 一人は漆黒のマントに同じく漆黒のとんがり帽子、可愛らしいアクセントが施された箒を持った魔女の仮装──シェルファであった。


 もう一人は純白の毛並みにナイフのように鋭く伸びた爪、ケモノと男のニオイを振り撒く少年──シロである。


 今日はハロウィン。一年に一度の大々的な仮装祭り。街中が仮装で埋め尽くされるほどであればシロの毛並みも仮装の一種として埋もれるものだ。


 そう、今日ならばシロやキキも人目を気にせず街中を歩くことができる。


「オオッ。イイ、ニオイ、ガ、スルナッ!」


「ハロウィンに便乗して色んな出店が展開されていますからね」


「オオ、オオ……ッ!」


 そわそわしていた。

 長らく森の中で暮らしていたシロにとってお祭りとははじめての経験なのだろう。キラキラと瞳を輝かせる姿に連れてきて良かったとシェルファが口元を緩めた、その時だった。


「ハヤク、イクゾッ!!」


「ふあっ!?」


 ぐいっと。

 半ば強引に、熱く、手を握られた。シロに引っ張られ、人混みを進んでいく中、掌に広がるもふもふにして力強い感触にシェルファの心臓は瞬時に高鳴る。未だ、どうしたって、慣れやしない。時間が経つごとにシロのことが好きになるのだから。



 出店にはかぼちゃという形を軸として様々なものが売っていた。ケーキにクッキー、小さなかぼちゃをくり抜いて中に肉や魚を詰め込んで蒸したもの、果ては丸ごとのかぼちゃを団子のように特大の串に刺して焼いたものかぼちゃ百パーセントアイスなんてものもあった。


 それらをシロは興奮と共にぺろりと平らげていく。やっぱり男の子なのだと、好感度上がっちゃうシェルファは完全に恋は盲目一直線である。


 遥か過去の伝説ながら復活を遂げた『勇者』ミリファ=スカイブルーや『聖女』セルフィーが仲良く手を繋いで祭りを満喫していたり、大魔導師タルガが今日こそ初恋を忘れさせてくれる人を見つけるんだと酒瓶片手にぐでんぐでんだったり、レッサーとキキがお揃いでかぼちゃを頭からかぶっていたり(背中にバッサリ大胆なスリット入り)、『賢者』ゼクスが子供の範疇だと定義可能な子犬たちを引き連れてハロウィン特有の魔法の言葉によるお菓子狩りをしていたり、夢を半現実化することで空想の子供たちを生み出した夢魔ミリフィアとのお菓子争奪戦が勃発したり、『武道家』ガノラ=レッドレッドウォーハンマーとルシア=バーニングフォトンが祭りの熱と大魔導師タルガが強引に飲ませた酒に酔って激突していたり、『騎士』エイリナ=ピンクローズリリィ男爵令嬢が男の子やその友達からのハロウィン特有の言葉にお手製クッキーをドヤ顔でプレゼントしていたりと祭りの喧騒は激しさを増していく。


 そんな中。

 口の端にペースト状になったかぼちゃの実をつけたシロがふとこんなことを言った。


「ソウイエバ、キョウ、ダッタ、ナ」


 そして。

 それは紡がれた。


「トリック、オア、トリート」


 …………。


「え、あっ、お菓子ですかっ。わかりました今すぐ買って──」


「イマ、ナイ、ンダナ」


 ぱしっ、と。

 シェルファの手を掴み、引き留め、そしてシロは言う。


「ダッタラ、イタズラ、ダナ」


「な、なん、ななっ!? し、シロがこんなこと思いつくはずが……。だっ誰ですか!? 誰に唆されたんですかっ」


「レッサー、ガ、コウスレバ、ツガイ、ラシイ、コト、ガ、デキル、ト」


「レッサーぁっ! 何余計なこと言っているんですかあっ!!」


 うがーっ! と令嬢らしさなんてカケラもなく頭を抱えるシェルファ。と、そこで『完璧な令嬢』としての側面……なんかじゃなく、平和ボケしたシェルファ本来の側面がピンッと突破口を見つけ出す。


「ふ、ふふふ。シロ、そっくりそのまま返させていただきますっ!!」


「?」


「トリックオアトリート、です!!」


 ふふんっ、と胸を張り言い切るシェルファ。

 未だに掴まれている腕がもう熱くてたまらず、思考がぐずぐずに溶けてしまいそうなところをギリギリで踏みとどまり、シェルファはビシッと指を突きつける。


「ふっふふ。シロも今何も持っていませんっ。お菓子はあげられない、となれば、イタズラしかありません。ふははっ。これぞトリックオアトリート返しっ。イタズラされたくなければシロがしようとしていたイタズラと引き換えにやめにして構いませんよっ。相殺ですっ」


「ベツ、ニ、イイゾ」


「え?」


「ダカラ、イタズラ、スレバ、イイ」


 …………。

 …………。

 …………。


「うえっ、ええええっ!?」


「ツガイ、ナラ、ナニ、ヲ、シタッテ、カマワナイ。スキ、ダカラ、ナ」


「す、すす、すうっ!? そっそういうことをサラッと言わないでくださいよお!!」


「オレ、ニ、ナニ、ヲ、ヤッテ、モ、イイ。タダシ、オレ、モ、ヤリタイ、コト、ヤル、ケド、ナ」


 ぺろり、と。

 口の端についた黄色いかぼちゃを舐めとるシロ。まるでそれがシェルファの行く末のようで、それが嫌ではなく、むしろ──


「はっははっ、ハジメテが外は流石に高度すぎますう!!」


「……???」


 これでも人類滅亡もあり得る脅威を退けた傑物ではあるのだが、シロが関わるだけでポンコツまっしぐらであった。



 ーーー☆ーーー



「はっはぁーっ! やっちゃえっ!!」


 酒瓶片手にぐでんぐでんな大魔導師タルガの視線の先では同じくぐでんぐでんな『武道家』がかぼちゃをぶん投げるところだった。


 スパンッ!! と紅の斬撃が舞う。ルシア=バーニングフォトンの振るう剣がかぼちゃを瞬く間に切り分け──それを『騎士』エイリナ=ピンクローズリリィ男爵令嬢がお菓子に変えていく。


「うふふっ☆ ハッピーハロウィンですわぁっ! さあさ、全員かかってこいですわぁ!!」


 わぁっ! と子供たちが殺到する。トリックオアトリート。ハロウィン特有の言葉と引き換えにエイリナお手製のお菓子が配られる。


 初めは怪物たちによる手合わせだったはずが、気がつけば即興お菓子作りに変貌しているのだから祭りの熱気と酒の酔いは不思議なものである。


 ……ちなみにお菓子狩りだなんだと悪ノリして子供たちの取り分を減らす要因となっていた『賢者』や夢魔は『勇者』が正義を貫き撃退されている。


「祭りの熱気はどれだけ人の精神に関与するのかを確かめるための実験だったってのに、ミリファの奴余計な邪魔しやがって」


「また変な風にこじらせているねえ。まあ、此方としては貴方と一緒ならなんでもいいんだけどねえ」


「……ふん」


 楽しそうな二人を尻目に『賢者』に唆された子犬たちを抱きしめる『聖女』セルフィー。


 彼女は同じくもふもふに呑まれて幸せそうな『勇者』をジト目で見据えて、


「だらしないでございますよ、ミリファさま」


「だってぇ、こんなん無理だって抗えないよぉ」


「むう」


 と、そんな彼女たちの近くではかぼちゃをかぶった(背中に大胆スリット入りな)キキが一言。


「セナカ、スースー、スル」


「キキ、これも全ては胸部が豊かな恵まれし者に勝つためなのっ。ボインがそんなにいいのこんちくしょーう!!」


「レッサー、タマ、ニ、ヘン、ダヨネ」


 なんだかんだと付き合うくらいには、レッサーのことが好きなキキであった。

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