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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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第五十四話 メイドであり、友達として

 

 どうせいつもの拗らせだろうとタカをかかっていた。だからこそ、レッサーは呆れたような表情で切り株から腰を浮かし、そして、



「ソコ、ヲ、ドケ! アノ、バカ、ガ、イノチ、ヲ、ステル、マエ、ニ、トメナイト、ナンダヨ!!」



 キキと対するシロの叫びにビキッとレッサーの額に青筋が浮かぶ。感情なんて瞬時に沸騰した。感情のままにだんっ!! と地面を蹴る。


「本当、お嬢様ってば。なんでちょっと目を離すとすぐにとんでもないことやらかすの、ばーか!!」


 そして。

 そして、だ。



 洞窟に飛び込んだレッサーは目撃する。

 シェルファへと襲いかかろうとしていた何かが魔法陣に誘導され、洞窟の最奥の岩壁にぶつかり、何やら怨嗟の声と共に霧散したのを。



 同時、周囲に漂う薄い紫の霧の濃度が増した気がするが、そんなのどうでもよかった。


 見覚えのない『誰か』なんて無視して、メイドは主人へと駆け寄る。


「おーじょーうーさーまーっ!! 命を捨てるってなんなのできるだけ傷つかないよう努力するって言ってたのになにできるだけでも命捨てなきゃってレベルの問題発生中なのだとしてもお嬢様が死ぬなんて認めるものかそんなの自己満足なのばかあ!!」


「レッサー、って、ちょっ、うぶっ!?」


 ドッバァン!! とそのまま己の痛みには鈍感な主人の腰にタックルを仕掛ける。揉みくちゃとなり、共に地面に倒れて、押し倒す形となったメイドはぐいっと主人の美しい鼻と己の鼻とが触れ合うほど肉薄する。


「お嬢様っ!!」


「レッサーが相手ならここまで近づいても安らぎを覚えはしてもドキドキはしないんですよね」


「何の話なのっ! それよりシロから聞いたのお嬢様また自己犠牲で何かを解決しようとしてるの!?」


「ああ、それは解決しましたのでご心配なく」


「……、へ?」


「この程度であれば『賢者』にもできたはずですがね。といいますか、()()()()()()()()()()矛先がズレた場合は同じ手段で誘導するといったものだったでしょうし。いえ、そもそも貴方、第二王子やら『冥王ノ息吹』なんて脅威と考えていなかった様子ですし。もしや『賢者』が『確実』を確約できなかったのはその先にこそあるのでは? その辺り、どうなのでしょうか???」


 サラリと。

 答え、何やら『誰か』へと問いを発したシェルファ。対して『誰か』は軽く肩をすくめて、


「買いかぶりすぎだ。誘導を『確実』にはできそうにないってので間違いないって」


「…………、それ『は』本当なのでしょうが、ね」


「はっは。怖い怖い。お前、どれだけ見抜いているのやら。まあ、気にするな。言ったろ、気まぐれなりし破滅に沈むか否かだと。ここまで来れば後は気まぐれに左右されるんだし、こちらで出来ることはそうないさ」


 それじゃ俺様はここらで退散するわ、と締めて、『誰か』は洞窟から出て行った。


 キョトンと何のことだかついていけていないレッサーが首を傾げる。が、そう、一つ分かったとすれば、


「お嬢様、死んだりしないの?」


「ええまあ、今のところは。わたくし、まだまだやりたいこといっぱいありますもの。『勢力』だなんだと面倒な問題がようやく解決したというのに、死んでたまるものですか」


「よ、良かったのっ。お嬢様、痛みに鈍感な上に変に思い切りいいから、必要経費だからと自分の命を差し出すなんてしかけないし」


「…………、」


 ……答え(魔法陣)を出すのに失敗した時は他に手段はないからとシェルファ自身も生贄と捧げるつもりだったのであながち間違いでもなかったりするが、珍しく素直に言えば怒られそうだと察しがついたのかシェルファは無言を貫いた。


 と。

 レッサーはこう続けた。


「で、今回はどんな風に拗らせたの? どうせシロ関係で何かあったはずだから、相談乗ってあげるの」


「うっ。どうして分かったんですか?」


「お嬢様、あんな様晒しておいて隠せるとでも思っているの? ほら、何があったか早く話すの」


「……、言われたんです」


 ふいっと。

 押し倒した下でシェルファは身悶えるように顔を逸らし、こう続けた。



「シロに、好きって、好きって言われたんですもの!! そんなの、だって、胸がきゅうってなって、顔がかぁって熱くて、全身がぶるぶるって震えて、とにかくこんなのはじめてで、だからっ、うっひゃうわう!!」



 もう、なんていうか、なんだこれであった。

 詳しくはわからないが、何らかの問題があり、最悪シェルファが命を捨てなければならなかった……らしい。


 そんな危機的状況で、なんだって?

 シロに好きと言われた、だと?


 どこに拗らせる余地があるのか。

 それ、もう、さっさとくっつけばいいのでは、とレッサーは本気で不思議でならなかった。


「覚悟はしていたけど、すっげえ甘ったるい惚気なの」


「あっあれ!? なんでそんなに呆れているんですか!?」


「いや、本当、今更というか、本当もうなの。で、なんて返事したの?」


「…………、できるわけないじゃないですか」


「はあ、なんでなの?」


「だっだって、わからない、んです。だってこんな気持ち初めてで、だって自分で自分を制御できなくて、だっていつだって最適な答えを導くはずの思考回路ではどうあっても無理解しか出てこなくて、だってだって!! この先に踏み込んだら、この未知の先を知ってしまったら、今この関係は壊れるんですよ!? だったら、わかりません。わからないがいいです。そうであれば、目を逸らしていれば、そうすれば少なくとも今のままでいられんですから!! そう、そうです、今でもこんなにも幸せなら、これ以上なんて高望みさえしなければ、それで、そのほうが、だって」


「シロって格好いいの」


 ……、え? と。

 レッサーの言葉にシェルファは愕然と目を見開いた。


「一つ目の異形に真っ向から立ち向かって勝つだなんて本当格好いいと思うの。ねえお嬢様。あたし、シロに告白しようと思っているんだけど、別にいいよね?」


「え、あ……あ、ぅ」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 頑なに目を逸らすシェルファの頬をレッサーは両手で挟み、無理矢理その目を見据える。逃がしたりしない。だって、こんなのは、駄目だ。


「お嬢様、答えるの。あたしがシロを手に入れてもいいよね? それでもいいと、そうなっても今のままの関係で満足できるからこそ今のままを望んでいるんだよね?」


「う、うう」


「答えないなら、それでもいいの。変化を望まず、停滞に安らぎを覚えたまま、あたしにシロが奪われるのを指をくわえて見ていればいいの」


 シェルファが本当に分かっていないならとレッサーは見守ってきたが、分かっていて自分を偽っているなら話は別だ。


 そうやって逃げたって何にもならない。

 シロが己の心と見つめ合い、好きだと答えを見つけたならば尚更だ。


 だから。

 だから!

 だから!!



「いや、です。他のなんだってレッサーにならあげられるけど、シロだけは、やだ、取らないで。わたくし、だって、シロのことが好きなんです! だから!!」



「はい、よく出来たの」


 ふっ、と。

 目元を柔らかく緩めて、レッサーはシェルファの頬から手を離して起き上がる。


 こちらを呆然と見やるシェルファへと、いつもなら完璧に物事を見極めるくせにシロが関わると途端にポンコツになってしまう『ただの女の子』へと、メイドにして友達として寄り添いたいとここまでついてきたレッサーはこう言った。


「あ、あたしシロのこと好ましくは思っているけど、恋愛的には絶対無理なの。ほらシロってどちらかと言えば格好いい系じゃん。あたしの好みって格好いい系じゃなくて可愛い系だから、なの」


「え、え? それじゃあ、さっきのは???」


「もちろんお嬢様の本音を引き出すためなの」


 これでようやく悶々と見守るのも終わりなの、とレッサーが肩をすくめた時であった。


 ぷくう、と。

 シェルファの頬が幼子のそれのように膨らんだ。


「ばか。ばかばかばかっ! レッサー意地悪ですう!!」


「いや、いやいや。元はと言えばお嬢様がそこらの生娘みたいにらしくもなくモジモジしているのが悪いの! 毎度のごとく良い雰囲気からの鈍感合戦見せられるあたしの身にもなるのっ!!」


「なんの話ですかあっ!!」


「この期に及んで自覚なしとかタチが悪いのっ。いいから、さっさと、告ってくるのっ!!」


「うっ。だって、そんな、……断られたらどうするんですか」


「まだそんなことを……好きって言われたんじゃないの???」


「それは、でも、それが恋愛的な意味かはわかりませんもの。わたくしだけ勝手に盛り上がって、シロはそんなつもりじゃなかったら、恋人になんてなれないと突き放されたら、そうなるくらいならやっぱり今のままで……」


「さっきのはお嬢様を試すためのものだったけど、本気でシロのこと好きになる奴だって出てくるかもしれないの」


 びくっ! とシェルファの肩が跳ね上がり、怯えた女の子のように瞳を揺らす。


「想いを打ち明けることもせず、気がつけばどこかの誰かにシロを奪われて、そうなってから後悔するのはお嬢様なの。それは、もう、さっきので十分理解したはずなの」


「……、うん」


「だったらさっさとぶつかってくるの。今感じている恐怖はもしものものだけど、それが現実のものとして襲いかかってくる前に! きちんとシロと向かい合うの!!」


「レッサー……。そう、ですね。そうですね!!」


 ようやく。

 本当にようやく立ち上がり、駆け出すシェルファ。そんな主人の背中を見つめて、メイドは一つ呟く。


「本当世話がかかるお嬢様なの」

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